第51話 衛兵に暗殺者を引き渡したい
前回のあらすじ
呼んだ衛兵に襲われた
「それじゃ何があったのか聞かせて貰いますよ」
俺の対面に座った衛兵はそう切り出した。
「ええ、良いですよ。まあ簡単な話ですよ。そこで未だにブツブツ呟いている人が暗殺者で、俺たちを殺そうと部屋に侵入して来て俺たちがそれを返り討ちにしただけですけど」
俺はそう言ってから暗殺者に近づいて、一発平手打ちをかまして正気を取り戻させてから話しかけた。
「なぁ、お前は俺たちを襲って返り討ちにあったんだよな?」
俺が優しく問い掛けると正気に戻った暗殺者は首が千切れそうなくらいに縦に振った。
「これで良いですよね。それじゃそこの暗殺者を連れて行って下さい。それじゃそう言う事で、朝食下さい!」
俺は言いたい事は言い終えたので朝食をアリスちゃんパパに注文した。
アリスちゃんのお父さんは朝食を持って来る際に謝罪と一言を俺にだけ聞こえるように言って厨房に戻って行った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 幾ら何でもそれだけでハイそうですかとはいかないよ!」
衛兵は焦ったように俺に話しかけて来た。
「えぇ〜、俺昨日襲われて寝てないからさっさと朝食食って寝たいんだけど……」
俺はそう言ってから誰から見ても分かるような嫌そうな顔をしてから欠伸をした。
「そう言わずにもう少し詳しく話してほしい」
衛兵は必至の形相で俺に話しかけてくる。
「はぁ、それじゃ俺が朝食食べ終わるまでなら質問に答えますよ」
このままだと部屋まで押しかけて来そうな勢いの衛兵に押され、俺は朝食を食べ終わるまでは相手する事にした。
「それで他に何が聞きたいんですか?」
俺は運ばれて来た厚切りベーコンとスクランブルエッグにポトフ、そして少し冷めてしまった丸パンを見ながらに言った。
衛兵は朝食にしか目がいっていない俺を呆れた目で見ながら質問をしだした。
「まず何故暗殺者に襲われる事になったかが知りたいんだが、何か心当たりは?」
「心当たりっていうか、それはそっちの方が詳しいだろ。さっきも俺を殺そうとあんた達が襲って来たんだから」
俺はまだアツアツのポトフを一口飲んでからそう返した。
「その件は彼の判断であって、暗殺者とは関係無いんじゃないかな」
衛兵は先の俺を殺そうとした衛兵の事と暗殺者に狙われた事は関係が無いと言い出した。
まぁもしも関係していて今回の暗殺を依頼している事の証拠が出てきたら、街に住む領民からの信用はガタ落ちだしな。
それにこの事が他の貴族にでも知られたら、それをネタに領主が方々から脅されるのが目に見える。
「まぁ俺からしたら今後襲われなければどっちでも良いんですけど……。それに一応そこの暗殺者に色々話して貰ったし」
俺が丸パンに切れ込みを入れてスクランブルエッグとベーコンを挟みながらそう言うと、周りに立っていた衛兵の数人が顔色を変えて焦り出した。
顔色を変え焦り出さなかった残りの衛兵達は、暗殺者相手に何をやってるんだと呆れ気味だった。
「その情報を私たちに教えてはくれない……ですよね」
目の前に座った衛兵はダメ元な雰囲気で聞いてきた。
「そうですね、この情報に幾ら出してくれますか?」
丸パンを頬張りポトフで流し込んでから俺がそう言うと、周りに立っていてさっき顔色を変えた数人が怒鳴り出した。
「貴様ッ! 衛兵である我々に金銭を要求するとは、その減らず口叩けぬ様にしてやる!」
顔色を変えていた数人の衛兵は顔を怒りで真っ赤にしながら腰に携えた剣の柄に手を掛け抜剣しようとした。
「良いの? ここで抜いたら後戻りはできないよ」
「ここでお前を殺して箝口令を敷けば良いだけだッ!」
俺は最後の忠告とばかりに言ったが聞き入れられず、怒り心頭の衛兵達は剣を抜いてしまった。
「お前たち! 止まれッ!」
目の前に座っていた衛兵は剣を抜いた衛兵達を止めに入るが、剣を抜いた衛兵達はそれに従わず俺に斬り掛かって来た。
「はぁ、とりあえずスティール」
俺は慣れた手つきで襲い掛かってくる衛兵達の剣とズボンのベルトを奪い取った。
剣とズボンのベルトを奪われた衛兵達は見事なくらい綺麗に足を縺れさせて転けていった。
「さて、ごちそうさまでした。さて食後の運動といきますか」
俺はポトフを飲み干し立ち上がって無限収納からミスリルゴーレムの手を取り出し、スキル形状変化で普段使っている刀と同じくらいの長さに整えた。
「これで準備完了。ホント、あれ程言ったのに……。そっちから襲って来たんだから文句言うなよ。フゥ……それじゃ衛兵の皆さん、絶滅タイムだッ! 死にたく無けりゃ死ぬ気でかかって来いッ!」
俺は思考を交渉から戦闘に切り替えながら、目の前で立ち上がろうとした衛兵の足目掛けてミスリルの棒を打ち付けた。
ボキッと骨が折れる小気味の良い音が聞こえ周りにいた衛兵は皆恐怖し後退った。
食堂に野次馬で残っていた客達も俺の行動に恐怖し入り口に駆け出した。
俺は野次馬が入り口を塞いでいる間に近くにいる衛兵から足と腕の骨叩き折り逃げられなくしていく。
恐怖し連携もバラバラになった衛兵達では俺の相手にならず、野次馬が逃げ切る頃には俺と話していた衛兵以外全員骨を折られ悲鳴を上げながら倒れていた。
俺はそれを眺めながら最後まで残しておいた衛兵の頭にミスリル棒を振り下ろした。