第78話 まともな事情聴取
前回のあらすじ
スライムが強い
衛兵がやって来る
事情聴取が待っている
俺たちは騒ぎを聞き駆け付けた衛兵に詰所まで連れられて、そしてその詰所の一室で事情聴取を受けていた。
「ご足労頂きありがとうございます。それでは簡単にですが今回の事件について話を聞かせて貰えますか?」
「はい、大丈夫です。えーとあの時俺たちはあの場でスライクさん一人が大勢の人に襲われているのを見て、これは危ないかなと思い手助けをしました」
取調を担当している衛兵の質問に俺が代表として答えた。
「それで全員気絶させて捕縛ですか、強いんですね」
なぜか衛兵は感心したように俺たちを褒めてきた。実際は殆どスライクさんが倒したんだけど、それは語らないでおいた方がいいかもしれない。
「いえいえ、たまたま不意打ちが上手くいっただけですよ。運が良かっただけです」
「それも立派な強みですよ。それで彼らが何の目的でスライクさんを襲ったか知っていますか?」
衛兵は神妙な面持ちで今回の核心に迫る質問をしてきた。
「たしか襲っていた人たちが誰か人を探していたみたいでした」
俺は衛兵の言葉に苦笑いを浮かべつつどう答えるか、自分たちを狙っていた事をどう気付かれない様にするか言葉を選んで答えた。
「そうですか、それでそれが誰かまでは流石に聞いてませんよね……。聴取はこのくらいで大丈夫です、本日はご協力頂きありがとうございました。後日事情を聞く事があるかもしれませんのでお手数ですが泊まっているところか連絡が付く場所をお教え頂けますか?」
衛兵は流石に誰を探していたかまでは俺たちが知らないと勝手に判断したのかそこで言葉を切り、調書を切り上げて俺たちの連絡先を聞いて来た。
「はい、泊まるところはまだ決まっていないので連絡は冒険者ギルド経由でも良いですか?」
「ええ、問題ありません。それではギルドカードの方を確認させて頂きますね」
俺は自分のギルドカードを取り出して衛兵に見せた。衛兵は俺のギルドカードに記載されている情報を調書に書き写した。
「お時間を頂きありがとございます。外までご案内いたします」
衛兵は俺たちを詰所の外まで案内してから詰所の中に戻って行った。
「さてやっと取調べが終わったんだけどこれからどうしよっか」
「どうもこうも今晩の宿を探すしかないでしょ」
「そうですね、流石に野宿は困りますし宿を探しましょう」
俺がこれからどうするか皆に聞くと姫姉と田中さんから宿を探そうと言われ、俺たちは今晩の寝床を探し始めた。
探し始めて十分もしないうちに良い匂いを漂わせる宿屋を見つけた。俺たちはその匂いに釣られながら宿屋の中に足を踏み入れた。
「いらっしゃませ、宿泊ですか、それともお食事ですか?」
中に入ると看板娘であろう少女が声を掛けてきた。
「取りあえず一泊したいんだけど部屋はあるかな?」
「はい二人部屋でしたら一部屋一泊500シア、大部屋でしたら一泊900シアです。一人部屋でしたら一部屋一泊300シアで全て朝夕ご飯付きの価格になります。どうなされますか?」
姫姉たちに視線をやると姫姉が指を二本立てていたので俺はその意図を二人部屋の事だと理解して少女の方に向き直しポケットから1000シアを取り出して少女に渡しながら答えた。
「二人部屋二つでお願いします」
「はい、では二人部屋を二部屋で1000シアになります。ちょうどですね、少しお待ちください」
少女は一度カウンターの奥に行き、何かを取ってからこちらに戻って来た。そして少女はそれをカウンターの上に置いた。
「こちらが二階にある203号室と204号室の鍵です。外出の際には鍵をお預かりいたします。お食事まではもう少しかかりますのでお部屋でお寛ぎください」
俺は少女の説明を受けてから鍵を受け取り、204号室の鍵を姫姉に渡して二階の部屋に向かった。
俺と田中さんは203号室の部屋に入り楽な服装に着替えてからベッドに腰かけ一息ついていた。リラックスしていると誰かが部屋をノックしてきたので俺はすかさずスキル透視で誰かを確認した。
扉の向こうには204号室で着替えを済ませた姫姉と暗殺者の少女が立っており俺は部屋の鍵を開けて二人を招き入れた。
「取りあえず今晩の宿は何とかなったし後は明日ウォレンさんに会えればいいんだけど」
部屋に入って来た姫姉がそう言いながら俺を睨むように見つめてきた。
「そんなに睨まれると怖いんだけど」
「はぁ、分かってるよね」
姫姉はため息を吐きながら意味深な事を言った。俺はその言葉の裏に隠されている意味を理解していた。
「はいはい、分かってるよ。今晩は最大限警戒するし明日ウォレンさんに会えない可能性も考慮してるから」
「ならいいわ。それじゃあ明日ウォレンさんに会えなかったらどうするか各々考えておくってことで。私たちは自分たちの部屋に戻るわね」
姫姉はそれだけ言い残し暗殺者の少女を連れて自分たちの部屋に戻って行った。
それから夕ご飯までの間俺たちは束の間の休息を取りつつも、ウォレンさんに会えなかった時の事を考え少し憂鬱な気分になった。