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第121話「砂と共に生きる多種族国家、ル・カラジャ共和国(3)」


 この大陸最大で広大な都市『ル・カラジャ共和国』は、7つの種族別自治区画と、1つの中立区画とに分かれている。


 全ての自治区画は、基本誰でも入出場可能である。

 ただし区画によっては、区画内の店で『特定種族』の入店を断られたり、高額な料金をふっかけられたり、因縁をつけられたりなどのケースも多く注意が必要だ。




 ゲームにおいてプレイヤーは、世界を救う使命を帯びた『勇者』だということを包み隠さず旅をしていたため、ル・カラジャのどの種族別自治区画においても、そこそこ特別扱いで歓迎されていた。


 だけど現在の俺は、必要ない限り自分が勇者だと自ら明かす気は無いし、基本あくまで『ただの人間の旅人』としてふるまう予定である。


 できれば無用なトラブルは避けたいということで、入国前に、ゲームではあまり気にしていなかった設定――種族間の根深い対立や戦争の歴史、各種族で禁句とされている言葉など――を攻略サイトで復習したり、テオに注意点を教わったりと時間をかけて準備を進めてきた。


 郷に入っては郷に従え。

 特にこの国では、いつも以上にそう心に刻んで行動するつもりだ。





 ここでル・カラジャ共和国に住む各種族および、各区画について説明しておこう。


 7つの種族別自治区画と、1つの中立区画の配置は、正門からぐるっと時計回りに

・中立区画

・人間族自治区画

・ドワーフ族自治区画

・魚人族自治区画

・エルフ族自治区画

・昼行獣人族自治区画

・夜行獣人族自治区画

・多種族共存自治区画

の順だ。




 まずは国の正門付近に広がる「中立区画」。

 種族別の自治区画に属さず、国が直接治める区画となっている。


 どの自治区画も、基本は区画内から無理に出なくとも問題なく生活できる程度には、街としての基盤が整っている。

 そのためわざわざ中立区画を訪れるのは『種族別自治区画に住みながらも、他種族との交流や商売に寛容で意欲的な者』『外から国の正門をくぐって来る訪問者』が圧倒的だ。

 彼らの需要に合わせるように中立区画で最も目立つ大通りには、基本どんな種族でも入店を歓迎する飲食店や雑貨屋、国外からの来訪者向けな土産物屋や宿屋などが特に多く立ち並んでいる。



 ル・カラジャにおける中立区画の役割は、何といっても7つの自治区画のパイプ役という点が大きいだろう。


 まずは移動面でのパイプ役。

 種族間トラブルを避ける目的で、各自治区画間を直接行き来することは非常時を除き禁止されている。

 7つの自治区画それぞれへ通じる門は中立区画のみに設置されているため、ある自治区画から別の自治区画へ向かうには、いったん中立区画に出てから目的の区画への門をくぐらなければならない。


 そして商売面でのパイプ役。

 ()()()()()()()()()()()()()()()であり、種族差別と見られる言動や行動を取った者は厳罰に処される可能性が高い。

 長い歴史の中で多様な種族が共存するために編み出された必要制度で、これがあるからこそ中立区画では、種族を越えた取引においてトラブルが起きにくくなる。

 よって別の自治区画で生産されたアイテムを購入したり、逆に自分が生産したアイテムを別の自治区画の住民へ販売したりしたい場合、中立区画内で取引を行うのが賢いとされているのだ。





 お次は「自治区画」について。

 このエリアは種族別に7つに分かれており、それぞれの区画が壁に囲まれ、独立した街のようになっている。


 具体的には各自治区画ごとに2年に1度、代表者である『区長』を選出。

 選ばれた区長を中心として、区画ごとに種族の特性をふまえた独自ルールを作るなどで自治を行う形だ。

 なお国および中立区画の運営政策は、定期的にこの7名の区長達が集まって話し合い決定するシステムを採用している。




 自治区画ができた背景には、『建国当初、種族の違いによるトラブルが多発したこと』にあるわけだが、中でも『エルフ族とドワーフ族との深い深い因縁』が最も大きな火種だと言ってよいだろう。



 風の精霊王の加護を受ける『エルフ族』は、生まれつき【風魔術】を使える種族である。すらっと背が高く細身で、長く尖った耳と絹のように滑らかな髪とを持ち、顔立ちが整っている。


 筋力や耐久力は低めではあるものの、頭の回転が早く要領が良い。そのため無理にあくせく働かず、自然の恵みを利用しつつのんびり暮らす者が多いようだ。



 土の精霊王の加護を受ける『ドワーフ族』は、生まれつき【土魔術】を使うことができる種族だ。ふさふさもじゃもじゃの毛量多めな髪やひげを蓄えていて、成人でも人間の子供ほどの小柄な背丈であるにも関わらず、がっしり骨太で力持ち。


 生産系スキルを生まれ持つ者が他種族以上に多く、生産系スキルの扱いも上手い種族であることから、武器職人や大工などの生産職につく割合が高い。特に金属加工技術や【土魔術】を使っての建築においては、ドワーフの右に出る者がいないと言われている。




