第111話「クオカラの街と、今夜の宿と(2)」
寂れた港町・クオカラを訪れた俺とテオは、街の男達に不審者と間違われてしまう。あやうく戦闘になりかけたのだが、何とか穏便に誤解をとくことができたのだった。
お互いホッとしたところで、事情を聞かれた俺とテオが簡単に状況を説明。
すると男達の代表格である老人が口を開いた。
「……お2人の話をまとめると、この大陸の魔物を倒すためにコベリから船に乗ってクオカラに来たのじゃが、宿屋が全て閉まっておった。よってどこかにテントを張ろうと場所探しをしておる最中じゃった、ということでよろしいかのう?」
「はい」
「そうだよー」
老人は杖をついたまま「ふむぅ……」と少し考え込んだ後、何かに思い当たったような表情になった。
「……さすがに休業中の宿屋を無理やり開けさせるわけにはいかんが、今夜の宿ぐらいなら何とかしよう」
「え、いいんですか?」
「うむ。この1年ほどで住民達が街を捨てて大量に出て行ってしまったせいで、今のクオカラの街は、持ち主がおらん空き家だらけでのう……それもこれも、凶暴化した魔物どものせいなんじゃ。その魔物どもの討伐を援護しに来てくださったお2人になら、ちっとぐらい空き家を貸しても問題なかろうて。どうせ、手つかずで余っとるんじゃからの!」
持ち主が放棄した空き家は、クオカラの街が所有する形になっているらしい。
老人が街側に直接掛け合った結果。
今夜1晩だけという条件で、俺達は空き家を借りられることとなった。
もちろん宿代程度の謝礼を払おうとはしたのだが、老人も街側も頑なに受け取ろうとはしなかった。彼らが言うには「謝礼は要らないから、そのぶん1体でも多く魔物を倒してくれれば嬉しい」と。
その言葉に、俺もテオも大きく強くうなずいた。
街が用意してくれた空き家は、持ち主不在とは思えないほど綺麗だった。
案内してくれた街の役人によれば、ここ最近に街を出て行った住民の持ち物であった物件のため、まだあまりホコリなどが溜まっていないのではないかとのこと。
家財道具は全て運び出され、部屋の中には家具1つすら残っていなかったものの、テオが野宿用の寝具を持っているため、寝るだけならば問題ない。
むしろ辺りを警戒しながらの野宿を覚悟していた俺達にとって、街中の安全な建物内で夜を過ごせるなんて、願ってもないぐらい有難い話だった。
**************************************
出会った住民や役人達に聞いてみたところ、大陸の現況についての様々な情報を手に入れることができた。
俺達は情報整理も兼ね、就寝前に今後の方針について話し合っておくことに。
街の位置や街道が描かれた紙地図を丁寧に床に広げつつ、テオがつぶやく。
「……魔物が凶暴になってるってのは元々聞いてたけど、ここまで人の流れに影響出てるってのは予想外だな。コベリとクオカラを結ぶ定期船も、無期限で全便欠航中だっていうし」
「テオが4年前に来た時にはまだ、クオカラの街もにぎやかだったんだろ?」
「うん。あの頃は俺以外にも旅人がいっぱい来てて、この街はどこに行っても混んでてさ……こんなに街の過疎化が進んでるなんて、夢にも思わなかったな……」
少し寂しそうな溜息をつくテオ。
そりゃ溜息の1つや2つ、つきたくもなるだろう。
俺は元々ゲームにて『既に過疎化が進んだ状態のクオカラの街』を知っていたため、来る前から街の様子についての予想はある程度ついていた。
ただしゲームでは最低限、船舶紹介所・宿屋・武器屋といった冒険に欠かせない施設や店舗は営業していたため、実際は想定以上の寂れっぷりだったわけだが。
だがテオの記憶の中でのクオカラは、4年前に実際に訪れた際の『魔王の影響を受ける前の、平和で活気あふれていた時代のクオカラの街』のままだったのだ。
今現在のそれと比べてしまうのも仕方はない。
「まぁ……過疎化の原因である魔物達を根本から叩くってのも、今回の俺達の目的のひとつなわけだし……そっちをどうにかすれば、クオカラの街にも人が戻ってくるんじゃないか?」
俺の励ましに、テオは「……そうだね」と笑う。
そして気持ちを切り替えるように元気な声を出した。
「よーしっ! じゃあ、新しく仕入れた情報を整理するぞーっ!」