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第38話「戦いの後の、ティータイム」


 小鬼こおに洞穴ほらあなのボスを無事に倒した俺・テオ・ウォード・ダガルガは、戦闘の疲れを癒すべく、ティータイムにすることに決めた。



「今日のおやつは……うん、クッキーにしよ! 確かこの間買ったチョコチップ入りのがあったよなぁ……」

 

 鼻歌混じりで楽しそうなテオが主導となって、ボス部屋の一角に『旅人の絨毯じゅうたん』を広げ、ティーカップやらお菓子やらを並べはじめる。


「ダガルガは、温かい紅茶と冷たい紅茶どっちが良い?」

「温かいのにするぜ!」

「レモン? ミルク? ストレート?」

「ミルクだな。濃い目の紅茶にホットミルクをたっぷり入れて飲みたい気分だ! あ、今日は砂糖いらねぇからな?」

「OK! ウォードは?」

「……ホットを頼む。ストレートで、俺も砂糖は無しで」

「はーい。で、タクトは?」

「えっと……アイスで、レモンもつけてもらえるか?」

「りょ~かい♪」


 テオが魔法鞄(マジカルバッグ)から取り出した茶葉やポットを使い、皆で協力して紅茶を入れていく。





 ひととおり準備を終え、ようやくティータイムが始まった。


 早速チョコチップクッキーに飛びつくテオ。

 静かに紅茶を楽しむウォード。


 そして。



「あ、ダガルガさん、それって――」

「そう、あん時貰った『ローズ印の蜂蜜』だぜ! もったいなくてまだ開けてなかったんだがよ……今日は特別だッ!」



 ダガルガが自分の魔法鞄(マジカルバッグ)から取り出したのは、神託の巫女・エレノイアが紹介状と共に俺へと持たせた手土産の1つ『ローズ印の蜂蜜』だった。


 オシャレなはち薔薇ばらのデザインが描かれた小瓶からホットミルクティーへと、ダガルガは嬉しそうに蜂蜜を垂らして混ぜる。


 しっかり混ざったところで、まずは香りをかいでニンマリ。

 それからゆっくりと口をつけていく。



「……最高だぜ……」



 顔をほころばせるダガルガ。

 その幸せをかき集めたかのような表情に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「ん? タクトもローズ印がほしいのか?」

「い、いいんですか?」

「もちろんだっ! だけどお前、もうシロップ入れちまったろ?」

「あ!」

「それにレモンも」

「はい……」

「そん中にローズ印を混ぜちまうのは……さすがにもったいないぜ」


「…………」



 グラスの中のアイスレモンティーが(うら)めしい。


 これはこれで十分においしく、戦闘で疲れた体に染み渡ってくるのだが……ダガルガがあまりにも嬉しそうに飲むその姿と、ふわっと漂ってくる紅茶と蜂蜜と薔薇が合わさった甘い香りの誘惑は、非常に魅力的だったのだ。




「……だからよ、紅茶をお代わりしてぇ時は俺に言えよ? このローズ印の蜂蜜に合う、最高のミルクティーを作ってやっからな!」

「!! ありがとうございます!」



 このあとダガルガが()れてくれたこだわりの『ローズ印の蜂蜜』入りホットミルクティーは、最高に良い香りで、疲れが吹き飛ぶような至極の一杯だった!





**************************************





「色んな奴と戦ってきたけどよォ、さっきのボスみてぇな強化は初めて見たな!」

「俺もだ。しかもあんなにパワーアップしちまうなんて……」



 一息ついたところで、紅茶片手に先の戦闘について振り返り始める年長組の2人。

 若い頃から冒険者として長年旅をし続けてきたベテラン冒険者の彼らでも、【魔王の援護】スキルが実際に発動する場面なんて見たことも聞いたことも無かったのだ。




「なぁタクト。確認なんだが、このダンジョンは本当に浄化されたのか?」

「はい、そのはずです。ただ……俺の知識が正しければ、ですけど」

「そうか……」


 俺の自信なさげな答えを聞き、ウォードは何やら考え込みはじめる。



 ボスがまとう『闇の魔力』こそが、ダンジョンを生み出す元凶――魔王のしもべという称号および、その称号で解放される【魔王の援護LV5★】【魔誕の闇LV5★】スキルを生みだす元――だ。

