第52話 アリシアさんがやって来る
前回のあらすじ
眠くてイライラしていた俺は衛兵に挑発をした。
そうしたら衛兵が襲い掛かって来た。
襲い掛かって来たので全員返り討ちにした。
「やっちまった……」
幾らイライラしていたからと言って感情に任せて全員気絶するまで殴るのはやり過ぎだった。
俺が死屍累々のど真ん中で黄昏ていると、食堂の入り口から誰かがそーっと覗いている気配を感じた。
たぶん静かになったから誰かが確認にでも来たのだろう。
俺は誰が覗いているのか確認する為に振り返りながら話しかけた。
「俺は悪くないッ! 俺は襲われて仕方なく全員気絶させただけだから! 信じてくれ」
側から聞いていると胡散臭い弁明をしているように思うが事実なので仕方がない。
だが俺の言葉は覗いていた人には届かず、振り返った頃には覗いていた人は居なくなっていた。
「マジでどうしよう……」
この現場を何も知らない人が見たら確実に俺が犯人扱いだよなぁ。
でも一部始終は食堂にいた野次馬が見てたし、それに厨房の方にアリスちゃん達のお父さんも見ていたはずだし流石に証言してくれるよね。しなかったらどうしよう。
最悪の場合、逃げる事も考えないといけないかも。
そうなったら一緒にコッチに飛ばされた田中さんにも迷惑が掛かるしどうにかするしかないか。いや、こうなったら原因になったあのクソ女と領主とついでにギルドマスターをタコ殴りにしに行くか……。
俺が物騒な方に思考が傾き始めていると食堂に誰かが走りこんできた。
「アリスッ、アリスは無事か!」
飛び込んで来たのはアリスちゃんのお姉さんで騎士団の団長のアリシアさんだった。
アリシアさんは叫んだ後、食堂内の惨状に気付きぶっ倒れている衛兵の真ん中に立っている俺に抜剣して話しかけて来た。
「おい、お前がコイツらを殺したのか?」
どうやら倒れている衛兵が全員死んでいると勘違いしているみたいなので誤解を解く為に頭を戦闘から交渉に切り替えて話しかけた。
「安心して下さい、殺してはいませんよ。それよりもそんな物騒な物を下ろしてくれませんか」
アリシアさんは俺の言い分を聞いて近場に倒れている衛兵の一人に近づき、俺に剣を向けながらその衛兵の口元に手を当て呼吸を確認しているみたいだった。
「嘘は吐いていないみたいだが、何故こんな事になっている。正直に話せ!」
衛兵が生きていることが確認できたのかアリシアさんは剣を収めてから俺に話しかけて来た。
「正直に話せと言われても俺は昨晩、暗殺者に襲われてそれを無力化して捕らえたからアリスちゃんにアンタを呼ぶように頼んだ。そしたらソイツらが来て俺に襲い掛かって来たからそれを撃退しただけ。それにぶっちゃけアンタも共犯じゃないか疑い始めている。ついでにこの宿屋の人間も……」
まあホントのところ関係ないことはアリスちゃんの反応やアリスちゃんのお父さんの反応で予想は出来ている。だが態々そんな事教えてやる義理は無い。
アリスちゃんやアリスちゃんのお父さんが信用できても、アリシアさんが信用できるわけじゃ無い。
「私を疑う? 何故だ?」
アリシアさんは意味がわからないという顔で俺に聞き返して来た。
これが演技ではないとほぼほぼ確信しているが、ここはあえて疑って掛かるのがベターだな。
「何故って暗殺の依頼を出したのは領主だって暗殺者が言ってたし、それにアンタは領主側の人間だから。それ以上何か理由が必要か?」
この情報でアリシアさんがどう動くかによって今後の展開が決まるな。
俺が暗殺の依頼を出したのが領主だと告げるとアリシアさんは見るからに動揺しだした。
「まさか、領主様がそんな事……。だが今回の件は明らかにおかしい。もしかしたら本当に領主様が……」
アリシアさんは俺を無視してブツブツと呟き、何かを考え始めた。
「あの〜話が終わったなら眠いし部屋に戻って寝たいんで、部屋に戻りますね。何かあったらまた部屋にでも来てください」
考え事をしている今のアリシアさんならこのまま見逃してくれるかなと、淡い期待でそう言って俺はアリシアさんの横を通り過ぎ食堂を出ようとした。
しかし横を通り過ぎる時にアリシアさんが俺の腕を掴んで来た。
「逃がすわけがないだろう。それに君の主張だけを信じるわけにもいかないし、彼らにも起きてもらわないと」
アリシアさんはそう言うと周りで気絶している衛兵達が全員生きているか確認したあと、気絶している衛兵達にエリアハイヒールを掛けた。
それから近場にいた衛兵に蹴りを入れて叩き起こした。
「ゲホッゲホッ、一体何が……」
あっそういえば俺を積極的に殺そうとしていた奴がいたはず。自由に動ける様になったら逃げるか襲い掛かって来そうだし一応縛っておくか。
「あっアリシアさん起こすの手伝いますよ」
俺はそう言いながら俺を積極的に襲い掛かって来た奴らに無限収納からミスリルを出してスキル形状変化で腕と脚をまとめて拘束しておいた。
「おい、何をしているんだ?」
俺がミスリルをスキル形状変化で拘束するついでに前衛的なアート風にしていると、アリシアさんが呆れ果てた顔で問うてきた。
「これですか? これは俺がまた襲われない様に保険をかけてるんですよ」
「そ、そうか。でもここまでする必要は無いんじゃないか?」
俺からすればこの位ではまだ足りないんだがアリシアさんに見つかり、そう言われたのでこのくらいにしておく。
「それでは彼らにも話を聞くから君はそこで待っていてくれ」
アリシアさんは衛兵から事情を聴き始めた。
余裕があれば10日後に更新します。