第114話「耐性スキルと、毒鼬の穴蔵(3)」
街道沿い最初の宿場町で1泊した翌朝。
ギラギラ照りつけてくる日差しに、カラッと乾燥した空気。
前日と変わらぬ猛暑の下、宿屋を発った俺とテオは、数十分歩いて『毒鼬の穴蔵』へと到着した。
毒鼬の穴蔵はその名の通り、魔物『毒イタチ』が大量発生する狩場だ。
いくつかの特定スキルを持っていないと安全に狩りを行えないことから、危険度が高い場所とされている。普通の人間ならまず近寄りたくない場所だろう。
毒イタチを倒すと、ドロップ品として『毒紅菊の実』という素材アイテムが手に入る。
良質な解毒薬の材料などとして使われるのだが、世界でも毒鼬の穴蔵以外では入手方法が確認されていない。
需要があるのに、穴蔵へ潜りたがる冒険者が少なく供給量が圧倒的に足りていないことから、毒紅菊の実は買い取り価格がそこそこ高いレアアイテムとされている。
よって毒鼬の穴蔵は、対応できるスキルを持つ一部の冒険者達から「効率よく稼げる穴場」と呼ばれる、密かに人気な狩場なのだ。
くすんだ黄土色の岩石や岩くずれで覆われた一帯の中で、周りより少しだけ土地が小高く盛り上がった、いわゆる『丘』と表現するのがしっくりきそうな岩場。
この岩場の頂上付近のなだらかな斜面にぽっかりあく、直径2mぐらいの横穴こそが、毒鼬の穴蔵の入口だ。
入口横の地面に固定されているのは、古めかしい金属製の看板。
そこにはおどろおどろしい骸骨の絵と共に、こんな文章が刻んである。
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このさき、毒鼬の穴蔵。
備えなき者、決して入るべからず!!
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「ここは変わんないなぁ……」
看板を見たテオが目を細めた。
先日エイバスでウォードらと飲んでいた際に俺も初めて聞いたのだが、実はテオ、この穴蔵に毎日潜りまくっていた時期があったのだという。
テオが話した内容によれば。
5年前に当時ウォードやダガルガらと組んでいたパーティが解散してすぐ、テオはこの大陸へとやって来た。目的は、かねてから作りたかった『ニルルクの究極天蓋』の製作依頼。
だがその製作には超高額な費用がかかる。
製作資金の足しにすべく、数ヶ月ほど毎日、毒鼬の穴蔵に潜っては魔物を倒しまくっていたのだ。
そして穴蔵に潜るテオに協力してくれたのが、かつてのパーティメンバーである獣人・ムトト。
毒イタチ自体は【水魔術】さえ使えれば、スキルLVが低くても割と簡単に倒せるため、テオ1人で十分何とかなる。
だがそれ以外の諸々を想定すると、テオだけでは心もとない。
そこで、この大陸のニルルク村出身で周辺に土地勘があり、ウォードらに負けず劣らずの凄腕冒険者なムトトに、資金稼ぎ中の護衛を依頼。
ムトトのおかげで、危険なはずの穴蔵でも毎日安全に討伐を行うことができ、儲けを2人で山分けしても相当な金額になったのだという。
周辺を軽く見回し、異常がなさそうなのを確認したところで、俺が切り出す。
「……そろそろ中に入るか」
「そうだねっ! あ、念のため確認だけど、昨日言った掟は覚えてる?」
「もちろんだ」
「ならOK。打ち合わせ通り、俺が先導でいいよね?」
「ああ」
ぽっかりあいた穴蔵の中へと、俺達は慎重に足を踏み入れていくのだった。