第156話 王女様との交渉成立
前回のあらすじ
ブツが日本語で書かれている事に今更気付く
ブツに翻訳のエンチャントが施されていた
王女様に動画も見せた
「ユーマ様、貴重な情報をお教え頂きありがとうございます。それでユーマ様は私に一体何をお望みですか?」
王女様は何故か悔しさと恨みがましさの入り交じった様な表情を俺に向けながら俺にそう問い掛けてきた。
俺は王女様のその問いにどう答えるべきか頭を悩ませる羽目になった。
そもそも俺のちょっとした失敗で互いに苦笑いを浮かべるあの微妙な空気をどうにかするためだけに王女様に動画を見せたのだが、どうやら王女様は俺が何か叶えたい要求があってわざわざ情報を先出ししてきたと勘違いしているらしい。
俺としては微妙な空気からの脱出したことで願いは叶ってしまっているのだがそれを馬鹿正直に答えるのはこっちの情報の出し損なので言い難い。だからと言って今、王女様に要求したいことと言われても何も思い……いっぱいあるな。
そもそも貴族連中が俺たちに手を出さない様にしろっていう契約があるのに平気で契約違反をする相談を俺たちの目の前でする貴族たちをマジでどうにかして欲しいし、日本に帰るためにあの扉の向こうにあるダンジョンに入る許可が欲しいし(まぁ出さなきゃ勝手に入るけど)、それにあのダンジョンがどうなっているかによっては中を調べる手伝いも欲しいし、他にも細々とした願いは色々あるけどそれは重要って程ではないので今は置いておいて。
俺がそんな事を考えていると痺れを切らした王女様が俺の思考を遮る様に引き攣った笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「そのぅユーマ様、今度は一体どんな無茶な要求を? 出来れば私が出来る範囲の事でお願いしたいのですが」
無視されていたことにちょっとだけイラッとしている様子の王女様の棘のある質問にどうしようか一瞬考え込み、とりあえずは貴族連中のことをどうにかして貰えないか言ってみることにした。
「では情報の対価の前に会議の席で俺たちに罪を被せてきた貴族連中を確実に処罰を約束して下さい」
「それは勿論、やらせていただきます」
いつもなら何だかんだ言い訳をしてから最後に了承する優柔不断な王女様とは別人の様な二つ返事でそう返してきて俺は少し驚いた。
でもこれで王女様が口約束とはいえ断言し約束したので貴族連中の事はとりあえず任せることが出来そうだ。
「そうですか、その言葉を聞けて良かった。ではその件は王女様に任せます」
「はい、勿論」
さてと次は情報の対価だが、あんまり欲張りすぎて足元を掬われるのは本末転倒なのでとりあえずあの扉の向こうにあるダンジョン関連の要求だけして王女様の反応を見るか。
「それでは情報の対価についてですが俺からの要求はとりあえずあの扉の向こうにあるダンジョンに入る許可と調べる手を貸して欲しいくらいですかね」
俺がそう言うと王女様は少し考えるそぶりを見せたが直ぐに口を開いた。
「分かりました、ダンジョンに入る許可は問題ありません。それに調査もこちらもあの扉の向こうにあるダンジョンの情報については調べる必要がありますのでその情報を共有するという形で良いですか?」
王女様はダンジョンに入る許可と自分たちが手に入れた情報を共有する形で良いか尋ね返してきた。
「それでお願いします」
俺としては情報が得られるなら願ったり叶ったりなので二つ返事で同意した。
「では情報が手に入り次第ユーマ様方にも報告書をお渡しします。それで……何か他にも要求があったり、とかは?」
「いえこれだけで十分です」
これ以上は借りを作ることになりそうなのでこのぐらいにしておくことにした。
「そうですか、分かりました。では時間も良い所ですのでこの位で。ありがとうございました。メイドに部屋まで送らせます」
王女様がそう言い終わると扉の近くで待機していたメイドさんが俺たちに話しかかてきた。
「皆様をお部屋までご案内します」
メイドさんにそう促されて俺たちは王女様とウォレンさんに会釈をしてから退室し、メイドさんに連れられて自分たちの部屋まで戻ってきた。
俺たちはそれぞれ部屋に戻って、俺は部屋のベッドに腰掛けて無駄に気疲れした体をだらけさせようとしたところで誰かが俺の部屋の扉を叩いた。
せっかくリラックスできると思ったところでの不意打ちに少し萎えながらノックに返事を返すと「ユーマ様、夕食の時間です」とメルリアさんの声が聞こえた。
そこでやっと俺は外が暗くなり始めていることに気が付いた。
そういえば動画見たり会議に出たり動画見せたり、結構時間が経ってるんだった。そりゃメルリアさんが夕食の呼び出しにも来るはずだよな。王女様も良い時間って言ってたし。
とりあえず休むのは食事が終わってからで良いかと考えた俺は部屋を出てメルリアさんに挨拶をしてから、姫姉たちと一緒にいつもの食堂に移動した。
食堂には俺たちが一番乗りだったようで俺たち以外の人はまだ誰も来ていなかった。
俺たちがいつもの席に腰掛けて少しするとウィンダムさんたちがやって来て、最後に王女様とウォレンさんがやって来てそれを合図に食事が運び込まれてきた。