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第146話「山頂に巣食う、焔岩鳥(2)」


 引き続きダンジョンと化したザーリダーリ火山。

 遭遇した魔物を確実に討伐しながら歩いていくと、先頭の2人が足を止めた。


「……(じき)に山頂に到着すル」

「くれぐれモ注意しロ」


 熊と猪の大型獣人2人組が、声を殺しつつ指し示したのは、前方におぼろげながら見えている“特大の塊のような物体”だった。



「ってことはもしかしてあれが?」

「ダンジョンボスの住処だな」

「うム……」


 山頂方面を見据えつつ、テオと俺とムトトも抑えた声で言葉を交わす。


 ザーリダーリは火山が丸ごと闇に飲み込まれて形成されたダンジョンである。

 その闇魔力の中心こそが頂部分であり、一帯の岩場がそのままボスモンスターの居住エリアとなっているのだ。



「おイ勇者。作戦通リ、こノまま突入していいのカ?」


 工房長ネグントの質問を受け、俺は「そうですね……」とつぶやきつつ、改めて状況を確認し始めた。





 本来のニルルク村に残っていた村人達はこの3年間、基本的に工房作業場に籠ってはいたものの、究極魔導炉(アルティマストーブ)を修繕するかたわらで火山ダンジョンの情報取集も地道に続けていたという。


 彼らが集めた情報や、俺達が事前に仕入れていた火山関連情報――冒険者ギルドで無料公開されているダンジョン情報――、実際に火山に入ってから目にした登山道伝いの光景は、出現する魔物の種類や地形(MAP)も含めてゲームとほぼ変わらなかった。


 ここから見る限り、山頂の様子もゲームのそれと同様だ。辺りに広がる霧のせいで多少見通しが悪いものの、【気配察知――周囲に生き物や魔物がいるか知れるスキル――】で関知できる情報も含めて、そこまで大きな想定外は無さそうな気がする。




 パーティメンバーのコンディションも良好だ。


 ニルルク村から休みなしで進んできたが、ここまでの戦闘は安定していて怪我らしい怪我もしていないし、わずかに積もった疲労はさっきアイテムで解消したばかり。

 魔術をほとんど使っていないから、MPを回復する必要もない。



 急きょニルルク村の面々がボス討伐に加勢してくれたことで、予想外に戦力強化もできた。

 道中の大型獣人2名の活躍を見る限り、この地での実戦経験も豊富な模様。頼もしい即戦力だと言えるだろう。


 今日初めて組んだ即席パーティだし、ネグントの実力は不明だしってことで、全体の連携面には少し不安が残るっちゃ残るけど…………うん。ここまでの道中の凄まじい安定感を踏まえると、“ただの俺の取り越し苦労”で終わりそうな気がするな!





「……俺としては問題ないと思います。皆さん、このまま突入ってことでいいですか?」


 小声で同意する一同。

 俺へとまっすぐ向けられた彼らの瞳は、静かな闘志で燃え上がっていたのだった。





**************************************





 岩だらけの坂道をもう少し登ると、ここまで俺達を導いてくれた銀色の柵の残骸の切れ目が、登山道の終わりを示した。


 目の前には、道中と同じく黒い岩で覆われ、薄っすら灰色の霧が広がる開けた岩場。

 そのちょうど中央あたりには、岩を積み上げるようにして天然の黒いオブジェが形成されている。


 ……誰からともなく顔を見合わせ、大きくうなずいた。

 各々が武器を構え直し、必要スキルを確実に発動してから、打ち合わせ通りの隊列で戦場へと進んでいく。




「来るよッ」


 短く叫ぶテオ。

 全員が素早く腰を落とし防御の姿勢(しゃがみガード)をとったところで――。




――ビュオゥッ!!




 悲鳴のように空気を震わせ、()()()()()()()が俺達の頭すれすれを(かす)めて通過。

 猛烈で高温な瞬間突風に何とか耐えきってから、俺は急いで辺りをキョロキョロ見回す。




「……良かった、全員無事みたいだ」


 ほっと胸をなでおろす俺。


 正直さっきの最初の1撃目は、ゲームでも回避難易度が鬼だった。冒険者ギルドの事前情報で「現実でも開戦時に同じ攻撃がある」と知ってから、現実の本番でも避けられるかどうか内心ドキドキしてたんだよな……。






「タクト! 油断すル(すき)は存在せぬゾ!」

「あ、はいッ!!」


 ムトトの呼びかけで我に帰った俺。

 慌てて身構え直すと、上空を旋回気味に移動する巨大な赤い鳥が目に入った。

 さっき俺達の頭を狙うように飛来した物体の正体であり、当ダンジョンのボスモンスター『フレイムロックバード』だ。



 両翼は、めいっぱい広げた状態で20m近くあるだろう。鳥の中では随分と骨太な部類で、明らかに重そうな体を支えるためか、全長の割に翼はかなり大きめだ。

 岩のように固くゴツゴツした肌は、ほんのり燃える淡い炎を(まと)い赤みを帯びている。その姿は、まさに“焔岩鳥(フレイムロックバード)”だと言えるだろう。


 さらに全身をちらちら包む不穏な黒いガスが、この魔物こそがダンジョンの元凶であると主張しているようにも見える。





 何度か旋回したところで、フレイムロックバードが滞空姿勢に切り替わった。

 ここでどうやら、ようやく(勇者)の存在に気付いたらしい。



 ボスの全身が一瞬にして灼熱色に燃え上がる。

 と同時に俺達を襲ったのは、ダンジョンボス固有スキル【魔王の援護LV5★】発動に伴う衝撃波。


 岩のオブジェを中心に強く渦巻く空気の震えは、まるでちょっとした竜巻だった。

 山の頂上で飛ばされたが最後、一巻の終わり間違いなし。地面から引きはがされないよう、俺達は必死に岩場を踏みしめ続ける。



 衝撃波が収まった時、フレイムロックバードの体を覆っていた黒いガスは、黒と紫の禍々(まがまが)しいオーラへと変化していたのだった。




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