第139話 エスデスと稽古
前回のあらすじ
メイドたちの謝罪を受ける
エスデスに煽られやり返す
メルリアさんによるエスデスへの説教が始まる
「ふう、今日のところはこれくらいにしておきます。ですが次はこれでは済みませんからね、分かりましたか?」
「は、はぃ」
一時間近く続いたメルリアさんによるエスデスの説教がやっと終わったようで、説教をされていたエスデスは疲労困憊といった様子で項垂れていた。
「全く、この後ユーマ様のお部屋に行って剣の相手をしっかりするんですあっ……」
そこまで言いかけたところでメルリアさんは椅子に座って説教が終わるのをずっと気配を消して待っていた俺とたまたま目が合った。
「ユーマ様何故そこに……?」
「いや、なんて言うかそのね、俺も帰ろうかなと思ってたんだけどさすがに説教してる間を通るのはね」
俺は言葉を濁しながら扉の前にメルリアさんたちが陣取っていて通るに通れなかったと伝えるとメルリアさんは俺の言葉に真意に気付き、あっとした表情になり直ぐに頭を下げた。
「も、申し訳ありません! 私共が扉の前に居たせいでユーマ様には気を使わせてしまいました。本当に申し訳ありません」
もの凄くばつの悪そうな表情で謝って来るメルリアさんになんだか俺の方も居た堪れなくなり俺はさっさと話を逸らして無かった事にすることにした。
「いや、うん、気にしてないよ。それよりも約束の稽古の相手、頼めるかな?」
「あっ、はいどうぞ気の済むまでこの娘をお使いください」
俺がわざと話を逸らすためにした問いにメルリアさんが気付きエスデスよりも先に答えた。
エスデスが何か言いたそうな表情でこちらを見ていたので俺はそれを塞ぐようにメルリアさんに話しかけた。
「それじゃあどこか広い所にでも案内して貰えますか?」
「この時間なら訓練場が開いている筈ですのでそこまでご案内します」
そして勝手に話が進んでいき困惑気味のエスデスを余所にメルリアさんの案内でよく使われているのが踏みしめられた土の感触で分かる訓練場まで移動してきた来た。
「ユーマ様ここで宜しいですか?」
訓練場に着いて直ぐメルリアさんがそう尋ねてきた。
「はい大丈夫ですよ」
「なら良かったです。武器はどうされますか? 木剣や木槍など色々御座いますが」
「いえこれがあるので」
メルリアさんが稽古で使う武器はどうするか聞いてきたので俺はそう言いながら無限収納から木刀を取り出して見せた。
「そうでしたか。エスデス、貴女も準備を」
メルリアさんは俺が出した武器を見て俺には貸し出す必要が無いと知ると今度はエスデスに用意してくるように命じた。
「は、はい! 直ぐに準備してきます」
メルリアさんに準備をするように命じられたエスデスは訓練場の傍にある部屋に入り木剣を持って俺の前に戻って来た。
「エスデスの準備が整ったようですのでユーマ様、どうぞ存分に稽古に励んでください」
戻って来たエスデスを見てメルリアさんはそう言って一歩下がり、俺はエスデスに向き直り剣道の中段の構えをとった。
「さぁどうぞ、どこからでも打って来てください」
俺が構えた事で向かい合うエスデスも同じように中段の構えをとってそう挑発をしてきた。
俺はあえてエスデスの挑発に乗る様に構えを中段から居合に変えて一気にエスデスに肉薄し振り抜いた。
だがそこは腐っても騎士、エスデスは一瞬驚きの表情を見せたものの数歩下がり危なげなく俺の居合切りを躱した。
俺はそのまま返す刀で追撃をしようかとも思ったがエスデスの構えがブレていないのを見てこっちも一歩下がり距離を取った。
「へぇ、剣の稽古の相手をして欲しいと言うだけあってそれなりにやるようですね。ですが加速系のスキルを使っての一撃で私に傷一つ付けられない様ではダメダメですね」
ん、何か勘違いされてる? 今の一撃はスキルには頼らずに純粋に身体能力だけで撃ち出した一撃なんだが。それに俺ってまだ加速系のスキルって何も持ってなかったはず。
俺は頭の片隅でそんな事を考えつつ、今度はゆっくりとエスデスに近づいて行った。
近づいてくる俺にエスデスは一層警戒をしながらもその場からは動かず、待ちの姿勢を崩さない。
俺は互いの木刀と木剣が届く距離まで近づいたところで立ち止まり、両手で中段に構えていた木刀を横に倒して片手で一気に振り抜く。
だが今度もエスデスは素早く後ろに下がる事で俺の攻撃を躱し、余裕の表情を見せながらまたも煽って来た。
「クスクス、この程度ですかユーマ様? これなら何度切り掛かられても余裕ですよ」
エスデスのその煽りに若干イラつきながら俺は木刀を左手の片手持ちに変え、右半身を少しだけ下げて腰を落として一気に距離を詰め、再度居合切りをエスデスに放った。
今度もエスデスはバックステップで俺の居合切りを躱したが俺はさらに一歩前へ踏み込んで木刀に右手を添え返す刀で斜め下への切り下げで追撃を繰り出した。
だがそれも予見していたかのように大きく一歩下がって避けた。
だがそこまで俺の計算通り。俺はさらに一歩踏み込んで木刀を返し構え、切り上げる様に見せかけエスデスが木刀の動きに目を取られた隙に俺はストンと腰を落とし左足を軸に右足で足払いを掛けた。
さすがに足払いは予想していなかったのか、エスデスは一瞬驚きの表情を見せつつも大きくバックステップをして何とか足払いを躱したが予想外の出来事に動揺したのかエスデスの体勢が崩れた。
俺はそれを見逃さず、足払いからさらに一歩踏み込んで低い姿勢からの切り上げでエスデスの木剣を叩いた。
カンッという小気味のいい音と共に宙を舞った木剣はカッ、カランという音を鳴らして地面に落ち、エスデスが木剣を叩き飛ばされた事実が残った。