第73話 知っている街でも一歩路地に入ると違って見える
前回のあらすじ
やっと移動することに
ウィンダムさんと分断された
今日襲撃され過ぎなような気がする
「田中さん怪我はないですか?」
馬車から飛び降りた俺はこの中で唯一の一般人である田中さんに怪我が無いか確認した。
「それが怪我どころか、汚れ一つ見当たらないよ」
田中さんが自分の身体を確認して、怪我や汚れが無いことで戸惑っていた。
俺は姫姉が何かしたんだろうと思い姫姉の方に視線をやると、俺の視線に気付いた姫姉が口を開いた。
「いちおう田中さんの服に付与強化で身体強化や防御力アップとかを付与しておいたから」
「そうでしたか、ありがとうございます」
田中さんは姫姉の説明を聞いて納得し、お礼を述べた。
「さてまた襲われた訳だけどこれからどうするべきか。とりあえず馬だけは助けておいた方が良いかな」
俺は誰に言うでもなく呟き、横倒しになりところどころ壊れている馬車に近づいた。
運が良いのか馬車に押し潰されることも無く、横倒しにはなっているが馬に目立った怪我は無かった。
馬車を引くためのハーネスを外してやると馬は自ら立ち上がり傍によって来た。
「馬をどうするか悩むが、まずは俺たちの身の安全を確保する為にも何処に行くべきか。案がある人、挙手」
馬を助けた後、俺は皆に向かってこれからどうするか問いかけるが誰も手を上げてくれなかった。
「誰も何も無いか。ならとりあえず冒険者ギルドにでも行くか、皆もそれで良い?」
田中さんと姫姉が賛成してくれたので俺たちは馬を連れて冒険者ギルドに向かおうと歩き出した。
「それで行き往々と歩き出したのは良いけどそう言えば此処が何処か分からないし、どっちに行けば良いかも分からん」
「馬鹿でしょ。てっきり分かってるから先頭で歩き出したと思ったのに、馬鹿でしょ」
歩き始めて数分経った頃に道に迷っていることを告げると姫姉から罵られ、田中さんは苦笑いを浮かべていた。因みに暗殺者の少女は無表情で何を考えているかは分からなかった。
「それで冒険者ギルドがどっちの方向にあるかくらいは分かっているんでしょ」
「それはまあ、最初に透視して方向だけは確認したよ。でもこの辺の道が入り組んでて行きたい方向に行けないんだよね」
姫姉に問われ、俺は言い訳を添えて素直に答えた。
「こうなったら誰かに聞くのが一番良いんだけど……」
「誰もいないんだよね。もう日も暮れてるし、裏路地だから物盗りの一人や二人居てもおかしくないんだけど」
俺は人が一人もいない辺りを見回しながら言葉を漏らすと、姫姉も同じことを感じていたのか同意を示してきた。
「最後の手段としては一直線に進む事も出来るんだけど」
「ならそれでいいからやりなさいよ」
「いやそれをするには馬を置いていく必要があるんだよね、屋根伝いに行くから」
俺がそう伝えると姫姉は馬に視線をやり、ため息を吐いた。
「はぁ、それはあまりいい案じゃない……、っていうか屋根に登れるんなら上から道順確認すればいいんじゃ」
姫姉の一言で全員からの冷たい視線が一斉に俺へ降り注いだ。
「行ってきます」
俺は居た堪れなくなり屋根に登った。
「それで、道順は分かった?」
俺が屋根から戻って来るなり姫姉が目だけが笑っていない笑顔で聞いてきた。
「はい、複雑に入り組んでいましたがなんとか行けそうです」
今度こそ冒険者ギルドに向かって歩き出した。
それから十数分ほど入り組んだ路地裏を歩いたところでやっと表通りに出ることができた。
「やっと出て来れた」
「本当に長かったわよ。誰かさんが迷ったせいでね」
「まあまあ、出て来れたんだから。結果オーライってことで」
俺はホッとして一言呟くとそれを聞いた姫姉が地味に刺さる言葉を放ち、田中さんが苦笑いを浮かべつつフォローしてくれた。
表通りに出てからはこれまでとは打って変わり、簡単に冒険者ギルドまでたどり着いた。
冒険者ギルドの横にある預かり所に馬を預け、それから冒険者ギルドに入ると冒険者達が酒を飲みながら騒いでいた。
俺たちは冒険者達に目を付けられないようにこっそり受付嬢のいるカウンターに移動した。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの前に立つと受付嬢が決まり文句で話しかけてきた。
「すいません、できればギルドマスターに会いたいんです。これ俺のギルドカードです」
俺の言葉を聞いて受付嬢は俺を怪しみながらも俺が出したギルドカードを専用の機械に通し見てその内容に驚き、俺の顔とギルドカードを交互に受付嬢の視線が往復した。何度も見比べたあと少しだけ落ち着いた受付嬢はやっと俺たちが待たされていることに気付いた。
「か、かしこまりました。今ギルドマスターに確認を取ってきます」
受付嬢が慌てて席を立ち上がろうとしたところで動きが止まり、俺たちの後ろから聞き覚えのある声が話しかけてきた。
「久しぶりと言うほどでもないがまたお主たちがやって来るとはな。今度は人数が増えているようじゃが」
「お久しぶりです、ギルドマスター。実は少し困った事になりまして、力を貸して貰いに来ました」
俺は振り返りそこに立っていたギルドマスターに挨拶をし、用件を伝えた。
「お主からのお願いか。何やら事情があるようじゃし、上で話を聞こう」
俺たちはギルドマスターに連れられて階段を登り、幾つもある中の一つの部屋に通された。
不安な事も多いと思いますがこれまで通り投稿できました