第170話「我が心に、猛き炎あり(2)」
ザーリダーリ火山にて『火の精霊王の試練』へと挑んだ俺だが、最初の挑戦は失敗に終わり、試練のスタート地点へと戻されてしまう。
とはいえ挑戦のおかげで得たものも多かった。判明した情報をふまえて状況を分析し、作戦を練り直すことにしたのである。
「……【暑さ耐性】、か」
必死に考える中で俺が見出した一筋の光。
それこそが、このスキルの存在だった。
スキル【暑さ耐性】は「一定以上の気温で自動発動し、暑さを軽減する」との効果を持つ。最近になって灼熱の暑さに耐えるべく習得したものであり、これ無しでは炎天下が続く道中に耐えられなかっただろう。
だが『火の試練の間』の気温は、想定以上に高すぎた。
発動していた【暑さ耐性】じゃ耐えきれず……俺は意識を失ってしまったのだ。
「でもよく考えたら俺の【暑さ耐性】のLV、たった“1”しかないんだよな……これスキルLVさえ上げられれば、案外いけちゃうんじゃないか?」
確証はないが、確信はある。
なぜならゲームの『耐性系スキル』は、そういうものに他ならないからだ。
そもそも『耐性系スキル』は、“何らかの特定要素”へ耐えやすくなるスキルの総称となる。ゲームでも数多くの種類が確認されており、大まかには2つに分類可能だ。
1種類めは『魔術耐性系』。
特定の属性魔術への耐性となるスキルだ。例えばスキル【火魔術耐性】の場合、【火魔術】による効果を軽減できる。
ただし攻撃術式でのHPダメージだけじゃなく、回復術式でのHP回復含め「全術式の効果を軽減してしまう」という点には注意が必要だろう。
2種類めは『状態耐性系』。
特定の状態異常への耐性となるスキルだ。例えば先日俺が取得した【毒耐性】の場合、状態異常『毒』によるHPダメージを軽減できる。
ゲームではこのあたりのスキルも、さんざんプレイヤーたちによって研究されつくしてきた。こちらは彼らの地道な測定により判明した主な事実だ。
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耐性系スキルの特徴
①効果は原則「割合軽減」で、スキルLV1で対象要素を60%軽減
②スキルLVが1上がると、10%ずつ軽減量が増加(LV5★で100%カット)
③スキルが発動するたびに熟練値が溜まる
④一定の熟練値が溜まればスキルLVアップ
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テオ情報だと、少なくとも【毒耐性】はじめ『状態耐性系』『魔術耐性系』に分類されるスキルに関しては、現実でもこの特徴が見られるとのこと。
さらに現実では、3種類めの耐性系スキルが存在する。
これこそが『環境耐性系』だ。特定の環境要素への耐性となるスキルであり、分類されるものとしては【暑さ耐性】【寒さ耐性】などがある。
一応俺も先日テオに教えてもらってから、念のため攻略サイトの心当たりを隅々まで調べてみたが、「現実で『環境耐性系』に含まれるスキル」は、やはりゲームでは確認されていないようだった。そのため俺は『環境耐性系』に関する知識が心もとない状態である。
でも【暑さ耐性】だって結局は『耐性系スキル』の1種なわけだし、スキルLVを上げられさえすれば、もっと暑さを軽減できると思うんだ!
「となると問題は『スキルLVをどう上げるか』ってことだが……ま、俺の予想が正しければ、“このやり方”で効率よく熟練値を溜められるはずだ。何にしても試してみる価値は十分あるぞ!」
方向性は固まった。
あとは、実践あるのみだ。
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約3時間後。
思った以上に苦戦したが、“仮説”をふまえた俺の“仕込み”がようやく完了した。
装備は思い切って軽装に一新。
服は『戦士の服』。
ル・カラジャの「暑くても過ごしやすい布服」特化の専門店にてオーダーメイドで作ってもらった布服だ。見た目は地味ながら、耐久・防汚・消臭・速乾加工が施された良品である。
足元は『革のサンダル』。
宿の自室用に常備してるアイテムで、最近履いてる山歩き用の『登山者のブーツ』に比べて解放感が半端ない。
首には『綿の布』を掛けている。
ちょっと厚めの手ぬぐいみたいな形状だから、汗をかいてもすぐ拭けるぜ!
「ってか今の俺、どう見たってレトロな銭湯に行く時の服装だぞ」
ふと気づいて、思わず苦笑。
違和感といえば腰に『勇者の剣』を差してることぐらいか。こいつは他の装備と違って絶対に【収納】に仕舞わせてくれないからな。
これでシャンプー入り洗面桶でも持ってたら完璧だったよ……。
……ま、今回の俺の計画も、ある意味似たようなもんだけど。
さっきまでの「いかにも剣と魔法のファンタジー的なミスリルメイル装備」とは大違いだし、神聖なる精霊王の試練挑戦中の服装としてTPO的にどうかと思う。
しかし色々考えた結果、この格好が1番最適との結論になったのだ。
何たって試練の間は魔物が出そうにない以上、攻撃面や防御面に気を遣っても意味がない。だったら極限まで薄着にして、暑い中でも歩きやすいほうがよっぽどいい。
まぁ万が一魔物に襲われても、腰の剣さえ抜ければどうにかなるしな。
「じゃ行くか」
念のため水筒でグビッと水分補給してから、俺は再び洞窟の奥へと進み始めた。
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しばらく歩いたところで、いったん足を止め、首にかけた布で汗を拭う。
「暑ぃ……でもこれぐらい暑いほうが、今回はちょうどいいぜ」
俺はニヤリと笑うと、“さっき【生産空間】で作ったばかりの道具一式”を【収納】から取り出し、組み立て始めた。
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●足つきの板っぽい形の衝立×2
●シンプルな1人掛けの木製椅子
●取っ手つきの小型桶魔導具
●一般的な家庭用サイズな湯舟魔導具
●シンプルな木製長椅子
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まずは衝立で洞窟を仕切り、簡易的な小部屋を作る。
木製椅子と桶は小部屋内の壁際へ、湯舟と長椅子は小部屋外に配置。
湯舟魔導具の魔石に、魔力を流しこんで、いい感じに適量の水を溜める。
同じ要領で桶魔導具にも水を溜め、小部屋内の適当な岩へ少し水をかけると――
――ジュワッ……
厚い岩に熱せられた水が蒸発し、小部屋にうっすら広がった。
洞窟の自然な熱気を活かした天然サウナの完成である。
「お、いいねェ~~!」
割と理想通りの仕上がりに、自然と笑みがこぼれだす。
よくよく見るとちょっと細部がガタガタしてたり不格好だったりな素人仕事なんだけど、最低限必要な機能は稼働してるし、即席で初めて作ったにしては100点だ!
設置が終われば、あとは実際に入るだけ。いそいそ服を脱いで、一応腰に布を巻くと、俺は熱気あふれる室内の木製椅子へと腰かけたのだった。