第84話 優純不断な王女様
前回のあらすじ
王城に行く
謁見の間に通される
騎士に襲われる
俺と姫姉は構えていた武器を無限収納に仕舞ったが、騎士たちは武器を構えたままにじり寄って来た。
「俺たちは仕舞ったけどアンタらは王女様の命令に従わなくて良いのか?」
俺は徐々に距離を詰めてくる騎士に暗に命令違反をしてもいいのかと問い掛けた。
「我々は礼儀知らずに罰を与えるために行動しているだけだ! 命令違反にはならん!」
話しかけた騎士はそう言って武器を振り上げ俺に斬りかかって来た。俺は即座に無限収納から剣を取り出して振り下ろされる剣と打ち合った。
「おいおい殺す気かよ……。先に仕掛けたのはそっちだからな」
一、二合打ち合ったあと俺は謁見の間全体に聞こえる様にそう大声で叫び、目の前で構えている騎士の剣を対象にスキルスティールで奪い盗った。続けて周囲の騎士たちにも同じようにスティールで武器を奪い盗って無限収納に仕舞っていった。
「お、俺の武器が消えた……。貴様ッ何をしたァ‼」
騎士は自分が握っていた武器が一瞬光った後手元から消えたことで狼狽えたが俺が何かしたのだろうと判断して俺に怒鳴りつけてきた。
「さぁて何のことだか。もし俺が何かしたとして馬鹿正直に話すはずないだろ。それよりそんなに呆けていていいのか」
俺はそう言って目の前にいる騎士に持っていた剣で鎧ごと切り裂いた。騎士は鎧を過信していたのか回避行動をとらず鎧ごと斬られたことに驚き倒れ伏した。
俺の一撃が開戦の合図となり俺と姫姉は目の前で吠える事しかできない騎士たちに向き直った。
「ひっ、やめてくれ! 殺さないでくれ!」
「俺は命令されただけなんだ! 許してくれ!」
「死にたくない! 死にたくない!」
騎士たちはそう叫びながら逃げ惑い、謁見の間の横に並び立つ貴族たちは
「お前たちが勝手にやった事だ! お前たちが責任を取れ!」
「こっちに来るな! お前たちは盾になれ!」
「こんなところに居られるか! 私は帰らせて貰うぞ!」
と声高に叫び、王女様は
「双方武器を収めなさい! これ以上の戦闘は国家反逆罪を適用します! お願いですからやめて下さい!」
と叫んだが俺は手を止める事無く、立っている騎士がいなくなるまで殴って蹴って斬りつけて回った。
「こんなものかな」
謁見の間にいた貴族は我先にと逃げ出し、襲い掛かって来た騎士たちは全員床に倒れ伏したところで俺はそう呟いた。そして俺は王女様に向かって持っていた剣の切っ先を向けた。
「王女様、一応言っておくがこれはアンタの命令で止まらず襲い掛からせたせいだからな!」
「ち、違います! 私は止めようとしたんです! 襲い掛からせてなどいません!」
俺の言葉に王女様は怒鳴る勢いで否定した。
「でも止まらずに襲い掛かって来た。俺たちはあんたの命令に従って武器を仕舞ったのにな」
「そ、それは……。ですがこれはやりすぎです!」
「やりすぎ? やらなかったら俺たちの方がこうなってただろ」
「そんなことありません!」
騎士の剣には明らかに殺意が乗っていたし、避けるか受けなかったら左肩から右わき腹まで斬られていただろうが王女様はそんな事も分からないらしい。
「話にならねぇ。たとえそうだとしても先に斬りかかってきたのはそっちなんだから文句を言われる筋合いはない」
「うぅ、それはそうですが……。それでもやり様が」
「やり様、ね。王都に来てから騎士の襲撃が三回。全部が王女様の命令とは言わないけど、とっくの昔に堪忍袋の緒は切れてるんだよ。これ以上怒らせんなよ」
俺は静かに怒りながら王女様に近づいて行く。そして王女様が座る玉座の前までたどり着いたところで俺は持っていた剣を王女様の目の前の床に突き刺した。
床に剣を刺したことで少し溜飲が下がった俺は話し合いを再開した。
「それにさぁこっちには例の契約書があるってこと忘れてないよな」
「えっ、あっあの契約は無効です! あなた方が元の世界に帰った時点で契約は終わっている筈です!」
俺が契約書の話をすると王女様は一瞬呆けた後、目に見える勢いで焦りながら勝手な解釈を力説してきた。
「残念だけどあの契約さ、期限については一切決めてなかったろ。それにもしあれが無効でも騎士がやったことは紛れもない犯罪行為だろ、違うか?」
「ち、違いません。ですが騎士の事は知らなかったんです! 信じて下さい」
王女様は騎士がやったことが犯罪行為だとは認めたが頑なに自分の関与を否定してくる。余りの必死さに王女様が命令したんじゃないかと思えてくる。俺はその疑念を晴らすために王女様に一つ決断を迫った。
「信じて欲しいなら今すぐここで俺たちを襲った騎士の処罰を決めろ」
「分かりました。すぐに調べさせてそれから処罰を「ガネトリー・ダイカーンとその手下、第四師団団長とその手下共が襲撃犯だ。今すぐ決めろ」で、ですがあなたの言葉だけを信じるわけには……」
王女様はどうにかして決断を先延ばしにしようと言葉を紡ぐ。が俺はそれを許さずもう一度決断を迫った。
「自分の事は無条件に信じろと言って置いて、俺の言う事は信じないのか?」
「そういう訳ではありませんが、私には責任が……」
「そうか、ならもういい」
俺は王女様の決断力の無さに呆れ果て、一方的に話を切り上げた。そして王女様に背を向けて謁見の間の外に向かって歩き出した。