第193話 今日は此処まで
前回のあらすじ
五階層のボスに挑む
無限湧きのボス部屋で稼ぐ
魔道具が壊れてゴブリンラッシュが終わる
第六層に辿り着いた俺たちはこれまでとは違う雰囲気を感じながらクリスタルの前にある看板を読んだ。
【チュートリアルは此処まで、此処からが本当のダンジョンの始まり。ようこそ異世界間直通トンネルダンジョンへ! 先に進むなら扉を開けて中に入りましょう。帰るならクリスタルに触れましょう。このクリスタルに触れればダンジョンの入り口まで転移します。次にダンジョンに入る際にクリスタルのある階層を思い浮かべながら扉に触れる事でその階層に直接転移できます】
どうやらあの道のりを歩いて帰る必要はないし、次回からはここからスタート出来る親切設計らしい。
「直接帰れるみたいだけどどうする姫姉?」
俺は出来るなら帰りたいなと思いつつ姫姉の意見を聞いた。
「取りあえずこれが罠じゃないか確認してくれる?」
俺の質問にニッコリ笑いながら姫姉はそう言ってきた。
俺は「こんなところで罠は無いと思うけど」と言いつつ鑑定解析を使った。
ダンジョン専用転移クリスタル
ダンジョンが冒険者を継続的に招き入れるために設置したとされる転移クリスタル
階層の多いダンジョンほど設置される傾向にある
転移クリスタルに触れた者の魔力パターンを解析して個別に登録しその者が到達したクリスタルのある階層までの転移を可能にする
疑り深いのは結構だけど僕は鬼じゃないから警戒しなくても階層毎の入り口には罠は仕掛けないよ
鑑定解析の結果罠が無い事は証明された。それとダンジョン制作に関わった者が鑑定解析に割り込んでくるってことも分かった。
俺は正直鑑定解析に割り込まれたことに少し戸惑いつつ姫姉に結果と鑑定解析に割り込んできた者の事を伝えた。
「ふぅん、そいつが言うには階層毎の入り口には今後も罠は無いってことね。でもそれって信用できるの?」
「確かに疑わしいのは分かるが鑑定解析に割り込めるほどの存在ってなるともう神とかだと思うから信じようが信じまいが結果は同じだと思う」
俺がそう言うと姫姉も妙に納得した様子で「確かにそうよね」と頷き返して来た。
「それで罠も無いみたいだけど帰る?」
俺は再び最初の質問を出来れば帰ると言ってくれと思いつつ姫姉に投げかけた。
「チュートリアルが終わった事だしどうやら優君は帰りたいみたいだから帰ろっか。まぁ私も少し疲れたし汗もかいたからシャワー浴びたい気分だったし」
分かり易く帰りたいことを強調したおかげで姫姉から帰る事に同意を貰え、俺たちは帰るためにクリスタルに触れた。
クリスタルに触れた瞬間身体に何かが駆け巡る感触を受けた後、足元に魔法陣が現れ光を放ち次の瞬間にはダンジョンの入り口に立っていた。
「ちゃんと帰って来たみたいだな」
俺が日の暮れた王城前広場の眺めながらそう呟くと姫姉も「そうだね」と俺の呟きに返事をした。
そんな俺たちに話しかけてくる者がいた。
「ユーマ様方お帰りなさいませ」
そう話しかけてきたのはダンジョンに入る前に一悶着あった時、俺たちに絡んできた兵士を止めて叱責をしていた兵士だった。
兵士からの丁寧な挨拶に俺は「どうも」と言いながら会釈をし姫姉たちも笑顔で頭を下げた。
その後兵士は「皆様が戻られた事を王城に伝えて来い」と近くに居た兵士に命令し、俺たちに向き直って「馬車をご用意しますのでこちらで少々お待ちください」と言って簡素な椅子と机がある場所に案内してくれた。
俺たちは椅子に座って歩き疲れた足を延ばして寛いでいると直ぐに俺たちに話しかけて来た兵士が高級そうな馬車を引き連れて戻って来て「馬車のご用意が出来ました」と言ってきた。
今までの兵士たちとは比べ物にならないくらい丁寧な対応に俺は苦笑いを浮かべつつ「ありがとうございます」と感謝の言葉を返した。
それから俺たちは馬車に乗り込み王城までドナドナされ、王城の裏口で待っていたメルリアさんに「お疲れのところ申し訳ありませんが王女様が皆様の話をお聞きしたいとのことですのでご足労願えますか?」と言われ俺たちは「分かりました」と返して王女様が待つ部屋まで移動してきた。
「皆様お疲れの所申し訳ありません。ですがあのダンジョンに初めて入った者の話を早急に聞く必要があった為、ご足労願いました。それでダンジョンの中はどうでしたか」
部屋に通され席着いたところで王女様は俺たち呼びつけた事に対して頭を下げた後、ダンジョンの中がどうなっているかワクワクしたような表情で聞いて来た。
俺たちは第一階層から第五階層までがチュートリアルとなっていた事、そしてそのチュートリアルがどのようなものかを事細かに説明した。
そして第六階層の入り口に転移クリスタルがありそれを使って帰って来た事を話した。
「なるほど、五階層までは初心者をダンジョンに慣らすために設計されていると。そして転移クリスタルがあるという事はやはり先は長い可能性があると。貴重なお話、ありがとうございます。後ほどユーマ様にはダンジョン内のマップについても対価は支払いますのでお願いします」
王女様は俺たちの話を聞いてダンジョン攻略までまだまだ時間が掛るだろうと結論付けた後、俺に向かってダンジョンのマップを買い取ると言ってきたので俺は王女様に「分かりました」と返した。