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第172話「我が心に、猛き炎あり(4)」


 ザーリダーリ火山の狩場『火種の洞窟』にて、俺は1人で精霊王の試練に挑むが、“暑さ”という想定外の難敵に阻まれてしまう。

 そこで俺はもともと習得していた【暑さ耐性】――暑さを軽減できるスキル――のLVを上げて軽減効果を増幅するなど、着々と再挑戦への準備を整えていったのだった。





 スキル【暑さ耐性】のLVが3まで上がったところで、俺は再度試練に挑んでみることに決めた。


 なぜなら一般的なスキルのLVというものは、3ぐらいまでは割と簡単に上がる。だが4以上となると必要熟練値が一気に増え、LVアップが難しくなるからだ。

 確かにLVは上げれば上げるほど安全性は高まるけど、これ以上の時間を食うのはよくないだろう……ここらが潮時だと判断したのである。




 LVアップ当日は準備をしてから早めに就寝。

 しっかりコンディションを整えたところで、翌日の午前中から俺は再び『火の試練の間』の洞窟を奥へと進み始めた。

 なお服装はサウナ実験中に続き、超軽装――戦士の服、革のサンダル、綿の布、勇者の(つるぎ)――。この洞窟ならこれぐらいが適正装備だろう。




「――うん、割と余裕だな」


 流石はスキルLV3。

 洞窟中盤まで進んでも、まだLV1だった初日とは快適度が雲泥の差。


 もちろん(おそらく)割合軽減なので、全く暑さを感じないわけじゃない。だがせいぜいちょっと汗ばむ程度のぽかぽか感。この程度ならむしろ気持ちがいいぐらいだった。





*************************************





 1時間も経たないうちに、洞窟の終わりが見えてくる。

 俺の到着に合わせるかのように、設置された12個の照明魔導具がパッと一斉点灯し、突き当たりの壁を浮かび上がらせた。



 瞬間、俺は目を奪われる。

 その光景はあまりにも美しすぎたのだ。


 道中よりも天井高めな突き当たりは、壁一面全てがレリーフになっていた。

 躍動感たっぷりに彫り上げられているのは、巨大な火の精霊王の姿。

 素人の俺でも見た瞬間に「匠の作だ」と直感できるほどの絶対的な存在感。

 加えて周りをグルッと囲む照明魔導具が、赤く燃える光で彫り筋を浮かび上がらせることで、より神々しさを際立たせている。


 ほぼ自然のままな造形の洞窟には不釣り合いな芸術品。

 これこそが試練のゴールなのである。




 ゲームと同じ状況ならば、この“隠されし美”を目にすることはもう2度とできないだろう……しばし心ゆくまで眺めてから、少々の名残惜しさを胸に仕舞い、俺は頭を切り替えることにした。


「それじゃ、試練をクリアするか……」


 息を大きく吸い込み、静かに吐き出す。それから精霊王のレリーフへと近づいて、中央の魔石へ手をかざし、思いっきり魔力を籠める――





――キラキラ……スゥッ……


 照明魔道具の光が点滅。

 レリーフから飛び出す形で“火の精霊王”本体が出現し、宙へと浮かびあがると、高い天井いっぱいを覆いつくした。1週間前と変わらず赤く燃えるライオンのように凛々しい姿……またもや圧倒された俺は、ただただ息を呑むしかできなかった。



『神に愛されし光の子よ……

 (たけ)き炎を燃やせし者よ……

 (なんじ)の心に、燃ゆる炎の加護を授けん……』



 頭の中へと重々しい声が響き渡る。

 と同時に火の精霊王の心臓から()()()が飛び出した。


 轟々と音を出して燃える炎球は、そのまま俺の前へと飛来。

 ゲームにおけるこのイベントの勇者(プレイヤー)動き(モーション)を思い出した俺が、炎球を包み込むように両手をかざすと――




――ブワッ!


 炎球が力強く燃え上がる。

 両手のひらを通して俺の体の芯へと干渉してくるのは、強烈に熱い魔力の波動。


 次の瞬間、炎球が収束。


 俺の手の中に残されていたのは、灼熱の炎のように輝く真紅の宝石(ルビー)がはめられた美しいブローチ。つまり『火の精霊王のあかし』である。




『我、(たけ)き炎を(まも)りし王なり……

 如何(いか)なる時も、(なんじ)と共に()らんことを……』


 その力強い言葉を最後に、俺の視界がぐにゃっと歪み――。





*************************************





――空間転移(テレポート)


 飛ばされたのは、黒い岩壁で囲まれた20畳ほどの閉め切られた小部屋。

 ゲームと同じくまずは『火の待機所』に戻されたようだ。




「あっタクト! 終わったんだなっ」


 陽気に楽器(リュート)を弾いていたらしいテオが演奏の手を止めた。


「わりぃ。もっと早くクリアするつもりが、1週間も待たせちまって……」

「これぐらいよゆーよゆー! なんか創作意欲がガンガンわいてきちゃってさ~、待ってる間に新曲1つできたんだっ♪」


 リュートの弦をポロロンと得意げに弾いてはしゃぐテオ。

 その音色の断片は、とても軽やかで楽しげだった。


「今度はどんな歌なんだ?」

「ほら、タクトが案内してくれたおかげで、洞窟の仕掛け(ギミック)を解除する瞬間とか、本物の火の精霊王が現れる瞬間とか、貴重なシーンにたくさん出会えただろ? そういうすっごい感動をぜ~んぶ詰め込んでみたんだよねぇ……ま、今夜あたり正式にお披露目してやるさ!」

「おう! 楽しみにしてるぜ!」


 満面の笑みを浮かべた俺達は、どちらからともなく拳をカツンとぶつけ合った。


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