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第159話「勇者のお仲間、選抜します(7)」


 様々な思惑を背負いつつ、予定通りに開催された勇者同行者選抜大会。

 その勝敗は、なんと一瞬にして決まってしまった。



 呆気に取られ、ただただ静まり返る一同。






 ……数秒後。


 場内は()()()()であふれかえった。




 何より怒り狂ったのは、試合に参加した冒険者たちだろう。


「――こんなのズルいだろ?!」

「認めるもンか、やり直しだやり直し!」

「おいッ腰抜けローブ野郎! 正々堂々勝負しろよッ!」


 少し前まで戦場(リング)だったはずの地面から、優勝した黒ローブ男に掴みかかろうとする者もいた。

 だがいち早く事態の収拾にあたった運営者側スタッフ――大会当日は、参加者とは別に腕利きの冒険者がスタッフとして雇われていた――に静止される。


 まぁそりゃ怒るよな……。

 参加者たちの大半は勇者の仲間に加わるべく、時間とお金をたっぷり割いて遠路遥々この町を訪れている。にも関わらず、たった一瞬でリングから落とされてしまったのだから。

 もし仮に、自分たちの実力を遺憾なく発揮しての結果なら大半は黙っただろうが、こんな試合じゃ誰だって納得できるわけがない。



 観客たちも面白くない様子である。

 彼らは「勇者の新たな仲間」が決まる瞬間を観に来たわけだが、それさえ見られれば満足するわけじゃない。

 各地の猛者が集う武闘大会観戦というのは一種のエンターテイメントだ。肩透かしで終わったこの状況は、彼らにとっても不満しかないと言えるだろう。





 想定外の事態をふまえ、運営では緊急協議が行われた。

 間もなくアナウンスされた結論は――



――優勝者、変更なし。


 運営は「彼はルールを破っていない」と判断したのだ。

 もちろん黒ローブ男の勝ち方は、正攻法とは言いづらい。しかし姑息な手も数多く使う闇の魔王や魔物達と戦う以上、逆に彼のような変化球を持った戦士のほうが活躍できる可能性もあるのではないだろうかというのが言い分だった。


 とはいえ結果に納得できない参加者や観客が数多いのは否定できない事実。




 そこで急遽。

 選抜大会とは別途『武闘大会』が即日に開催されるとアナウンスがあった。


 間もなく町の職人たちが立派なリングを新設。

 運営により、新たなルールも発表された。

 今回は1対1のトーナメント制のため、少なくとも先のように一瞬で終わる心配はない。多くの観客たちの観戦欲はこれで満たされることだろうと。


 参加資格は先の選抜大会に参加していた冒険者全員に与えられた。

 もちろん「勇者パーティに加入できないんじゃ意味がない」と辞退する者もちらほらいた。だが大半の冒険者はそのまま参加を希望する。

 新たな武闘大会の優勝賞金&参加賞が異常に豪華だったことも背景にあるだろう。特に優勝賞金は普通の冒険者なら数か月分の報酬となる金額であり、「破格すぎるだろ!」と参加者たちをざわつかせたのだった。





