第163話 グラシア公爵派閥の悪だくみ対応で悩む
前回のあらすじ
会議が終わり部屋に戻る
寂れた店に集まる怪しい者たち
怪しさ満点の者たちが悪だくみをする
「はぁ……、やっぱりこうなったか」
会議室から自分の部屋に戻った俺はとある派閥の長に近い貴族に付けたマーキングからその貴族と派閥内の貴族たちがコソコソと俺たちを陥れる作戦を練っている所を覗き見し、話の内容を録画録音した魔石を手にしながら考えていることがバカ貴族たちと殆ど変わらないとひとり呆れていた。
「それはそれとして、このバカげた計画の情報を誰に渡すべきか……」
俺は悩みの元凶である証拠の魔石を見つめながら誰に言うでもなくそう呟いた。
ここは穏便に王女様に渡してさっさと貴族たちを捕まえて貰うべきか。でも王女様でもそこまでの権限があるかどうか……。やはりここはこの貴族たちの派閥の長であるグラシア公爵に言いつけて成り行きを見守るべきか。でもまだグラシア公爵がどんな人物で何を考えているかよく分からない相手に証拠を渡すのはリスクが高いか……。それともいっそ両方に渡して反応を見るか。
そんな感じで俺がこの手にした情報をどうするべきかで悩んでいるとそれを遮るかのように誰かが部屋の扉をノックしてきた。
俺はまだ夕食には早いよなと窓の外を見てそう思いながら「はーい」と返事をしつつ部屋の扉を開けると扉の前には何故か姫姉が立っていた。
扉が開いて開口一番に姫姉は「それで優君、会議どうだった?」と言ってきた。
どうやら姫姉は今日の会議が最終的にどうなったか気になって話を聞きに来たみたいだった。
姫姉にそう問われた俺は廊下でするような話ではないよなと思い「どうと言われても……。とりあえず立ち話じゃなんだから入って」と言って姫姉を部屋に入る様に促し、姫姉とその後ろに隠れていた少女を部屋に迎え入れた。
部屋に通された姫姉はベッドに腰掛けた後自分の膝の上に少女を乗せて俺は椅子をベッドの近くまで動かして座った。
「それでどうだったの?」
全員が座ったところで姫姉がそう話しを切り出し、俺は何処から話したものかと悩み最初から話すことにした。
まず俺は会議の初めにウォレンさんから全員に伝えられた扉の事とその調査に入る人員の選抜についての事、その各派閥の上位貴族数名と司祭だけに俺宛に届いたスマホの映像を見せた事、動画を見たその上位貴族から派閥下の貴族たちに動画の内容が伝えられローガン侯爵派閥の者たちからとグラシア公爵個人から協力してほしいと頭を下げられた事、貴族の派閥ごとのスタンスがどうなのかという事、そしてグラシア公爵派閥の人間だけが頭を下げずに敵対的な目をしていた事を伝えた。さらに追加でさっきまで見ていたとある貴族の計画も見せて姫姉たちに気を付ける様に注意を促した。
「へぇ、バカたちが捕まったばかりなのにそんなこと考えるバカがまだ居たんだ。それで優君はその映像誰に見せる気なの?」
話を聞き終えた姫姉はとある貴族たちの行動に呆れながら俺が持っている情報を誰に売るのか楽しそうに尋ねてきた。
「それだけどまだ決めてないんだよ。王女様か派閥のトップであるグラシア公爵に渡そうかと思ってるんだけど……どっちも微妙でさ」
「ふーん。確かに王女様に敵対心を持っているグラシア公爵派閥に王女様が何か言っても表立っては聞いたふりをして裏で反抗される可能性があるし、だからと言ってその派閥のトップであるグラシア公爵がどこまで派閥を掌握してるか分からないから公爵本人に渡しても計画が止められるか分からないかぁ。これはちょっと難しいな」
「そうなんだよ。一応会議の場では俺に頭を下げたりして真面そうではあるけどそれだけでグラシア公爵を丸っきり信用は出来ないし、王女様はそれなりに信用できるけど敵対的な派閥への対応力は無い気がするんだよ。姫姉ぇ、何か良い案無い?」
俺の悩みの種をズバリ言い当てた姫姉に俺は泣きつくように助けを求めた。
「あはは、そんな都合の良い案なんて直ぐには出て来ないよ。まぁ一緒に考えてあげるからさ」
だがさすがにそんな都合の良い事は無く、俺たちはメルリアさんが夕食の時間だと呼びに来るまで話し合いを続け、最終的に結論が出る事は無く時間切れとなった。
「ユーマ様、夕食の準備が整いましたのでお迎えに上がりました」
メルリアさんの呼びかけに俺が返事をして、俺たちは廊下に出た。
俺の後に姫姉と少女が出てきてメルリアさんは「ヒメナ様方もこちらにいらっしゃましたか」と少しホッとした様子で呟いた。
多分姫姉たちの部屋に呼びに行ったら返事が無かったから気がかりだったのだろう。
それから田中さんも部屋から出て来て全員が揃ったところで俺たちは食堂に行き、王女様やウォレンさん、それにウィンダムさんたちと食堂で顔を合わせて夕食を楽しんだ。
今日も最高の料理たちに俺たちは舌鼓を打ちしっかりデザートまで堪能し満腹になった事で食事前にはあれだけ悩んでいたグラシア公爵派閥の悪だくみのこともすっかり忘れて、良い気分のまま部屋に戻るなり風呂に入って疲れを取りそのまま眠りについてしまった。