第63話 冒険者ギルドでマトモな人がいた
前回のあらすじ
忘れ物は今度取りに行く
アリスちゃんに怯えられる
冒険者ギルドで絡まれなかった
「どうしたんだ受付の嬢ちゃん」
俺たちが解体場の奥に入ると、中で作業していた熊のようにデカい大男が不思議そうに話しかけて来た。
「お疲れ様です、ハングベアさん。それがですね彼が結構な量の討伐をして来て、向こうの部屋では足りなくなりまして」
職員の話を聞いてハングベアと呼ばれた大男は俺のことを足の先から頭のてっぺんまで眺めた後話しかけて来た。
「なるほど、お前さんマジックバッグか無限収納持ちだな。よしわかった嬢ちゃん、この坊主は俺が相手してやるから他の仕事に戻りな」
大男の言葉に職員は苦笑いをしながら、あとはお任せしますと言って部屋を出て行ってしまった。
「さてと、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は解体場の責任者ハングベアだ。知り合いはだいたいハングさんか親方って呼んで来るが、まぁお前さんの呼びやすい呼び方でいいぞ」
大男は職員から俺のギルドカードを受け取り見送ったあと俺の方に向き直り、自己紹介をしながら握手を求めて来た。
「どうも、俺はDランク冒険者のユーマです。ハングさん、お世話になります」
俺も自己紹介しながら出された手を握り、握手に応じた。
「ふむ、なかなか鍛えてるな。これは期待できるな。よし買い取りに出したい物をここに出してくれ」
「わかりました、でも残りはあと少しですよ」
俺はいつもの様に袋から出した風に今日倒した魔物を一つずつ出していった。
トレントのせいで向こうの部屋よりも床を埋め尽くすことになった。
よくよく考えればゴブリンは解体して耳と魔石しか持って来てなかったから、数が多くてもそこまで場所は取らないんだった。
「えっとハングさん、これで全部です」
俺はちょっとだけ気まずくなりながらハングさんに声をかけた。
「お、おうこれで全部だな。それにしてもこれだけの量、よく怪我もなく倒せたな。トレントなんて普通なら見分けが付かんからよく不意打ちを喰らいやすいのに……」
ハングさんはトレントと俺を交互に見ながらそう零した。
「そうなんですよね、コイツイキナリ動き出してビックリしましたよ。それにその後はどの木もトレントかそうじゃないか調べるために無駄に体力使ったし。でも二体目の時にトレントの気配も掴んだんで、今度からは不意打ちされる前に気付けますよ」
「そ、そうか。それは良かったな。それにしてもこの量を鑑定するのは骨が折れそうだ。はぁ、よし。お前さんが良ければ買い取り金の受け渡しは明日にしたいんだが、良いか?」
ハングさんは俺の出した魔物を眺めながら遠い目をしたかと思うと、溜息を一つ吐いてから自分の頰を叩き俺に金の受け渡しを明日にして欲しいと交渉して来た。
「良いですよ。俺も最初からそのつもりでしたし」
「そいつは良かった。それじゃ明日の昼頃には終わらしておくからそれ以降に受け取りに来てくれ。後は依頼達成の処理をするからついて来てくれ」
ハングさんはそう言うと俺が入って来た部屋から買い取りカウンターに戻り、そこでギルドカードに処理を施して俺にカードを返して来た。
「これで完了だ。それにしてもお前さん、護衛の依頼や盗賊退治の依頼を受ける気はないのか?」
ハングさんは俺を見ながら不思議そうに聞いて来た。
「どうしてだ?」
俺はハングさんの言葉の意味が分からず、質問に質問で返した。
「どうしても何も、Cランクに上げるにはその二つの依頼をこなさないと上がれないからだよ。知らんのか?」
「聞いた気もするけど覚えてないな。どうせランクもわざわざ上げようとしてなかったし」
王都の時は日帰りで行ける範囲にしか行けなかったし、こっちに来てからも田中さんがいたから危険なことは極力避けて来たから護衛や盗賊退治は見向きもしてなかったな。
「そうか、もしランクを上げたいなら両方受ける必要があるから覚えておくと良いぞ」
「そっか、まぁ気が向いたら受けてみる。それじゃ腹も減ったし帰るわ」
「おう明日ちゃんと来いよ、それじゃ気ぃ付けて帰れよ」
俺はハングさんに見送られて冒険者ギルドを出て帰路に着いた。
宿に帰り着く頃には日も落ち宿の食堂からは陽気な声が漏れ聞こえていた。
「あっ、お兄さん……。お帰りなさい。お姉さんなら食堂でご飯食べてますよ」
宿の中に入るとアリスちゃんが怯えながらも話しかけて来てくれた。
「そっか、じゃあ俺もご飯にしようかな」
俺は心に傷を負いながらすごすごと食堂に向かった。
食堂では大勢の客が食事を楽しんでいたが、俺が中に入った途端静まり返った。
そんな中俺を見つけて声を掛けてくる人がいた。
「おーい、優真くんこっちこっち」
田中さんが俺のことを呼びながら手招きしていた。
俺はカウンターでアリスちゃんのお父さんに注文してから田中さんの元に向かった。
席には田中さんと姫姉と暗殺者の女の子が座っていた。
「大変だったみたいだね。まぁいろいろ言われているみたいだけど、僕は君が悪い子じゃないって知ってるよ」
俺が席に着くと田中さんが俺に話しかけ慰めてくれた。
「ありがとうございます」
俺たちはその後、それぞれ今日あった事を話しあい情報を共有しながら食事を楽しんだ。
「それじゃ三人ともまた明日」
夕飯を終えた俺たちは食堂を出てアリスちゃんのお母さんから宿の鍵を受け取った。
そのあと田中さんは俺たちに一言そう言って先に部屋に戻っていった。
まだ続けます