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第124話「昼行獣人族自治区画と、分裂したニルルク村(3)」


 この大陸最大の都市『ル・カラジャ共和国』内に移転した『ニルルク村』を訪れている俺とテオ。指定された魔導具工房の受付で「ムトトに会いたい」と伝えたところ、すぐに呼んできてもらえることとなったのだった。





 ガラスケースに飾られたサンプル魔導具の数々を眺めながら、俺達が受付ホールで待っていると、割とすぐに先程の兎型獣人の女性店員が戻ってきた。


「お待たセッ! ムトトに『受付ではなんだから、第5作業場に連れてこイ』て言われたヨ。私が連れてくから、2人ともコチラにおいデ!」


 クルッと(きびす)を返して女性店員は再び軽やかに扉を出ていった。



「……え! 作業場って普通、部外者立ち入り禁止だよな?」

「そーだよ」


 驚く俺に、テオが涼しい顔で答える。



 製作依頼等の商談を行う各工房の受付には誰でも入れるのだが、『企業秘密を守るため』という理由で、各工房の作業場は部外者立ち入り禁止となっているのが普通。

 それはゲームでも共通で、世界を救う勇者(プレイヤー)だって例外ではないはずだ。



「俺達みたいな部外者が入ってもいいのか……?」

「いいって言ってるからいいんじゃないかな。ほら、いくぞー」


 歩き出すテオ。飲み込めないながら俺も後についていく。



 俺達を廊下の奥へとを案内しつつ、女性店員は建物1階の間取りを軽く説明する。


「この階の受付以外の部屋は、ニルルク魔導具工房の作業場になてるネ。入口近くの場所から、第1・第2・第3・第4・第5て呼んでるヨ。テオも知てるとおり、村の移転前は工房も広いワンフロアの建物だたけど……さすがにココじゃ、そもいかないからナ。で、第5作業場はここヨ! 扉の鍵あけるんで、ちょと待ててネッ」




 女性店員は『ニルルク魔導具工房/第5作業場』と書かれた最奥の部屋の前で立ち止まり、ゴーグルを額からおろし目に装着した。

 すると扉前の空中に、ほんのり赤く輝く魔法陣が浮かび上がる。


 まるでパスワードでも入力するかのように、彼女が両手の指を器用に使って、複雑な模様を素早く魔法陣に描き加えると、扉のほうからカチャッと音が聞こえた。




「どゾ!」


 女性店員はゴーグルを額に戻し、あどけない笑顔で俺達を室内へとうながす。


「入るよー」

「失礼します」


 遠慮なく入室するテオに続いて、俺も中へ足を踏み入れた。





 女性店員が開錠していたこの作業場の大掛かりなロックは、部外者の侵入を防ぐための仕掛けだ。

 認証された人物がゴーグルを装着した場合のみ魔法陣が展開。ゴーグルで見える正解追加模様(パスワード)の描き加えに制限時間内に成功した場合のみ開錠できる。


 魔法陣タイプのロックは高額だが、毎回正解追加模様(パスワード)が変わる上、対応する魔導具ゴーグル・認証された個人が揃わないと開錠できない仕組みであり防犯効果は非常に高い。

 そのためこういった工房をはじめとする機密だらけの施設では、魔法陣タイプのロックを採用しているケースが多いと言われている。




 ゲームでは各工房の作業場の中に入るには、基本的に工房ごと買い取るしかない。


 だが自分たちの技術に人一倍こだわりと誇りを持つニルルク魔導具工房は、いくらお金を積んでも買い取らせてもらえないことから、プレイヤーは誰もこの工房作業場の内部構造を知らないのだ。



 ということで、現実はもちろんゲームでもニルルク魔導具工房の作業場へ入るのが初めてな俺は、実はすごくワクワクしていた。


 世界有数の魔導具職人が集まるニルルク魔導具工房の作業場は、いったいどんな場所なのだろう。もしかしたら、これから習得予定な生産系スキルを使いこなすためのヒントが得られるかもしれない。


 そんな期待に胸をふくらませる俺が目にしたのは、作業場という響きとは余りにもかけ離れ過ぎている、ガランとした部屋だった。




 広さ30畳ほどの第5作業場の中は受付同様、天井や壁には謎の配管や魔導具らしき物体が張り巡らされており、床には古びた金属パネルが敷き詰められていた。


 部屋中央で目を引くのは、細長い箱を互い違いに角度を変えて天井まで積み上げた、斜め積みのジェンガのような塔。箱には1つ1つ、何やら小さく文字が書かれているようだ。


 だがそれ以外は何も見当たらない。

 そして誰もいない。


 他の多くの工房と同様に作業机や製作途中の魔導具などが所狭しと置かれていたり、多くの職人達が作業をしたりしている様子を想像していた俺は、口をポカンと開けて部屋の中を見渡してしまった。

 




「遠路はるばる、よく来たナ!」


 優しく通る低い声と共に、部屋の奥の扉が開いた。



 現れたのは、工房の他の面々と同じユニフォーム――額にレトロなゴーグル、生成りのシャツの上に革製コルセット、ゆったりした厚手のズボン、編み上げブーツ、そして歯車型ピンバッジ――を着用し、全身が黒に近い灰色の毛で覆われた狼型獣人の男性。


 身長は俺やテオより高いが、表情も声も穏やかなこともあって、あまり威圧感は感じない。



「ムトト!」

「しばらくぶりだナ! 今、座れる場所を準備すル。積もる話はそれからであル!」

「りょーかい!」


 嬉しそうなテオと簡単に言葉を交わしたあと、ムトトは兎型獣人の女性店員に受付に戻るよう指示をだす。女性店員は「あいあいサァ!」と可愛く返事をして、扉を閉め部屋から出て行った。


 続いてムトトは部屋中央の塔の前に立つ。

 そして積み上げられた箱の1つの側面をパカッと開け、中に手を突っ込んで引き抜くと、なんと彼の手には金属製の丸テーブルが1つ握られていた。

 


「あれ、この箱ってもしかして【収納アイテムボックス】スキル付いてる?」

「その通りダ。この箱だけではなく、ここに積んである箱全てが【収納アイテムボックス】スキル付きであル!」


 テオの質問にうなずいて答えるムトト。


「移転前の工房作業場には、こんな塔って置いてなかったよね?」

「あア。こちらの工房は作業場が狭くてナ。苦肉の策で考え出した仕組みなのダ」




 ムトトによれば、ル・カラジャ共和国へ移転後、作業場が以前よりかなり狭くなってしまったらしい。


 よって試しに作業机や椅子や書類や作りかけの依頼品など、全て積み上げた箱の中へしまい、その都度必要な物だけ出して使う形式にしてみたところ。

 場所を広く使える上、どの箱に何がしまってあるか書いておけば逆に物を探しやすく作業効率が良いと、職人達から大変好評だったとのこと。




「……そのようなワケで、現在では全ての作業場で、この塔型収納形式を取り入れているのであル! ……うム、これでOKだナ」


 説明を終えると同時に準備を終えたムトト。

 彼の目線の先にはテーブルと椅子の他にも、ティーカップなどのお茶セットやお菓子などが綺麗に並んでいる。



「では客人達ヨ、好きな席へと座るがよイ!」


 ムトトは白く尖った歯を見せ、ニマッと笑った。


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