第160話 大貴族、扉が出来た原因を分からされる
前回のあらすじ
会議と言う名の報告が始まる
騎士団から扉の調査員を選ぶことがウォレンさんから伝えられる
大貴族以外を追い出して俺の動画を見せる
「では次は私の番だな。他にも情報を手に入れているのか聞いても良いだろうか?」
質問の順番が回ってきたローガン侯爵は待ってましたとばかりに鋭い視線で俺を見つめ、まだ出していない情報はないか問い掛けてきた。
俺は最初から今持っている情報は見せるつもりだったのにわざと隠していると思われたことに少しだけムッとして「ありますし、全員の質問が終われば次の動画を見せますよ」と少しだけ語気を強めに伝えた。
ローガン侯爵は俺の返答に少しだけ怯んだ様に「そ、そうか。不快な思いをさせてしまったなら申し訳ない。私からは以上だ」と逃げる様に早口でそう言って質問の権利を最後に残された司祭に渡した。
「それでは私の番ですね。ではユーマ殿の世界ではあんな風に簡単に神様の御尊顔を拝する事が可能なのですか? ユーマ殿も神様にお会いになった事があるのですか? もし会った事があるのでしたらどの様なお姿だったか詳しくお教え頂けませんか?」
俺への質問の順番がやっと回ってきた司祭は目を輝かせて捲し立てる様に息継ぎ一つせずに三つの質問を投げかけてきた。
「えーっと神に簡単に会えるかと言う質問ですが、神には簡単には会えません。俺も会った事のある神は一柱? だけですし、それも動画に出てきた神とは別の神で見た目は……あれ? 思い出せない。どんな姿だったけ?」
あまりの勢いに若干押されながら俺は司祭の質問に答え、そして神の姿について思い出そうとしたところでどんな容姿だったのか思い出せないことに気が付いた。俺たちへの説明が終わってからゲームをしていたことは思い出せたのに。
「そうですか……。ユーマ殿の世界でも神様に謁見するのはそう簡単ではございませんか」
司祭は俺の回答に分かり易くがっかりした様子でそう言った。
あまりの落ち込み様に少しだけ引きつつ俺はこれ以上司祭からの質問が来ない様に「じゃ次の動画も見せますね」と司祭の質問タイムをぶった切って2番の動画を再生することにした。
2番の動画では俺たちの世界に突如としてこちらに現れた扉と酷似した扉が地震と共に現れたとして報道されている動画だったのだが、公爵たちはまず動画に映りこんだ高層建築物に驚き、そして最後の方に出てきた扉の写真を見てまた驚いた。
動画を見終えた公爵たちは俺に対して何も質問はしてこなかった。
動画を見て王城前広場に現れた扉と動画で出てきた扉に因果関係があり、信託と俺が伝えた鑑定結果が示している事に間違いが無いとはっきりと理解したのであろう。
公爵たちは悩ましそうに頭に手を当てたりため息を吐いたりし、どうにかやらかしてしまった現実を受け入れようとしていた。
そんな公爵たちの反応を見て俺は自業自得だろと思いながら「最後の動画も流しますね」と言って何か言おうとしたローガン侯爵や公爵たちの言葉を遮って3番の動画を再生した。
3番の動画では冒頭から神であるレアー様が突如現れた扉について話始め、内部がダンジョンと化している事、そのダンジョンでは死の危険の代わりに財宝が手に入る事、そしてダンジョンがこれから増えて行くという事を説明して動画は終わった。
斯くして異世界の神からの信託と俺が提供した俺たちの世界の神が直接話した動画であの扉が出来た原因が異世界での勇者召喚にあると神によって断定されてしまった。
流石に二つの世界の神に罪は勇者召喚にあると断定されてしまっては返す言葉も無いのか公爵たちは口を噤み、司祭に至っては「おお神よ、罪深き我らをお救い頂き有難う御座います! この罪は我が一生を掛けて償って生きます!」と神の慈悲に対して贖罪として人生を捧げると誓っていた。
公爵たちは無言を貫き、司祭は神に祈りを捧げるという混沌とした状況でこのまま無駄に時間が過ぎていくかに思われた時、ウォレンさんが口を開いた。
「グラシア公爵、動画の内容で何かユーマ殿に質問はあるか?」
名指しで問われた公爵は行き成りの事に狼狽えつつも「な、なにもありません」とどもりながら答えた。
公爵のその返答にウォレンさんさんは「そうか」と言うと次はその隣に座る貴族に向け同じ質問をし、ウォレンさんに問われたその貴族も「なにもありません」と答えた。
公爵たち二人が質問権を放棄したのでウォレンさんはローガン侯爵に同じ質問をした。
「ローガン侯爵、貴殿は何かあるか?」
「いえ、何もありません」
ローガン侯爵もウォレンさんの質問に困ったような表情を見せながらそう答えた。
「そうか、では最後に司祭殿、何かあるか?」
誰も質問をしない事で順番としては最後の司祭に質問の権利が回ってきた。
「はい、あります! ユーマ殿、この度は異世界の神の御尊顔を動画で拝する機会を与えて頂き、誠にありがとうございます! 今後も誠心誠意、神への感謝を忘れずに司祭としての役目を全うして勇者を願ってしまった愚かな人間の一人として贖罪をして生きていく所存です」
司祭は質問では無い俺への感謝を伝え始めたと思ったら今度は王が行った勇者召喚を批判するようなことを言いつつ今後の人生をどうするか高らかに宣言してウォレンさんや公爵たちは顔を引き攣らせていた。