第42話「レーボリッヒ村と、500年前の物語(1)」 【イラスト/世界地図ver.2】
俺とテオがエイバスを出発する朝。
街の正門には、元々守衛として仕事中のウォードだけでなく、ダガルガも見送りに来ていた。
「小鬼の洞穴の調査結果が分かり次第、テオ宛のギルド便を送るからよ。拠点ギルドが変わったら忘れず教えるんだぞ!」
「OK、ダガルガ! 移動する時は、俺もギルド便で知らせるねっ」
ギルド便は、冒険者ギルド間を結ぶ郵便のようなものである。
各地の冒険者ギルドで集荷した書簡や荷物を、定期的にまとめて運ぶことで、比較的安く相手へ届けられるのだ。
「ダガルガさん、お世話になりました」
「ガハハ、そらぁこっちのセリフだぜ!! 今は調査だの何だので忙しいけどよォ、色々片付いたら俺も加勢に駆けつけるからな! 絶対だぞッ!」
「はい、ありがとうございます!」
ここで俺はウォードへと向き直る。
「あの、ウォードさんも本当にありがとうございました!」
ウォードは「おう」と軽く受けてから、旅立つ俺達の目を見て言った。
「……お前ら、無理すんじゃねぇぞ。死んじまったら元も子もねぇからな」
「はぁいっ」
「気をつけます!」
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エイバスを発った俺とテオは、歩いてトヴェッテ王国を目指す。
目的地までは比較的平らで歩きやすい一本道の街道が通っているものの、この辺りは魔物が発生しやすい地域や山が多く、それらを避けるように作られた街道は蛇行気味となっている。
そのため徒歩でトヴェッテ王国へ向かうには、大人がどんなに急いでも2週間程度はかかってしまうのだ。
今回の旅ではそこまで焦って向かう必要は無い。
ということで、道中の寄り道、休憩や就寝、俺の戦闘訓練なども挟みつつ、余裕を持って3週間程度での到着を目標にしている。
初日は街道に沿ってカルネ山を迂回し、もう少し進んだ所にある『旅人の野営地』にテントを設営。
旅人の野営地は、街道を進む旅人達のために作られた場所であり、街道沿いに所々設置されている。
特に何か設備があるわけではないけれど、魔物が出にくく開けた場所となっているためテント設営に向いており、誰でも無料で利用できる。
ただし治安の悪い地域では盗賊等がよく出現するので、ある程度は自衛しなければならない。
この辺りの街道はそもそもあまり人が通らないこともあって――エイバスからトヴェッテへと向かう者もトヴェッテからエイバスへと向かう者も、基本は船を利用する場合が多いため――、今回はあまり気にする必要はなさそうだが。
徒歩移動とテント宿泊、時々魔物達との戦闘を繰り返し、4日目の夕方。
テオが寄りたがっていた村へと到着した俺達。
その小さな村は、街道を少しそれた所にある。
名前は『レーボリッヒ村』、最近出来たばかりの新しい村だ。
急ごしらえっぽい感じの簡素な木製の柵沿いにしばらく歩くと、同じく木で出来た門が見えてきた。
「あ、テオ!」
「本当だテオだ!」
「テオー!」
「テオ兄ちゃーん!」
門の近くで遊んでいたらしい4人の子供が駆け寄ってくる。
テオは笑って、抱きついてくる子供達の頭をなでる。
「みんなひさしぶりだねー、元気にしてたか?」
テオの問いかけに口々に笑顔で答え、色んなことを喋り出す子供達。
そうかそうかとうなずきながら聞くテオ。
ここで1人の女の子が、やや警戒しながら俺に話しかけてきた。
「ねぇ、お兄ちゃん……誰?」
「えっと……」
急で賑やかな出迎えに戸惑っていた俺は、その問いかけに何と答えるべきか迷っってしまった。
現在の俺は正体を隠し旅をしている最中だ。
この場合、一体どこまで明かすのが正解なんだろう?
ここでテオの助け舟。
「こっちのお兄ちゃんは、俺の友達だよ! な、タクト?」
「あ……ああ。よろしくな」
子供達も「よろしくね」「よろしくー」などと気軽に返す。
そっか……そんなに難しく考えなくてよかったのか……。
何となく、肩透かしを食らってしまった俺だった。