第37話「小鬼、再び(2)」
小鬼の洞穴10階層、ボス部屋。
新たにウォードとダガルガという2人を仲間に加え、俺とテオはダンジョンボスのゴブリンリーダーへ再び戦いを挑んでいる。
ボスの攻撃を一手に受ける盾役をダガルガが担当。
彼とタイミングを合わせながら、俺が【光魔術】の光投槍でボスを攻撃。
ウォードはボスが召喚したゴブリン達を引き付けて俺達に近寄らせないようにし、テオは弓やアイテムや魔術などを使って全体を援護する。
大きなミスも無いまま、4人はひたすら各自の役割をこなし続けた。
戦闘開始から数十分が経過。
ダガルガは変わらずゴブリンリーダーと剣を交え続けている。
テオの適度な回復のおかげもあってまだまだ余裕そうなダガルガに対し、ダンジョンボス・ゴブリンリーダーは怒りと苦しみが混じった表情。
ゴブリンリーダーを覆う闇魔力のオーラは、かなり薄くなってきたようだ。
おそらく光魔術が効いている証拠だろう。
そんなことを考えつつ、何本目かのMP回復薬をグイッと飲み干す。相変わらずの強烈な味にも、だいぶ舌が慣れてきた。
空いた小瓶を【収納】へと放り込むと、途切れそうな集中力をどうにか奮い立たせ、もう何度目かも忘れてしまった光投槍を発動する。
「……煌めく光達よ、鋭く尖れ。その穂先を研ぎ澄ませ。そして……貫け! 光投槍!!」
――ビュウンッ!
俺が投げた光投槍は加速し、ゴブリンリーダーへと真っすぐぶつかった瞬間、ドッと音を立てて爆発。
悲鳴とともに動きを止めるゴブリンリーダーだが、すぐに攻撃を再開してくる。
ここである変化に気付いた俺は、すかさずゴブリンリーダーを鑑定した。
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名前 ゴブリンリーダー
種族 ゴブリン
称号 ゴブリンの統率者、土の魔物
状態 疲労
LV 5
■基本能力■
HP/最大HP 96/103
MP/最大MP 14/ 24
物理攻撃 36+8
物理防御 27+3
魔術攻撃 11
魔術防御 18
■スキル■
剣術LV3、同族召喚LV3、土特性LV1
■装備■
錆びた剣(物理攻撃力+8)、破れた毛皮(物理防御力+3)、ぼろぼろのマント
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「やっぱり……称号『魔王の僕』が消えてる!」
俺が気付いた変化、それは戦闘開始直後からボス・ゴブリンリーダーが纏っていた禍々しいオーラが見当たらなくなったこと。ゲームではこの闇魔力エフェクトが消滅すれば、ダンジョンの浄化自体は完了となっていた。
エフェクトの目視だけでは不安な場合、【鑑定】系のスキル使用者をパーティに編成しておき、ステータスを直接確認すればよい。
ボスのステータスから『魔王の僕』という称号および、その称号で解放されるスキル【魔誕の闇LV5★】【魔王の援護LV5★】という表示が消えていれば、浄化は完了しているはずだ。
「ダガルガさん! 浄化OKです!」
「まじかッ!!」
俺が叫んで伝えると、斬り合い中のダガルガは目を輝かせた。
「じゃ、倒しちまっていいんだよな?」
「お願いします!」
「おっしゃ!」
ダガルガが短く気合いを入れた。
そして今までの鬱憤を晴らすかのように雄叫びを上げ、ゴブリンリーダーへと派手に斬りかかる!
「どりゃああああああァッ!!」
――ズシャッッッ!
歴戦の猛者ダガルガ渾身の力を籠めた一撃。
そんなものを喰らってしまっては、本来たったLV5であるゴブリンリーダーは、ひとたまりもなく……断末魔の叫びを上げることすらも許されず、パッと瞬時に粒子へ変わり消え去っていった。
ウォードが相手をしていた4体のゴブリン達も、召喚者と共に消滅。
しばしの沈黙。
「……終わった……」
ホッとした俺の声を皮切りに、ダガルガとテオは大きく喜びの声を上げて、ウォードは小さくフッと笑ってから、俺の元へと集まってきた。
大きく呼吸をしてから、皆へと声をかける。
「……皆さんお疲れさまでした! そしてダガルガさん、ウォードさん、ありがとうございました!」
「こちらこそだぜッ」
「いいってことよ」
弾ける笑顔のダガルガ、爽やかな笑顔のウォード。
「テオもありがとう。お前やっぱ支援うまいな!」
「へへっ♪」
照れくさそうに笑うテオ。
「タクトもさー、光投槍ちゃんと使いこなせてたじゃん。練習の成果があったなっ」
「……ああ!」
練習の成果が出て、そしてボスを倒せて。
本当に……本当に良かった。