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第164話「火種の洞窟、火の試練(4)」


 俺とテオは、ザーリダーリ火山の狩場『火種の洞窟』を訪れた。

 隠された仕掛けを発動した先で、精霊王から試練を受諾。2人そろって『火の待機所』へと飛ばされたのだった。



 状況を確認し終えたところで、俺は待機所の岩壁に目をやる。

 壁の一角には陣っぽい模様が彫りこまれ、中央に大きめの魔石が1つ埋め込まれていた。明らかに意味ありげなこの石こそ、おそらく“試練開始の鍵”となるはずだ。



「じゃ行ってくるぜ」

「いってらー♪」


 余裕な笑顔のテオに見送られつつ、俺は魔石に手を触れ、魔力を籠める――





*************************************





――本日2回目の『空間転移(テレポート)』。


 ただし今度はテオの姿が見えない。

 俺1人だけが飛ばされた形だ。




「……あ、やっぱり『火の試練の間』に来たか」


 先の待機所と同じく岩だらけの洞窟内だが、地形が全く違う。


 俺がいるのは何もない突き当たり。

 そこからただひたすらに、岩に囲まれた細い1本道だけが延びているのだ。

 こっちの地面にも、ぽつりぽつりと明かりの魔導具――待機所と同じ形のもの――が埋め込まれているので、引き続き魔術などで光源を用意する必要はない。



「ゲームで見た通りの場所……ってことは、試練内容も“同じ”だろうな」



 先ほど火の精霊王が試練に関し発言したのは、「ひとつの試練を与える」「証明せよ」「(なんじ)の心に、(たけ)き炎が()ることを」、たったこれだけ。

 もしゲームと同じなら、この後もヒントらしきものは特にないはず。


 全くもって不親切な設計だが、それはそれで問題ない。

 なぜなら検証で判明した「()()()()()()()」は――



――この1本道の()()を、最後まで()()


 ただ、それだけ。

 道中に何か出現するわけでもなく、本当にただ(現実に換算して)数百mほどの通路をずっと歩き続けるのみなのだ……こんな簡単な試練、むしろ失敗しようがないんだが。


 もちろん他属性の試練はもっと大変で、ここまで難易度が低い試練は火属性のみ。俺が「まず試しに火の試練へ挑戦しよう」と真っ先に考えた理由はここにある。




 なお「精霊王の試練のうち、火の試練だけが簡単すぎる」というのは、ゲーム『Brave(ブレイブ) Rebirth(リバース)』における謎の1つとされている。


 攻略サイトでも数多くの議論がなされているが、そもそも精霊王関連の情報自体が少なすぎることもあって、いまだ結論が出ていないようだ。


 今のところ有力な説は「1人きりで外部から遮断された狭く薄暗い通路を歩き続けるのは猛き心(勇敢さ)の証になる、と精霊王が判断したから」あたりだろう。

 他には「火の精霊王は、勇者ってだけで加護を与えたくてしょうがないんじゃ?」「発見困難な火の祠を見つけられた段階で、気持ち的には合格扱いなのかも」など、“火の試練は形式上やってるだけ説”あたりもそこそこ有力かな。




「……何にせよ、実際に試練を受ける身としては、試練は簡単なほうがありがたいよな。本当に試練内容がゲーム通りかはまだ分からないけど……ま、この状況じゃ先に進んでみるしかないか」


 俺が現在いるのは『試練の間』のスタート地点にあたる場所だが、特別なオブジェがあるわけでもなく、“何の変哲もない洞窟の行き止まり”にしか見えない。ここに留まり続けるメリットは無いだろう。



 いくらこれまでが架空世界(ゲーム)と同じだからといって、この先も同じ仕様だという保証はない。他属性の試練のように、途中から魔物が飛び出してきたり、急に変なトラップが発動したりなんて可能性も十分に考えられる。


 しかも試練では全てを俺1人で対処しなきゃならないわけで。

 いつものようにテオに頼れないこともあり、警戒は怠るべきじゃない。


 俺は今一度、気を引き締め直すと、周囲に注意を配りつつ歩き始めた。





*************************************





 試練の間は、ただただ単調な一本道の洞窟だった。

 道中で魔物達と出会うこともなければ、不意に罠が発動することもなかった。


 おおむね想定通りであったのだが……歩き始めてまもなく、たった1つだけ()()()()()()()が発生した。


 それは――








「なんか、やたら(あち)ぃぞ……」


 スタート地点から歩き出して、まだ数分も経ってないのに、既に汗がダラダラ吹き出している。

 汗をかくっていう感覚自体がひさしぶりだ……先日【暑さ耐性】スキルを習得してから、体感温度的にはずっと快適な旅が続いてたからな。





 ――()()



 もともとザーリダーリ火山を含むこの大陸一帯は、世界の中でも非常に高温多湿な熱帯である。だからこの地に住まう人々は、暑さと共存しつつ、独自の文化を発展させてきた。

 架空世界(ゲーム)では“そういう設定(フレーバーテキスト)”と割り切ってたし、戦ったり移動したりする上で、暑さ・寒さなんて考える必要は全くなかった。


 だが現実世界(リバース)ではそうもいかない。

 実際、俺はこの大陸に来た翌日、暑さにやられて倒れてしまった。

 そこでテオと相談しつつ、すぐに【暑さ耐性】――暑さを軽減できるスキル――を習得したし、装備だって見直して暑さに強いアイテムばかりを揃えたはずだ。


 本当に【暑さ耐性】は優秀だった。習得後どこへ行っても、せいぜい“ぽかぽか暖かくて心地よい”しか感じない程度まで暑さをしっかり軽減できていたのだ。




「……ってか【暑さ耐性】で軽減して()()かよ……やばいな……」


 少なくともスタート地点はここまで暑くなかったはずだ。

 先へ進めば進むほど暑さが増してるような気がするし、なんなら、頭もくらくらしてきたような……




 ……あ。

 いったんもどらねぇと……まずい、かも――




 気づいた時は既に遅し。

 ぶわっと視界が(かす)むや否や、俺の意識は暗闇へと落ちていったのだった。


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