*************************************





 一瞬にして終了し、波紋を呼んだ選抜大会の試合。

 その結果を受けて()()決まった武闘大会発表のアナウンス。


 ここまでを観客席で見届けた俺とテオは、武闘大会を観戦することなく冒険者ギルドへ移動。ギルドマスターの許可を得て借りた応接室にて、()()()()を待っていた。



「……なかなか来ないねぇ」

「確かに予定よりは遅れてるが、まぁ()なら心配ないだろ」

「だな! あっ、そういえばさっき見かけたんだけどさ~……」


 ちょっと高級な茶葉で淹れた香りの良い紅茶と、テオがル・カラジャで買ってきたパリッと食感な木の実の焼き菓子をのんびり味わいつつ、とりとめのない雑談を続けていると。






――キィ……


 応接室の扉が開き、入室してきたのは。

 黒いフードで顔をすっぽり隠した黒ローブの男。


 そう、先の選抜大会の()()()である。





 室内を見渡し、俺たち2人だけなのを確認してからフードを取る男。

 鋭い目つきは崩さぬまま、不敵な笑みを浮かべた。


「……万事、計画の通リに進行しタナ」


 ニルルク魔導具工房の長で、栗鼠(リス)型獣人のネグント。

 先日、俺が「条件次第で確実に優勝できる」と推薦したのは彼だったのだ。




「ネグントさん有難うございました!」

「ほんとありがとー! もうすっごい活躍だったよねぇ……えっと、ネグントも紅茶でいい?」


「あア……ストレートで頼ム」


 と手前のソファにドカッと座るネグント。

 テオはいそいそと器具を取り出し、新たな紅茶を淹れ始めた。




 4日前、選抜大会についての会合の時。

 話し合いが煮詰まる中で、俺が必死に絞り出した作戦は「『リングの上に最後まで残った者が勝ち』というルールのもと、『戦闘中に生産系スキルでリングを作り変える』ことで、強制的に1人勝ち状態を作る」というものだった。


 いわば騙し打ちに近いこともあり、確実に勝つなら1回しか使えないだろうな……ということで、『全員参加バトルロイヤルの1回勝負』という条件を加え、さらに作戦の成功率を高めたのである。



 本作戦に何と言っても欠かせない人。

 それこそ「生産系スキルの達人」だった。


 元々これは、先の火山ボス戦でのネグントの立ち回りから思いついた作戦ということもあって、俺とテオは会合が終わった後、すぐに火山のニルルク村へ戻ってネグントに打診。快く引き受けてもらえたことにより全てのピースが揃ったというわけだ。




「……はいどーぞ!」

「うム」


 ネグントが差し出された紅茶を一口飲んだ頃合いを見計らい、俺は話を切り出した。


「それにしても今回は、ネグントさんに引き受けてもらえて助かりましたよ」

「だねぇ。あんなに正確に早く広範囲のリングを作り変えるとか、ほんとすごかったぜっ!」

「そんじょそこらの職人じゃ無理でしょうし……ネグントさんだからこそ実現できた神業だと思います!」


 口々に褒める俺とテオ。

 俺たち2人に軽く目をやると、ネグントは話を続ける。


「……ふン、あノ程度は朝飯前ダ。まアこノ宿場町が壊滅すれバ、今後ノ我が村にモ影響するからナ……それに今回の件デ、僕はこノ宿場町に多大な恩ヲ売り付け、十分な報酬ヲ約束されタ。これデ、今後ノ我が村の復興が早まれバ、我々ニルルクの民ノ利益にモ繋がルはズダ」

「ほんとネグントはちゃっかりしてるよね~」

「労働に見合ッタ()()を要求しタまデ……いわバ当然の権利ノ行使だナ」


 とネグントは、満足そうな表情で木の実クッキーをかじったのだった。




 彼が言う()()とは「今回の大会で優勝し、かつ“ヤラセ”を公言しない」かわりに、宿場町に対してネグントが要求したものである。


 詳しい内容は俺も聞いていないのだが、「崩壊した建物の建築資材や生活物資など、ニルルク村の復興に必要な物資の一部を届けてもらうこと」、「当面、必要に応じて優先的に冒険者を斡旋してもらうこと」等を約束してもらったらしい。


 町長もギルドマスターのビエゴも即答でOKしながら男泣きで感謝しまくっていたあたり、たぶんそこまで無茶な条件じゃなかったんだろう。

 ネグントも“十分な報酬”って言うぐらいだし、お互いWin-Winの関係ってやつで丸く収まったっぽくて……俺としてはホッと胸を撫でおろしたのである。





*************************************





 なお、後に聞いた話。

 武闘大会はおおむね大盛況のうちに幕を閉じることとなったらしい。



 参加者や観客からは「大会を運営した冒険者ギルド火山支部&宿場町を絶賛する声」が多く上がったという。


 試合が即終了するという“不測”の事態にもかかわらず、“機転”を利かせて『武闘大会』を“急遽”開催。

 しかも“即席”の割には超豪華な賞品が用意された上、“詳細を当日決めた”とは思えないほど運営がスムーズで素晴らしかったのだと……。




 ……だがここだけの話、実際は4日前に俺がネグントの起用を提案した段階で、この流れは全て運営側と俺たちでカッチリ決定済みだった。

 大会の賞品が豪華になったのも、大会参加者&観戦者の滞在費用で儲かることを見越した町側が、収益見込みの一部を少しずつかき集めまくってどうにか実現したらしい。


 てなわけで実際は、“不測”でも“急遽”でも“即席”でもなんでもなく、ただの予定通りの進行だったんだけどな!


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