表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/174

第113話「耐性スキルと、毒鼬の穴蔵(2)」


 クオカラの街を発った俺とテオ。

 あまりの暑さによる想定外のトラブルに見舞われながらも、日没ギリギリには何とか最初の宿場町へと到着した。



 この大陸には魔物凶暴化の影響で過疎化し、機能が停止してしまった集落も多い。


 しかし局所的に変わらず栄えている街や村が存在するのもまた事実。

 そして栄え続けている場所には、“それだけの理由”が何かしらあるもの。



 例えば、現在俺達がいる宿場町の場合。

 レアな素材アイテムを入手可能な『毒鼬どくいたち穴蔵あなぐら』という狩場が街の近くに存在し、レアアイテム目当ての冒険者や商人達が集まっているので、稼働を続けることができているのだという。


 俺とテオがこの町を訪れることにしたのは、稼働中の街道沿いの宿場町の中で、最もクオカラの街から最も近かったから。

 そしてついでに毒鼬どくいたち穴蔵あなぐらにて、()()()()()()を習得したいとも考えているのだ。






 さて、この宿場町は十数軒の建物があるだけと非常に小さな街だ。


 街の周りを囲む塀も、街の中の建物も主に『日干しレンガ』で作られていて、周りの岩石砂漠と同様くすんだ黄土色1色。

 日干しレンガは水・砂・粘土・干し草などを混ぜて成形し、日光で乾かして作る建築資材であり、配合や乾かし方に応じて強度も変わる。



 俺達が泊まる宿屋にも、日干しレンガが多用されていた。


 この世界(リバース)に来てから、木・石・焼成レンガ・モルタル・コンクリートなど、様々な素材で作られた建物を目にしてきたけど、日干しレンガ造りの建物を実際に見るのはこれが初めて。


 あてがわれた客室に入り、備え付けの火の魔導具に魔力をめて明かりをつけたところで、俺は部屋の中を見回した。


 

 天井はそこまで高くない。

 建物の外と同じく壁は日干しレンガで、触ってみると意外と硬くヒンヤリする。

 入口扉や、置いてある椅子やベッドは木製。

 ベッドにかかっているのは、大きな鳥と花の絵が鮮やかな色で染め抜かれた布。


 窓にガラスは無いけれど、かわりに草花を(かたど)った少々太めのワイヤー細工のような鉄格子がはめられている。



 ゲームにおいてこの大陸の内陸部の建築物は、俺達が泊まっている宿のように、日干しレンガ造りの1階建てが大半だった。


 日干しレンガで作られた建築物が広まった理由としては「内陸部には木があまり生えておらず、建築資材として自由に使えるのは土や砂が主であった」「低LVの生産系スキルでも、それなりの物が作れる」「雨がほとんど降らないため、日干しレンガが溶ける心配が無い」「日干しレンガを使用した建築物は熱を吸収しやすく、また吸収した熱を非常にゆっくり放出する性質があるため、建物内部が涼しく保たれる」など様々で、とにかく暑く乾燥したこのあたりの気候にぴったりな建築資材らしい。


 室内を眺めているうち、そんなゲームでの設定を思い出す。


 そういえば先程まで居た野外は太陽が沈んだばかりでまだまだ気温が高かったにも関わらず、部屋に入った途端に体感温度がグッと下がった気がするな……。



「……日干しレンガの建物の中って、ほんとに涼しいんだな」


 思わず俺がつぶやくと、テオがうんうんとうなずいた。


「不思議だよねー。風の魔導具も無いし、窓も開きっぱなしなのにさ!」

「ああ。外の暑さが嘘みたいだよ」




 この世界(リバース)では、日本でいうエアコンの代わりに、【風魔術】の空調サーモスタット――適温の風を発生させる術式――や、空調サーモスタットを閉じ込めた魔導具を使って室内を適温に保つことが多い。


 だがこの灼熱しゃくねつの岩石砂漠周辺は『火の魔力』が豊富なため、他の地域に比べて非常に気温が高くなっている。

 そのため植物が育ちづらいほか、 空調サーモスタットの効果も薄いと言われているのだ。



 もちろんテオの持つ『ニルルクの究極天蓋アルティマテント』のように、最高級魔石や最上級魔術を惜しまず使えれば話は別だけど、大多数の人々はそんな贅沢品に手が出るはずもない。

 そこでこの地域の人々は、風の魔術に頼らずとも十分涼しく快適に過ごせるだけの設備を考案し改良し、そして技術を次代へと伝え続けてきたのだ。



 何代も受け継がれてきた技術の中に深く深く刻みこまれた歴史の流れを感じながら、俺はしばらく日干しレンガの壁を観察するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらも連載中です!
黎明のスラピュータ ~スマホもPCもなし?そんなの絶対楽しくないので、異世界幼女のおやつ係は「スライムなインターネット構築計画」を始動することにしました
Web制作会社で働くマキリが剣と魔法の異世界へ。だが待っていたのは、想像と程遠い“現実”だけ。楽しみ全てを断たれ、どこかむなしい彼女の日々を変えたのは……幼い王女のおやつ係に任命されたマキリが、スマホもパソコンも存在しない世界に「インターネット」を広めるべく奮闘する物語。

ランキングサイトに参加中です。
もしこの作品が気に入ったら、クリックお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング
(投票は、1日1回までカウント)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