第86話 メルリアさんと再会
前回のあらすじ
話し合いの末騎士たちの処遇が決まる
騎士たちが乱入
王女様の命令よりもウォレンさんの命令を聞く騎士
「ここでなら落ち着いて話も出来るじゃろう」
「そうですね、この応接室なら殆ど邪魔が入ることもないでしょう」
ウォレンさんに案内されて通されたこの部屋は謁見の間から数部屋ほど離れた質の良いソファーやテーブルなどが置かれた応接室だった。
「それでは先ほどの続きからですが第四師団団長は解任後に牢へ投獄、裁判にて今後の処遇を決めます。そしてユーマ様方の襲撃に加担した騎士たちは罪に応じて罰則を与えます。これで納得して頂けますか?」
王女様は一度話を整理するためなのか第四師団団長と騎士の処遇について再度確認を取って来た。なぜ王女様はわざわざついさっきの話をもう一度してきたのか、王女様の言葉を思い返し少し考えてから俺は返事をするために口を開いた。
「納得も何もまだ実行されていませんし、ここで『はい、わかりました』と言ったら罰則が軽すぎても口出しできなくなりますから。返事は全て終わってからします」
俺の考えすぎかもしれないがこの王女様ならもしかしたらの可能性があると思い至り、俺はあえて返事を保留することにした。
「そうですか……。では納得して頂けるように行動します。次にユーマ様が仰られた西部徴税官長ガネトリー・ダイカーン氏についてですが、ユーマ様が仰っていることが真実だとして何故彼は貴方方を襲ったのでしょうか?」
王女様にそう聞かれ俺が答えるのに戸惑っているとウォレンさんが助け舟を出してくれた。
「それも報告書に書いてあったぞ。なんでも辺境の街グアウェストのギルドで襲われてそれを返り討ち、そうしたら今度は裏で結託していた衛兵に捕まりそうになりそれも返り討ちにしたとか。ギルドマスターが出てきてその場は収まったんじゃが衛兵と結託していた者たちが無罪放免にされて、しかもそれをもみ消すため領主がこやつらに暗殺者を送り込んだそうじゃ。まぁ最終的に先代辺境伯のウィンダム殿の耳に入って領主を国家反逆罪で王都まで連れてきたらしいがの。たぶんその辺で何かガネトリーにとって都合の悪い事でもあったんじゃろう。奴には悪い噂が絶えないしのう」
ウォレンさんが言い終わると王女様も何か思い当たる節があるのか顔を歪ませながらため息を吐いた。それから少しの間思案顔になり、考えが纏まったのかまたため息を吐きながらこっちに向き直った。
「事情は大体把握しました。ガネトリー氏についても他の騎士たち同様処罰します。それでユーマ様達には事が終わるまでこの王城にて過ごして頂きたいのですが……」
「構いませんよ、どうせ王城でも街中でも構わず襲ってくるでしょうから」
「王城内でそんな事は起こさせません!」
「はぁそうですかなら頑張って下さいね。まぁもし襲われたらその時は……」
「くッ、では話し合いはこれで終わりにします。今貴方方の部屋を用意させますのでこちらでお寛ぎください」
王女様はそう言い残して部屋を出て行った。
それから待つこと30分、応接室の扉を誰かがノックをし、外から声が掛けられた。
「失礼します、皆様方の部屋の用意が出来ましたのでお知らせに参りました」
扉の外から掛けられた声はどこか聞き覚えのある声だったが思い出せなかった。
誰だろうと思いながら一応警戒しつつ扉を開けるとそこには王室騎士団第三師団隊長メルリア・グライツさんがメイドの姿でお辞儀をしていた。
「まさかまた会えるとは……お久しぶりですメルリアさん」
俺はそう言うと姫姉が俺を押しのけてメルリアさんに話しかけた。
「メルリアさんお久しぶりです。相変わらずメイド服なんですね」
「はい、これが私の仕事服ですから。それよりもお二人ともお久しぶりでございます。今回も案内をさせていただきます。そちらの方々は初めましてですね、私メルリアと申します。お気軽にメルとお呼びください。それではお部屋の方にご案内いたします」
メルリアさんは田中さん達への挨拶もそこそこに本題の案内に移った。俺たちはメルリアさんの後について行くと段々と見覚えのある場所を通り、そしてその中でも一番見覚えのある場所で止まった。
「到着しました。こちらがユーマ様の部屋でございます。右横の部屋がヒメナ様とそちらの女の子の部屋です。そして向かって正面の部屋がタナカさまの部屋です。部屋にある鈴を鳴らして頂ければメイドがご用件をお伺いになります。ではお部屋にてお寛ぎ下さい」
メルリアさんにそう言われて俺たちは各々案内された部屋に入って行った。
俺は部屋に入って本当に前回使っていた部屋と一切変わらない部屋に感動すら覚えていると誰かが部屋の扉をノックしたかと思うと扉を開けて入って来た。
「やっぱり、見覚えがあると思ったのよね」
そう言って入って来たのは姫姉だった。
「なんだ姫姉か」
「なんだとはなによ」
俺がそう言うと不機嫌そうにそう返してきた。
「いきなり入ってくるから襲撃者かと思ったよ」
「失礼ね、一応ノックしたでしょ」
「一応なんだ……」
俺は小声でそう漏らした。
「なんか言った?」
それを聞き逃さなかったのか姫姉が俺に顔を近づけながら問い詰めてきた。
「何でもありません!」
俺はそれに敬礼を付けて言葉を返した。
「なら良し」
そう言った後、二人して我慢の限界を迎え笑い出した。