第80話 お風呂屋さん行こう
前回のあらすじ
肉が旨い
米が食いたい
米があった
久しぶりの白米を存分に堪能した俺たちは各々自分たちの部屋に戻ってからも白米の味の余韻に浸っていた。
「まさかこんなところでご飯が食べれるなんて……」
田中さんはそう呟きながらご飯の余韻に浸っている。
「そうですね、俺もまさかここでご飯が食えるとは知りませんでしたよ」
俺も余韻に浸りながら田中さんの呟きに言葉を返した。
そうして十数分ほどボケ~っと余韻に浸っていると誰かが部屋の扉をノックした。俺はスキル透視で誰がノックしたのか確認したのち扉を開けた。
「そろそろお風呂屋さんに行くわよ」
扉を開けた途端姫姉がそう宣言し、扉の前にいた俺を引き摺り出した。それから田中さんも姫姉に促され部屋から出て部屋にカギを掛けた。俺たちはカギを受付にいた看板娘の少女に預け、お風呂屋に向かった。
「この王都には冒険者や労働者も多いため汚れを落とすための施設が国の主導で設置されていて俺たちは今からそこに行くんですよ。因みにそこには湯船は無いです、シャワーだけです」
俺はお風呂屋に行く道すがら田中さんに今向かっている所について掻い摘んで説明していた。
「なるほどそう言う施設もちゃんとあるんだね。グアウェストの街ではお湯とタオルだけだったからシャワーがあるだけでも最高だよ」
田中さんとそんなふうに話していると目的のお風呂屋さんが見えてきた。俺がそのお風呂屋さんに入ろうとして田中さんもそれに続いて入ろうとすると姫姉から待ったがかけられた。
「二人ともどこに行くつもり?」
「えっ、ここじゃないの?」
いきなりそんな事を言われた俺は目の前にあるお風呂屋さんを指さしながらそう聞き返していた。
「ここじゃないわよ、私たちが行くのは湯船もある本当のお風呂屋さんなんだから」
姫姉はそれだけ言うとスタスタ歩き出した。俺と田中さんはとりあえず姫姉の後について行くことにした。
それから数分ほど歩くとさっきのお風呂屋さんとは比べ物にならないくらい大きな建物が目に入った。
「二人とも、ここよ」
姫姉はそう言いその大きな建物の中に入って行った。俺たちも姫姉の後を追い中に入った。
建物の中に入って直ぐ店員と思しき女性が話しかけてきた。
「ようこそいらっしゃいました。こちらで室内用の履物にお履き替え下さい」
俺たちは女性の言葉通りに今履いている靴を脱いで女性が用意したどう見てもスリッパにしか見えない物に履き替えた。その後俺は自分のと田中さんの靴を無限収納にしまった。姫姉も同じように暗殺者の少女の靴と一緒にしまっていた。
「それでは当湯屋について説明いたします。当湯屋は大きな湯船で大勢の方とご入浴する大浴場と少人数向けの小浴場がございます。大浴場の入浴料は一人200シア、小浴場は貸し切りですので一風呂1000シアになります」
店員の女性の説明を聞き俺はその価格に驚いた。なんせこの世界での湯船は王族や大貴族でしかしない贅沢中の贅沢なのだから。それが田舎の宿一泊分の値段設定なのだから安い方だろう。
「それじゃあ私たちは小浴場でお願いします」
俺が価格設定について考え込んでいると姫姉が店員に金貨を渡しながら小浴場を頼み、姫姉は暗殺者の少女と一緒に奥からやって来たもう一人の女性の店員に連れられどこかに行ってしまった。
「そちらのお二人はどういたしますか?」
そう尋ねられた俺と田中さんは互いに目を合わせてからコソコソと話し合い意見を纏め、女性の方に向き直りそれぞれ銀貨二枚を出して大浴場を選んだ。
「では大浴場への案内と当湯屋のルールを説明したします。直接湯船に浸かられるとお湯がすぐに汚れてしまうため、湯船に浸かる前に体を洗って下さい。大浴場に入って直ぐのところにシャワースペースがあり、頭を洗う用のシャンプーや洗った後の髪をケアするリンスに体を洗う用の石鹸も置いてありますのでご自由にお使いください。次に浴場内は濡れていて滑りやすくなっておりますので、走ったり暴れたりはしないでください。それと覗きや女性風呂への侵入は即刻衛兵を呼びますのでしないでくださいね」
俺と田中さんは店員の女性からよく知っている風呂のルールを聞きつつ、大浴場まで案内して貰っていた。
「着きました、ここが男性用の大浴場です。ごゆっくり疲れを癒してください」
店員の女性はそう言うと来た道を戻って行った。残された俺と田中さんは異世界文字で男と書かれた暖簾をくぐり、脱衣所で着ている服を全て脱ぎ去った。
服を脱いだ俺たちは大浴場に足を踏み入れ、全体を見回しその広さにただ驚いていた。入り口の壁際にはシャワースペースがあり、どれも高い位置にシャワーヘッドが壁から突き出ていて立って使うタイプだったがそれがズラリと二十個も並んでいる。それにしっかりシャンプーやリンス、石鹸まで置いてあった。
それに大浴場の両サイドには温度の差がある二つの湯船に水風呂、そして泡が絶えず出ている泡風呂と四つの湯船が存在していた。そしてその湯船が並ぶ奥にはまた扉があり露店風呂らしきものが遠目に見えていた。
それを見た俺と田中さんは目を合わせ無言で頷き合うとシャワーの前に立ち一心不乱に体を洗い始めた。
8月も終わりですが暑くてかないませんね
熱中症とコロナ両方気を付けるのは大変ですが読者の皆さんをお気を付けください
次話はいつも通り9月10日更新です