 この2つの種族は全てにおいて、とにかく気が合わない。


 例えば食について。

 エルフ族は料理の味に加え配置やいろどりなどの見た目も重視し、香りがよい果実酒を少量だけ静かにたしなむ。

 ドワーフ族は味など気にせず腹が膨れればOKなボリューム重視で、アルコール度数が高い酒を騒ぎながら大量に飲む。


 エルフ族は、歌や絵画などの芸術をでたり、上品な服や装飾品で美しく着飾ったりするのを好む。

 対してドワーフ族は「実用性が無いものは無駄だ」と言い張り、エルフ族が好むそれらをばっさり否定する。


 森の木を切る場合。

 自然を愛するエルフ族は必要以上の伐採を避け、切った数と同じだけの植林をするなど森の保全に努めている。

 生産職が多いドワーフ族は大量の資材を必要とする上、ついつい欲張って必要以上に伐採し過ぎ、うっかり森を滅ぼしてしまったという記録が世界各地に残されている。



 どちらの種族も、他の種族とは()()()()()うまくやっている。


 しかしエルフ族とドワーフ族が顔を合わせたら最後、口が悪く何でもずけずけ物を言うドワーフが放つ『歯に衣着せぬ一言』に、プライドが高いエルフが激怒。

 もしくはエルフが笑って喋る『何気ない冗談』を、額面通りに受け取ったドワーフが激高。


 共に1歩も譲らないため、どんなに些細なことが原因でも、段々エスカレートして激しい喧嘩へ、時には大きな戦争へと発展してしまってきた過去がある。


 ということで現在エルフ族とドワーフ族の自治区画は完全に分断された位置に存在し、少数の友好的な者をのぞいて、そのほとんどが各自治区画に籠もって生活しているのだ。




 他の種族についても紹介していこう。



 水の精霊王の加護を受ける『魚人族』は、生まれつき【水魔術】を使える種族だ。体の大半がうろこに覆われていたり、手足に水かきがあったりと『人と魚との中間的な肉体』を持ち、水中でも陸上でも生活することが可能。


 魚介や海藻などの海産物を好んで食べる魚人族には、漁業に従事したがる者が多いため、ル・カラジャでは海沿いの港エリアに自治区画を構えている。



 火の精霊王の加護を受ける『獣人族』は、生まれつき【火魔術】を使える種族だ。獣の頭部と毛皮に覆われた胴体や手足を持つ人型の生き物で、兎型獣人・猫型獣人・犬型獣人・熊型獣人など、様々なタイプが存在。


 ル・カラジャの住民の中で数が1番多いのが獣人であり、また生活パターンが『昼間中心に活動する昼行性』と『夜間中心に活動する夜行性』という全く異なる2種類に分けられることから、獣人の自治区画は「昼行獣人族自治区画」「夜行獣人族自治区画」の2区画が設けられている。



 続いて人間族。前述の種族達と違い、種族全体としては特に何の加護も受けていない。特筆すべき特徴も無いぶん苦手分野も大して無く、どんな場所でも環境適応が早い種族だということもあってか、この世界では生息数が最も多く、ほとんどの国や街の住民は人間族が大半を占めるのだ。


 ただしル・カラジャに住む人間族の数は他の種族と大して変わらず――獣人の住民が飛びぬけて最も多く、エルフ族・ドワーフ族・魚人族・人間族の住民がそれぞれ同数ぐらい――、この点は大国の割には珍しいと言われる。

 なお人間族では魔術スキルを生まれ持つ者が非常に少ない。魔術もまた習得条件が厳しいスキルなため、魔術を扱える人間族は、それだけで一目置かれる存在である。



 以上5種族の自治区画6つ――基本は1種族1区画、獣人族の自治区画のみ2区画――に加え、もうひとつ設けられているのが「多種族共存自治区画」。

 こちらには、前述の5種族に含まれない少数派の種族や、種族を越えて結婚した夫婦やその家族、他種族との交流を望む友好的な者らが暮らしているのだ。






 さて、この大陸では、3年ほど前より大陸中央部を中心に魔物が大量発生するようになったため、住民の多くが逃げ出し過疎化が進んでしまった。


 だが大陸端に存在するル・カラジャ共和国においては例外的に、現状国内での魔物発生が観測されていない。よってル・カラジャと他国を結ぶ定期船便運行や貿易などは現在でも続いており、むしろ3年前より現在のほうが盛んだと言ってよいだろう。


 大陸中央部から逃げた人々のほとんどが流入してきたことから、近年ル・カラジャの人口は爆発的に増えた。

 そしてニルルク村の村民達の大半も、かつての住処からル・カラジャに移り住んだ移民として新たに集落を構え生活している。




 正門付近にある喫茶店で休憩した俺とテオは、多数の店が並ぶ中立区画内をしばらくぶらぶら散策したあと、「昼行獣人族自治区画」の入口門の前へ到着した。

 住民のほとんどが獣人なニルルク村の村民達の現在の生活拠点は、この区画の中にあるのだ。


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