第57話 久しぶりに攻撃魔法を見た
前回のあらすじ
領主キレる
飛竜討伐勲章見せる
領主手の平を返す
「えっ、普通に無理なんですけど」
普通に考えて殺そうとしてきた奴なんて無条件で許せるはずがないし、反省しているかも分からない。
「いやいや、俺殺されかけたし。それに暗殺者と通じてる奴、いつまた襲われるか分かったもんじゃねーし。後顧の憂いを断つ為にもここで始末しておきたいんだけど……」
俺がそう伝えるとアリシアさんは目に見えるほど焦りだし、領主は肩を震わせ顔面を真っ赤にしながら怒鳴りだした。
「この私がここまでしたんだ! 何故許さないッ! そもそも貴様の様なガキが領主である私に刃向かう事自体間違っている! そうだ、ここでは私がルールだッ! たとえ貴様が強かろうと今は丸腰。死ねッ! 炎槍、穿てファイアラぷげらッ」
領主は逆ギレをしてきた挙げ句、最終的には魔法を使って俺に攻撃を仕掛けてきた。仕方無く無限収納からテキトーに取り出した物を詠唱を妨害するように投げつけた。
投げつけた物は俺の器用さ補正で上手いこと領主の口にクリーンヒットして、領主は口から血を流しながら倒れた。
「なぁアリシアさん、コレってもう言い訳の余地無いよね?」
俺は思考を交渉から戦闘に切り替えつつ、一応アリシアさんに最終確認を取った。
「待ってくれ! 今のは領主様が悪いがここは一先ず落ち着いて私に任せてくれ! 頼むッ」
アリシアさんは俺の行動を止めようと右腕を掴んできたが、俺は反対の手で無限収納からデュアルガンドを取り出して領主の右腕目掛けて引き金を引いた。
弾倉に装填されていたのは刻印魔弾ストーンバレットで領主の右腕を穿ち床に紅いシミを作った。
「ガァぁッ?! 痛いッ! クソックソッアリシアァ回復をかけろッ!」
領主は撃ち抜かれた右腕を抑えながら痛みに雄叫びを上げ、アリシアさんに回復魔法をかけさせようと怒鳴って命令した。
アリシアさんは領主の命令に従い、領主に駆け寄って素早く止血と回復魔法をかけた。
俺はそれを見つつシリンダーを回し刻印魔弾をエアバレットに変更しながら領主へ話しかけた。
「さて、次はどこを撃ち抜いてやろうか? ああ、そう言えばさっき面白いこと言ってたな。確か俺の仲間を俺の前で殺すとかなんとか……。俺もアンタに倣ってアンタの目の前でアンタの家族でも殺してやろうか?」
アリシアさんは領主の治療を終え、俺の前に立ちはだかった。
「ユーマ君、待ってくれ! お願いだから!」
アリシアさんは未だにどうにかなると信じているのか俺に頭を下げてきた。
「イヤです。アリシアさん、さっきの魔法あなたも見ましたよね。それでもソレを庇うなら俺はあなたも敵として排除しますよ」
俺はアリシアさんの頼みを断りつつ、デュアルガンドを床に這い蹲っている領主から目の前に立つアリシアさんに向けた。
「それはそうだが……、だがここで領主様を殺してもどうにもならない! それどころか君が犯罪者として指名手配されるぞ!」
アリシアさんは脅しとも取れる事を言い出したので、それがどれだけ自分達の首を絞める事か教えてやった。
「俺を指名手配すれば困るのはそっちだろ。この事があの王女様にでも伝われば詳しく調査されて今回の件は明るみに出る。王女様もこれ以上失態を増やすわけにはいかないしな。それこそ王女様の命が危ないし」
ただでさえ俺たちを召喚したことがバレてることで国民からの信用はガタ落ち、諸外国や冒険者ギルドからもたぶん色々突かれているはず。
そこに今回の事があれば内からも外からも攻める口実を作ってしまう。特に俺たちの正体が公表されて指名手配された場合、それは小火にガソリンを注ぐに行為に等しい。
「命がかかってる? どういう事だ?」
アリシアさんはイマイチ理解出来ていないのか頭にハテナマークを浮かべている。
俺は何も分かっていないアリシアさんに俺たちの隠しているもう一つの正体を告げた。
「簡単な事だよ。俺と一緒にいる姫姉がSランク冒険者で英雄のオーヤの孫だからだよ。あの爺さん王城でも来て早々王女様殺そうとしたからな」
俺があの日王城で起こった事を簡潔に伝えると、アリシアさんはやっと事の重大さに気付いたのかアリシアさんの顔から血の気が引いていった。
アリシアさんの後ろで這い蹲っている領主も、それを聞いていたのか全身をガタガタと震わせていた。
「せっかくギルドマスターが身を呈して穏便に済ませようとしてたのに……。こんなに事を大きくしちゃったし、もう後戻り出来ないかもな」
ホントにギルドマスターにはお悔やみ申し上げます。俺たちの事に気付いてから周りに被害が及ばないように手を尽くしたのに領主のせいで全部パーになったんだから。
「言っとくけど俺たちじゃまだ爺さんを止めれないからな。それにもし指名手配でもされれば他国に逃げるから」
この街にも他国のスパイが隠れているはずだから、ソイツにでも手引きして貰えれば逃げる事は容易。他人に借りを作るのは嫌だが命には変えられない。
まぁスパイからすれば爺さんに恩を売れる機会だから悪いようにはならないはず。
アリシアさんは俺の最悪の時にとる計画を聞き、その場に膝から崩れ落ちてしまった。
領主はいつのまにかドアの前にまで這って移動していた。
そして終始空気に徹していた執事は立ったままで気絶していた。
「おいクズ、何逃げようとしてんだ。殺すぞ」
俺は逃げようとしている領主にそう言い目の前にデュアルガンドの引き金を引きエアバレットを撃ち込んだ。
エアバレットは領主の目の前の扉に当たり扉をボロボロに壊した。
今回も投稿出来ました