第155話 翻訳のエンチャントは言語の壁を超える
前回のあらすじ
バカ貴族は断罪された
会議が終わり別室の案内される
王女様にブツを見せる
さてどうしたものか。日本語で書かれている以上、王女様たちには何が書いてあるのかさっぱり分からないだろう。
俺が翻訳しても王女様は俺がわざわざ嘘を書く必要が無いと分かっているから大丈夫だろうが、他の貴族たちは俺が翻訳したと聞けば絶対に怪しんで来て難癖を付けてくるだろう。
本当にどうしたものか。
俺がそうやってどうやって理解して貰うか頭を悩ませていると王女様が戸惑った様子で話しかけて来た。
「あの〜ユーマ様、どうされたのですか?」
「実はこの手紙が俺たちの国の日本語で書かれてて」
俺はありのまま困っている事を伝え机の上に出していた手紙を手に取り開いて王女様の方に向けて見せた。
「……ええと、その申し上げにくいのですがこの手紙、読めますよ」
王女様は俺から差し出された手紙を見て何故か苦笑いを浮かべて気まずそうにそう言って来た。
「へっ?」
「この手紙、多分なのですが翻訳の魔法が掛けられているのだと思います。翻訳の魔法が掛けられていれば読み手が普段使っている言語に自動で翻訳してくれますので、私の場合はラグアシア王国共通語で書かれているように見えています」
王女様のまさかの発言に俺は呆けていたが王女様の説明を聞き気を取り直し、王女様のいう事が本当か調べるために手紙にスキル鑑定と解析を使った結果、本当に手紙には王女様の言っていた通り翻訳の魔法がエンチャントされていた。
そして俺は手紙にわざわざエンチャントを施すならもしかしてと思いスマホの方にもスキル鑑定と解析を使うと案の定、スマホからも翻訳の魔法がエンチャントされていると分かった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ……はぁ」
さっきまで俺が悩んでいたのが徒労に終わったと分かり、どっと疲れが押し寄せて来て俺は座っている椅子にだらしなく体を預け天井を見上げた。
今までの全部が杞憂だった。
「えっ!? ユーマ様大丈夫ですか?」
魂が抜けたかのように全身を脱力させ天井を見上げた俺に王女様は驚いたようでそう声を掛けてきた。
王女様にそう尋ねられた俺は少しだけボーっとした後、気持ちを入れ替えるために体を起こして椅子に座り直し大きく息を吐いてから口を開いた。
「ふぅ、大丈夫です。それよりも話を戻しましょう。手紙の方は読みましたか?」
「あっはい、読みました」
王女様はころころ変わる俺の様子に困惑した表情を浮かべていたが敢えてそこには触れず、俺からの質問にイエスとだけ答えた。
「そうですか、なら次はこっちですね」
俺はそう言ってテーブルの上のスマホを手に取りメモ帳を開き王女様に手渡した。
王女様は俺からスマホを受け取り食い入るようにスマホの画面を見ながら驚いたり難しい顔をしたり、苦虫を噛んだような顔をしたり顔を真っ赤に染めたり百面相を披露したと思ったら顔を上げて口を開いた。
「ユーマ様、ヒメナ様ここに掛かれている事は事実でしょうか?」
王女様は俺と姫姉にそう質問を投げかけて来て俺と姫姉は互いに目を合わせ姫姉のお前が言えと無言の圧力を放っている視線に屈しため息を吐いた後、王女様の質問に答えるため口を開いた。
「たぶん事実です。俺があの扉を鑑定したときもそれっぽい内容が出てきましたし、それにこの荷物が送られて来て父が来ないところを見る限り転移魔法が制限されているのも事実だと思います」
「そうですか。ではやはりあの扉は異世界召喚が原因なのですね」
王女様は俺のその発言を聞いて難しい顔をしながらそう言って肩を落とした。
「はい、残念ながら。それと他にも見て頂きたい物があります。少しスマホを貸してください」
俺は王女様が手に持っていたスマホを受け取ってメモ帳を閉じてギャラリーを開き王女様に見える様にしてから1番の動画を再生した。
動画が始まって直ぐに王女様は「えっ!? 絵が動いている!?」と驚いていたが翻訳されて流れて来る音声が耳に入ってそれどころではないと理解したのか黙り込み、またしても百面相しながら最後まで動画を見終えた。
「あの、神様を名乗る方が居たのですが……それに精巧な絵が動いて……」
「はいそうですね、これはそう言うものです。説明は面倒なので省きます。それにまだ続きがありますので」
動画の1番を見終えた王女様は神様が映っていたことに顔を引きつらせながら震える声で縋る様に声を掛けてきてさらに動画の仕組みについても尋ねてきたが俺はそれを無視して2番の動画を選んで王女様に見える様にしてから再生した。
王女様は動画に着いての説明を省かれた事で少し不服そうな表情を見せたが動画が始まっていたので特に何かを言うことなく動画の方に目を向けた。
2番の動画は例の扉が地球にも現れた後の映像なのだが王女様は動画を見ている間も「えっ!? 人がこんなに……」とか「こんな高い建造物が?!」とか例の扉とは無関係のところで驚いていた。
動画が終わった後も王女様は地球の技術力の方にばかり目を取られている様子だったので取りあえず本題の方に戻す為動画の3番を再生して王女様に見せた。
3番の動画冒頭から女神が普通にいる事に驚きを隠せない様子の王女様は小さな声で「えっ?!」と漏らし、女神の雑な説明を聞き今度は「えぇぇぇ……」と声を漏らした。
そして3つの動画を見終えた王女様は一つ溜め息を吐いた後、俺たちの腑に向き直り口を開いた。