第59話 起こされると二度寝したくなる
前回のあらすじ
館の警護がくる
館の警護を倒す
ソファで寝る
「おい、起きてくれ」
誰かが俺の体を揺さぶりながら声を掛けてきた。
「眠い。あと、三時間」
俺は声を掛けてきた相手に定例文とも言えるセリフを言ってから、もう一度眠ろうと毛布に頭まで包まった。
「三時間も待ってられるかっ、さっさと起きろ!」
声を掛けてきた相手は俺の返事に怒り、俺から毛布を無理矢理引き剥がし、ソファから引きずり落とした。
引きずり落とされた俺は立ち上がりなら眠い目を擦りつつ欠伸をし、俺を叩き起こした下手人が誰か確認する為に相手を見つめた。
俺を叩き起こした下手人はアリシアさんで、そのアリシアさんは怒りの表情を浮かべ俺を睨みつけていた。
「やっと起きたか。これからユーマ君には人に会って貰うから顔でも洗って来い」
「はい?」
俺を叩き起こしたアリシアさんから人に会うといきなり告げられ、俺は生返事をした。
「説明は移動しながらするから、取り敢えず顔を洗いに行くぞ」
アリシアさんは生返事をした俺を何処かに連れて行こうと俺の手を引いてきた。
俺は引かれるままアリシアさんの先導に従い着いて行った。
「これからユーマ君には領主夫人と次期領主の長男に会って貰う。粗相のないように最低限身だしなみを整えに行く。何か質問は?」
アリシアさんは口早にこれから会う人について伝えてきて、それについて何か質問が無いか聞いてきた。
「何でソイツらに会う必要が? それに罠の可能性は? そもそも会いたいなら向こうから会いに来るのが普通では?」
俺はまだ動きの鈍い頭をフルに使って考え、三つの質問をアリシアさんにした。
「お二人に会う必要はある。先程の件でユーマ君から話が聞きたいかららしい」
当事者から話を聞きたいというのは不思議では無いから理解できる。ロクに話も聞かずに判断する馬鹿ではなさそうかな。
「二つ目の質問だが罠は無い、と言いたいが実際には分からない。だが君は私が守るから安心しろ」
なにそれ、全然安心できない。
部屋に入る前に透視して罠の有無は確実に調べないと、命に関わる。
「それで最後の質問だがあのボロボロの部屋で話会いなどできないからだ」
あー、確かにあのボロボロの部屋では話し合いする気にはなれないな。俺はそこでグッスリと寝てたんけどね。
アリシアさんの返答を聞き終えるタイミングで俺たちは洗面室に辿り着いたらしく、俺はそこで数人のメイドさんに捕まり顔と髪を洗わさせられて、その後いじり倒された。
数十分ほど弄り倒され、やっと解放された。
「うん、これでよし。なかなか良い顔になったじゃないか」
顔を弄り倒された俺を見てアリシアさんはそれでもダメ出しをしてきた。
「本当なら服もしっかりした物にしたいところだが、それでは時間がかかり過ぎるからな。それじゃお二人の所に向かうか」
アリシアさんに服もどうにかしたいが時間が無いからと言われ、着替えはしなくても良くなった。
だがそう言われるとどうにかしたくなるのが俺の性。俺は無限収納を覗いて使えそうなのが無いか探した。
探した結果王城での受勲の時着せさせられたゴテゴテの貴族っぽい服を見つけた。
アリシアさんは俺の前を歩いていてコッチを見ていないので、この隙に無限収納にある貴族っぽい服と着ていた服を入れ替えるように着替えた。この早さなんと1ミリ秒。あとついでに勲章もしっかり付けといた。
まさか後ろで早着替えが行われているとは知る由もないアリシアさんは、俺を先導して一つの部屋の前までやって来て立ち止まった。
俺は素早く透視と鑑定を使って武器と毒物が無いかを調べ尽くした。
結果、毒物は無かったが中にいる人は剣か短剣を装備していた。
アリシアさんも緊張していたのか俺に確認もせず、扉をノックして返事を待ってから開けた。
「騎士団長アリシア、ユーマ殿を連れてまいりました」
「どうも優真です。Dランク冒険者です」
アリシアさんの紹介に合わせて俺は王城で習ったお辞儀をしながら自己紹介した。
俺が礼儀正しく挨拶をしたのを見て目の前にいる男女は驚き、俺の着ている服を見て再び驚いた。ついでにアリシアさんも驚いていた。
俺はイタズラが成功してすこぶる機嫌が良くなった。
周りの人達が全員我を忘れている中、一番最初に我を取り戻したのはアリシアさんだった。
「ユーマ、どういうことだ⁈ さっきまで平服だったのに何でそんな高級そうな服に着替えているんだ! それになんで貴族の礼儀作法が出来るんだ!」
アリシアさんはどうやら俺の服がいつのまにか変わっていることと、王城で習った礼儀作法に驚いたらしいな。
「服は王女様から貰ったやつが無限収納にあったから着替えた。あと礼儀作法は王城で一通り習ったから」
「はぁ、なぜ領主に会った時にその挨拶をしなかったのか……」
俺がさらっと答えるとアリシアさんは口を開けてポカーンとした後、溜め息を吐いてそう呟いた。
俺はその呟きを敢えて無視して、未だにぽかーんと口を開けて呆けている男女に話しかけた。
「それで、あなた方は俺に何が聞きたいんですか?」
ペースを乱さずに出せました。