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第106話「コべリの港と、大陸を結ぶ小船(2)」


 原初の神殿を出発してから9日目の昼前。目的地のニルルク村がある大陸へと渡る船に乗るため、俺とテオは小さな港町・コベリを訪れた。


 船舶案内所の窓口で確認したところ、定期船便は欠航中だったものの、代わりにチャーター可能な小型漁船を紹介してもらえることになったのだった。





 俺達から既定の担保金を受け取った案内所窓口の若い女性職員は、手慣れた様子で書類を用意しつつ、手続きの説明をしていく。


「……確かに担保金として、お2人分の200(リドカ)お預かりしました。漁船との契約が成立しなかった場合、担保金は全額返金いたします。その際は担保金の預かり証を窓口へお持ちください。こちらが預かり証です。無くすと返金できなくなるので、責任を持って保管をお願いします」

「はい」


「そしてこちらが漁船への紹介状となります。先方のご希望では、13時から15時までの間に、港にある指定の水産加工所のオーナーを訪ねてほしいという事です。15時以降でも加工所が開いていさえすれば交渉はできるそうですが、本日中の出発は厳しい可能性があるようなので、15時までに訪ねるのをおすすめします」

「OK! お姉さんありがとねー」




 手続きを済ませ船舶案内所を後にしたところで俺が言う。

 

「13時までまだ時間あるし、どっかで昼飯にしないか?」

「さんせーい! 俺、行きたい店あるんだけど」

「お! テオのおすすめ料理は旨いもんばっかだし、楽しみにしてるぞ」

「ハードルあげるねー。たぶん期待にはこたえられるはずだぜ。あそこの親父さんの作る煮込み料理、ほんっと絶品なんだよな~♪」



 そう笑ってから、テオは先導するように商店街のほうへと歩き出した。





**************************************





 小さなコベリの街・唯一の商店街は、昼時にも関わらず閑古鳥が鳴いていた。

 その中のお目当ての飲食店へと到着した俺とテオが目にしたのは、店の入口扉に貼られた『休業中』というお知らせの紙だった。


「嘘だろ……」

「そんなぁ~……」



 がっくりと肩を落とす2人。


 すると、たまたま通りがかった年配女性が声をかけてきた。

 生まれも育ちもコベリの街だという彼女は、俺達から事情を聞き、なんと親切に営業中の飲食店をいくつか教えてくれたのだ。



 


 テオと相談した結果、教えてもらった店の1つに行ってみることに。


 年配女性いわく「地元民だけが知る隠れた名店」な食堂には看板すら無く、ただの古い民家にしか見えなかった。

 だが足を踏み入れてみると、十数席の狭い店内は、外の寂しさが嘘であるかのような賑わいだった。


 俺達も早速、地元漁師風の男達に混じって席に着き、この食堂の名物だという魚介パスタを2人分頼む。




 程なくして運ばれてきたのは、ぶつ切りの魚や大きな黒い貝などがふんだんに乗った山盛りトマトスープパスタが2皿。

 ざっと目分量で、普通の店のパスタの軽く倍はあるだろう。

 あまりの多さに驚いた俺が店員に確認したところ、「1皿が普通盛りの1人前で間違いない」との答えが返ってきた。


 食べきれるか不安になる俺とテオだったが……心配は無用だったようだ。


 材料の魚介類は全てコベリの港に水揚げされたばかりの新鮮な物というだけあって、獲れたてならではのプリッとした食感が存分に味わえる。

 スープはたっぷり溶け込んだ魚介の旨みとトマトの酸味が絶妙で、そのスープをしっかり吸い込んだ細いパスタもたまらなく美味しかった。


 いくらでも食べられそうなその味に、夢中になって無言で食べる。

 気付けば2人とも、スープ1滴残さず山盛りパスタを完食していたのだった。





**************************************





 13時過ぎ、コベリの港の端にある水産加工所へと到着した。

 ゆっくり入口扉を開けた俺達の鼻に飛び込んできたのは、魚独特のにおい。


 どうやらここは獲れた魚を選別したり、加工したりするための作業場のようだ。

 多くの老若男女がせわしなく動き回ったり、威勢の良い声が飛び交ったりと、せわしなく働いている。




 何となく人々の勢いに圧倒された俺がつぶやく。


「……忙しそうだな。これ、声かけてもいいんだろうか」

「いいんじゃない? 13時から15時ならOKって言われたしさー」


 テオは明るく言うと、遠慮なくツカツカと作業中の男性に近づき声をかけた。



「こんにちはー。船舶案内所の紹介で来たんだけど、オーナーっている?」

「おうっ! 紹介状はあんのか?」


 がっしりした漁師風の中年男性は手を止め、元気よく答える。


「もっちろんっ!」


 紹介状を見せるテオ。

 男性は「おし、ちょいと待ってろ!」と言い残し、奥へと消えていった。





「な、平気だったろ?」


 テオはくるっと振り返り、俺へと笑顔を見せる。


「そうだな……」



 迷った自分は何だったんだろうと考えてしまうほどの、清々(すがすが)しいまでの思い切りのよさ。

 やたらと幅広いテオの交友関係は、こういう感じで築いてきたものなのかもしれないなと薄っすら思う俺だった。


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