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第110話「クオカラの街と、今夜の宿と(1)」


 原初の神殿を発ってから9日目。

 俺とテオはさびれた港町に到着した。


 街の名は『クオカラ』。同じく港町のコベリとは海峡を挟んだ場所にあり、大陸を渡る旅人が多く立ち寄っていたことから、コベリと共に歩み発展し続けてきた街だ。




 これまで俺達は主に盗賊対策として、出来る限り野宿を避け、街道沿いの宿場町の宿屋に泊まるようにしていた。

 クオカラでも同様に宿を探そうとしたのだが、港近くに居た住民に話を聞いたところ、この街の宿屋は全てここ1年ほどで休業もしくは廃業してしまったのだという。


 理由はやはり「かつては大陸を渡る旅人相手の商売で栄えていたものの、魔物の動きが活発になったことが要因でクオカラを訪れる旅人が減り、急速に街の過疎化が進んでいる」ということにあるらしい。

 街道沿いに進んだところの宿場町にはまだ開業中の宿もあるらしいが、日没まで数時間しかないのをふまえると、明るいうちに到着するのは無理な話だ。



「……こりゃ今日は野宿だな」

「そーだね~」


 本日の宿探しを諦め、野宿の方向性で考え始めた俺とテオ。

 街道沿いの下手な野営地よりは、まだ街中にテントを広げて泊まった方が安全だろうということで、よい場所をはないかと街のはずれをウロウロ歩いていると。






「おいお前ら、何者なにもんだ?」



 めいめい長い棒状の武器を携え、怪訝けげんな顔の男性4人組が話しかけてきた。

 まだ明るい上、平和なはずの街中ということもあり油断し切っていた俺達は焦る。



「……なぁテオ。この人達、おそらく街の住民だよな?」

「たぶん。一応交渉してみて、ダメそうならすき見て逃げるってのがベストかな」

「俺もそう思う」

「OK! じゃちょっとがんばってみるから、タクトは万が一の時に備えといて」

「分かった」



 小声でササッと方針をまとめ、うなずき合う俺達。

 テオは笑顔で男達に話しかける。



「……お前らって俺達のことかな?」


「決まってるだろ!」

「おめぇら以外に誰がいるってんだ!」

「そうだそうだ!」



 一触即発状態の男達。

 彼らを刺激しないよう、テオは考え考え言葉を選んでいく。



「えっと……なんか誤解してるみたいだけど……俺達、ただの冒険者だよ?」


「冒険者だぁ? このご時世、この街に冒険者が来るわけねぇだろ!」

「そうだ!」

「目的はなんだ!」


「……魔物を倒しに来たんだ」


「とぼけんじゃねぇっ!!」

「本当の事を言え!」

「そうだそうだ!」


「ホントだって。そのつもりでコベリから海峡を渡って――」


「まだとぼけるつもりかよ!」

「そっちがその気なら、こっちもそれなりに考えがあるぞっ!」



 武器を構え直した手前の若者3人が、テオへと殴りかかってきた。


 仕方なく魔法鞄(マジカルバッグ)から剣を取り出し応戦体制に入るテオ。

 急いで俺も加勢しようとしたところ。



「待つんじゃッ!!」


 若者達に隠れるようにして、杖をついて静かに状況を見守り続けていた老人が、初めて口を開いた。



 思わずひるむ一同。



 その隙にテオは若者達からパッと距離をとり、俺もそれにならう。



「……なんだよじーちゃん!」

「邪魔すんじゃねぇよ!」

「そうだそうだ――」




「ばッかもーんッッ!!!!!」


 矛先を老人へと変え口々に騒ぎ始めた血気盛んな若者3人を、老人が一喝。




 若者達がビクッと黙り、辺りに沈黙が訪れる中。

 彼らを睨みつけながら老人が言葉を続ける。


「……こちらの方々は、どう見ても嘘をついとるようには見えんじゃろが」

「なんで分かるんだよ!」

「そんなの分かるわけない――」

「たわけッ、分からんのはお前らの経験不足じゃ! しばし黙っとれ!」


「「「……はい」」」


 3人はしゅんとうなだれてしまった。

 俺とテオは、彼らから距離を取ったまま様子をうかがっている。



 杖の老人は俺達へとゆっくり向き直り、大きく呼吸してから喋り始めた。


「……旅のお2人さんや、うちの街の若いもんがすまんかった。このじじいに免じて許してくだされ」


 ただでさえ曲がっている腰をさらに曲げ、老人は深々と頭を下げる。

 俺が急な展開に慌てていると、テオが静かに剣を仕舞った。


「おじいちゃん、頭上げてよ。こっちは全然気にしてないから!」

「そうか……ありがたいことじゃ……」

「よかったらだけど、何がどうしてこうなったか教えてくれない? 俺達いまいち状況つかめてなくてさー」

「それもそうじゃの。実は……」



 老人によれば。

 街中で遊んでいた子供達から「不審者がいる」という報告があったらしい。

 そこで腕に覚えがある街の若者達と老人とで不審者の正体を確かめに来たところ、街の外れをキョロキョロ見回しながら歩く、()()()()()()()()()()()を見つけ、声をかけたのだという。




 絶句する俺とテオ。




 思い返してみれば、確かに先ほど自分達は、テントを広げても良さそうな場所を探して街外れを歩き回っていた。


 ただでさえ閑散としている現在のクオカラ。

 まだ明るいというのに、人通りはほとんど無い。

 その状態で余所者よそものが物色するようにうろついていたら、どう見たって怪しすぎるだろう。



「……そりゃ不審者だと思われるな」

「だね……」



 今度は逆に俺達が街の住民へ、誤解させるような行動をとってしまったことを謝罪したのだった。


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