第161話「火種の洞窟、火の試練(1)」
ニルルク魔導具工房長ネグントを村へと送り届ける護衛も兼ねて、俺たちはザーリダーリ火山へと戻ってきた。
ふもとの宿場町の騒動が色々立て込んだ関係で終わってなかった用事のうち、まずはネグントと約束していた研修を済ませた。
丸1日かけて「アイテム生産に必要な生産系スキルの基本」を伝授してもらったことで、今後の課題も色々見えたし、とても有意義な時間だったと思う。
その翌日。
“火山での最後の用事”を片づけるべく、俺とテオの2人は山の中腹にあるニルルク村を出発。ところどころに残る銀色の柵をガイドとしつつ、道なりに山頂方面へと向かった。
ザーリダーリ火山に2つある登山道のうち、俺たちが進んでいる東側登山道は、冒険者が登ることを想定して作られた上級者向けのルートだ。
山中に点在する狩場のうち人気のいくつかを結び、最終的には山頂へと到達する道であり、先日のダンジョンボス・フレイムロックバード討伐時にも1度往復済である。
だが今回の俺たちの目的地は山頂ではない。
というわけで、頂のだいぶ手前で登山道から外れ、テオと協力しながら、事前に攻略サイトで予習しておいたルートを進んだ。
明らかに危ない地面を迂回しながら、時には登り、時には下り。遭遇する魔物もさばきつつ慎重に歩いていくと、お目当てらしき場所に到着したのだった。
黒い山肌にぽっかりと待ち構える洞窟。
自然に出来たらしい穴のサイズは、大人が3人ほど並んで通れるぐらいとそこそこ大きめと言えるだろう。
入口前で立ち止まると、すかさずテオが聞いてきた。
「なーなータクト、ここって『火種の洞窟』だよ? 場所間違えてない?」
「大丈夫。この洞窟で合ってるはずだ」
「さっきも言ったけどさー、俺が昔ムトトたちに連れてきてもらった時、タクトの言ってた“祠”なんてのは見当たらなかったけど」
「だろうな。まぁ行けば分かるはずだぜ……光よ集え、光球」
俺は言葉を濁しつつ、他の冒険者の姿が周囲にないことを確認してから、【光魔術】で明かりを作る。
念のため外から洞窟内の様子を伺った後、テオと共に足を踏み入れていった。
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ザーリダーリ火山内には、ダンジョン化前から「レア素材が手に入る狩場」として冒険者から人気な洞窟がいくつも点在していた。
だが全ての洞窟が注目されていたわけではない。
冒険者が集まりやすいのは条件の良い狩場に限られるからな。
そしてこの『火種の洞窟』は、はっきり言って“ハズレ”扱いな場所である。
事前に冒険者ギルドで情報収集した際、「昔から『火種の洞窟』には人が寄り付かないし、来てもよっぽどの物好き」とされていたし、ゲームでも同様の状況だった。
まず登山道から離れている。
ザーリダーリにおける登山道というのは比較的安全性の高い場所を結んだルートなんだが、裏を返せば「登山道から外れると危険」ということ。今回ここに来るまでの道中も、見るからに崩れそうな斜面をはじめ、一歩間違えば命を危険に晒しかねない場所もあったしな。
しかもそんな危険に見合うだけのアイテムを入手できるわけじゃない。
もちろんそれなりのランク素材はドロップするのだが、火山内の狩場は『火種の洞窟』だけじゃない。他の洞窟とドロップ品が変わらないのに、わざわざ危険を犯して来るまでもないというわけで。
ちなみにテオが「前に連れてきてもらった」というのは、ニルルク村の定期調査に同行した時のことだそうだ。
ニルルクの民の使命は“火山の守護”である。
その一環として、5年おきに火山内に異変がないかの調査を進めており、この洞窟内も例外ではないらしい。これは村の者だけに代々受け継がれている極秘の風習とのことで、ゲームでは聞けなかった情報だ。
以前テオが長期滞在した際がちょうど定期調査の周期だったこともあって、なんやかんや同行させてもらう流れになったらしい。
ニルルク魔導具工房の作業場――本来は部外者立ち入り禁止の施設――へ普通に入室許可をもらってただけでもすごいのに、極秘の定期調査にも同行させてもらってたとか、テオって本当にニルルク村に馴染みまくってるよなぁ……。
……まぁ、おかげで色んな話がトントン拍子に進んだから、俺としてはものすごく助かったけど!
さてさて今回の俺たちが、そんな“ハズレ”とされる『火種の洞窟』をわざわざ選んで訪れたのには、もちろんちゃんとした理由があった。
ということで、この火山地帯の洞窟によく生息する魔物の岩蝙蝠や石蜘蛛などを確実に葬り、ついでにドロップアイテムも拾いながら、俺とテオは洞窟の奥へと進んでいく。
もともと不人気の狩場な上、まだダンジョン浄化直後ということもあってか、他の冒険者の姿は見えないのはありがたかった。他の人がいたら、正体バレのリスクを考えると【光魔術】は使えないからな。
「……タクト、ここ突き当たりだよ?」
最奥まで来たところでテオが首をかしげる。
前方には何もない壁。ある意味、当然の反応である。
「まぁ見てろって。この辺のはずなんだが…………お!」
キョロキョロ辺りを見回したところで、俺は思わず笑みをこぼした。
黒い岩の天井からポコッと飛び出た小さな突起。
何も知らない者が見ても、きっと気にも留めないだろう。
だがこれこそ、俺の探し求めていた目印なのである。
「光よ集え……そして貫け、光矢」
その突起めがけ俺が魔術をぶつけると――
――ゴゴゴゴゴ……
壁の一部が開き、新たな通路が現れたのだった。