 そのため先の戦闘時のように、【光魔術】で相殺する形でボスが纏う闇魔力さえ完全に消し去れば、このダンジョンは闇から解放、つまり浄化される。


 なお浄化されると【魔誕の闇LV5★】――周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくするスキル――も消えるため、魔物の発生率や、発生する魔物の性質などは、ダンジョンができる前の状況へと戻る。

 小鬼の洞穴の場合、元々魔物はほとんど出現しない場所であったため、おそらくその状態へ戻ることになるだろう。




 だが、それはあくまで「ダンジョンの仕組みがゲームと現実で同じであれば」という前提つきでの話。


 架空(ゲーム)現実(リバース)の相違点は多数ある。

 ダンジョン浄化条件に関しても、何らかの違いが存在する可能性だって否めない。





 ウォードがゆっくり口を開く。


「……断言できない以上、念には念を入れるのが最良か。少々時間をおいてから、本当に浄化されたかどうか確認が必要かもしれないな。ダガルガ、お前はどう思う?」

「ま、そのほうが安心はできるよなッ! テオとタクトはどうだ?」

「確かめた方がいいに1票!」

「俺もそう思います。何かあったらいけないですし……」




 ゲームでは、ダンジョンが浄化され元の安全な場所へと戻ると、そこを管轄している冒険者ギルド――小鬼の洞穴の場合は、エイバス冒険者ギルドが管轄――から人々へ『安全宣言』が発表される。


 発表直後、ダンジョン近隣の街の各所では、皆が喜び合う姿が見られる。


 さらに少し時間をおいてから“ダンジョンだった場所”を訪れると、徐々にかつての活気を取り戻していく様子も見ることができるようになるのだ。



 だがもしもダンジョンが完全に浄化されていなかったら……。


 ……安全宣言のせいで、人々の被害が増えてしまう可能性だって否めない。





「決まりだな!! で、どうやって確認するかだが……」



 ダガルガの提案は、ひとまず4人はエイバスの街へ帰還。

 日を改めてから、エイバス冒険者ギルドのギルドマスターであるダガルガが中心となって冒険者達を雇い、改めてちゃんとダンジョンが浄化されたかどうか確認しに来るという内容だった。



「……タクトは世界でただ1人『光の魔力』を扱える者、勇者だからなァ……小鬼の洞穴だけに留まらせるわけにはいかねぇよ!」

「でも、もし浄化されてないって後で分かったら――」

「そん時ゃ、これまで通りやるだけさ!」


「……え?」


「確かによ、カルネ山がダンジョンになっちまったせいでエイバスの街は苦労をしちゃいるが、まだ何とか暮らしてはいけてるのさ。でも世界にはそうもいかねぇ街がたくさんあるみてぇなんだ。ギルドマスターっちゅうことで俺んとこには色んな街から情報が集まってくるからな……だからよォ、もしここの確認作業やら何やらで時間を取られちまうぐらいなら、他の大変な街を先に救ってやっちゃあくれねぇか?」


 時々遠い目をしながら、ぽつぽつ言葉を続けるダガルガ。


「……そうだな。ま、万が一小鬼の洞穴で何かが起きちまったとしても、エイバスには俺もダガルガも、いざってぇ時には駆け付けてくれる皆や冒険者やもいるからよ」

「俺もさんせーい! 世界のみんなは勇者を待ち続けてるからねっ!」



 彼に強く同意するウォードとテオ。




「……分かりました。エイバスに戻ったら、俺、次の街へ旅立つ事にします!」



 皆の気持ちを感じとった俺は、決意を固めたのだった。


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