第74話 安全な寝床は何事にも勝る
前回あらすじ
襲撃される
迷子になる
テンプレが起こらない
「さて、それじゃ何故訪ねてきたか聞こうかの?」
ギルドマスターは全員が椅子に座ったのを確認してから、俺たちに向かって来訪の理由を尋ねてきた。
「実は向こうに帰ってから直ぐに穴に吸い込まれまして、気が付けばグアウェスト近くの森に田中さんと一緒に出ました。ここからは田中さん、自己紹介がてらお願いします」
「初めまして、田中です。彼らと同じように穴に吸い込まれてこちらに来ました。彼らの助けもありなんとか生きて来れました。それから色々とあり……」
田中さんはギルドマスターに自己紹介をしつつ、今まで何があったかを第三者目線で語り出した。
「という訳でこちらに来た次第です」
十数分ほど立った頃、やっと田中さんの話が終わった。
「なるほどの、またお主らは面倒ごとに巻き込まれておるんじゃな。それでこのワシに何をして欲しいんじゃ?」
ギルドマスターは田中さんの話を聞き、俺たちが置かれている状況を理解した上で用件を尋ねてきた。
「「安全な宿と美味しい飯が食えるところを紹介して下さい!」」
俺と姫姉は声を揃え食い気味で答えた。
それを聞いたギルドマスターと田中さんは苦笑いを浮かべていて、暗殺者の少女は座ったまま寝ていた。
「何を言うかと思えば宿と飯とは……、つくづくお主らは面白いな。分かった、今日はもう遅いしここの職員用宿舎に泊まっていくと良い。ここなら襲われる事も無かろう。飯については下で食べてこい。食べ終えた頃に宿舎の案内をさせる。ほら行った行った」
ギルドマスターは笑いながらそう言うと俺たちを追い出した。
追い出されるまま俺たちはギルド一階の酒場まで来た。
酒場では仕事終わりの冒険者達が騒がしく飲み食いを楽しんでいた。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
俺たちがテーブル席に腰掛けると同時にウェイトレスさんが注文を聞きに来た。
「俺はオススメの肉料理と果実水で」
「オススメの肉料理ですとフォレストヴァイパーのステーキになりますがよろしいでしょうか?」
フォレストヴァイパーか、確か森に住むデカい蛇の魔物だったはず。
「それでお願いします、姫姉はどうする?」
「私とこの子も同じので」
俺と姫姉が注文している間、田中さんはテーブルの上にあったメニュー表とにらめっこしていたが、決めたらしい。
「それじゃ僕はこのオーク肉の野菜炒めと果実水で」
田中さんも注文を終えウェイトレスはメニューの確認をしてから厨房の方に向かっていった。
それから数分ほどすると料理が運ばれてきた。
おれと姫姉と暗殺者の少女の前には直径10センチくらい、高さは3センチくらいの輪切りにされたフォレストヴァイパーの肉がジュウジュウと美味しそうな音を立てつつ鎮座していた。
田中さんの前にはオークのバラ肉部分をふんだんに使って季節の野菜と塩胡椒で炒めただけなのに、美味しそうな匂いを立ち上らせている野菜炒めがてんこ盛りになっている。
俺たちはいただきますをしてから目の前の料理に手を付けた。
「美味いッ! ほんのりと香るスパイスと肉汁がベストマッチしている!」
フォレストヴァイパーのステーキを一口食べた俺は思ったことをそのまま零していた。
「それに焼き加減も絶妙なバランスでパーフェクトよ!」
同じくフォレストヴァイパーのステーキを食べた姫姉がその美味しさの秘訣に補足を付け足した。
暗殺者の少女は黙々とフォレストヴァイパーのステーキを口に運び続けていた。
「こっちの野菜炒めも肉と野菜の旨味が合わさってパーフェクトなハーモニーを奏でているよ。ただ僕にはちょっと量が多いから少し手伝って欲しいかな」
それから俺たちは料理を交換したり田中さんを手伝ったりしてなんとか食べきった。
食事が終わったタイミングで一人の女性が話しかけて来た。
「すいません、ユーマ様でしょうか?」
「はい、俺が優真ですけどどうかしましたか?」
「ギルドマスターよりお部屋の準備が出来ましたので案内をと」
「分かりました」
俺たちは女性の案内でギルドの奥へと連れられ、仮眠室と書かれた部屋の前で立ち止まった。
「皆様にはこちらの仮眠室を二部屋をお貸しします」
案内してくれた女性はそれだけ伝えると元来た道を戻って行った。
俺たちは特に何を言うでも無く男女で別れて部屋に入った。
部屋の奥にベッドが二組あるのが見え横には扉が二つ並んでいた。
手前の扉を開けるとそこには水洗式トイレがあり、奥の扉の中は桶と水の魔道具が壁に取り付けてあった。
「これはシャワー室かな?」
「多分そうだと思いますよ。これに触れば魔力を吸い取る代わりに水が出るみたいです」
俺が魔道具に触れると魔力を吸い取り筒状の魔道具の先から水がチョロチョロと流れ、真下に置いてあった桶に水がじわじわと溜まっていった。
「今日はこれで軽く汗を流して早く寝ましょう」
俺がそう言うと田中さんもそれに同意し、俺たちは手早く汗を流して眠りについた。
これまで通りゆっくり書き続けます