第136話 甘い物は女性を狂わす
前回のあらすじ
ガネトリーに王女様が判決を言い渡す
ガネトリーが暴れ兵士によって取り押さえられる
コーヒー牛乳一気飲み
「ユーマ様、何かしましたか?」
コーヒー牛乳をたらふく飲んだメイドたちが羞恥と怒りの入り混じった目で俺を見つめながらそう尋ねて来た。
「いえ、俺は何もしてませんよ。あぁこれは俺の独り言ですけど、コーヒーは大量に飲むとトイレが近くなる成分が入っているらしいんですよね」
俺はメイドたちがカフェインの大量摂取による尿意に襲われてるなと気付き、わざとメイドたちに聞こえる様に独り言としてその事を伝え、大量に消費したコーヒー牛乳の仕返しとしてメイドたちの反応を見て楽しんだ。
俺のその独り言にメイドたちは一層羞恥に歪んだ表情になり、我慢の限界を迎えたメイドリーダーが内股になりながら顔を赤らめて「ユーマ様、少し席を外させて貰います」言い部屋を飛び出して行った。
それから代わる代わるメイドたちが席を外して行き、全員が一回席を外し戻ってきたところで俺は「皆さんもう一杯飲みますか?」と席を外してスッキリした表情をしているメイドたちに悪戯半分でおかわりを勧めてみた。
「くっ……、遠慮しておきます」
俺の意地悪なその勧めにメイドたちは悔しそうな表情を見せながら断ってきた。
「そうですか、では俺もそろそろ自分の部屋に戻ろうかな」
「分かりました、部屋まで案内します」
お代わりを断られた俺はメイドリーダーに部屋に戻ると伝え、メイドリーダーは俺を部屋まで送ってくれた。
こうしてメイドたちへの悪戯を終え部屋に戻った俺はベッドに寝転がり、やっと終わったなぁと思いながら天井をボーッと眺めていた。
色々な事が終わった解放感に浸っていると誰かが部屋の扉をノックして声をかけて来た。
「ユーマ様、夕食の準備が整いましたのでお呼びに上がりました」
いつの間にか結構な時間が過ぎていたようでメルリアさんが夕食の時間を知らせに来た様だった。
俺は「直ぐにいきます」と返事をして、寝癖が付いていないか確認してから部屋を出た。
部屋を出るとメルリアさんがばつの悪そうな顔をしながら話しかけて来た。
「ユーマ様、先ほどはメイドたちがご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。彼女たちにはしっかりと言い聞かせておきましたので後程謝りに来させます。その時にお金もお支払いします」
「いえあれは俺が勝手にやった事なので別に気にしてませんし、安い物なのでお金も要りませんよ」
羞恥に悶えるメイドたちを見れた事で俺の中で仕返しは終わっていたのでそこまで気にしていなかったのにメルリアさんが悪いわけでもないのに謝って来たため俺はなんだか申し訳ない気持ちになり、俺はメルリアさんに気にする必要はないと返した。
「ですがそれでは他の者たちに示しがつきません。私の顔を立てると思ってどうか私のお願いを聞いていただけませんか?」
普段からお世話になっているメルリアさんに此処まで言われては無下に断れない。
「分かりました、でもメイドの皆が飲んだ物は本当に安い物ですから大金を持ってこられても困りますよ」
「そうなのですか? 彼女たちからは砂糖とミルクがふんだんに使われ、甘いのにしつこくなくて美味しい心まで虜になる飲み物だと聞いたのですが……」
「まぁ確かに砂糖とミルクは入ってますけど、俺たちの世界ではそれこそコップ1杯で銅貨1枚もしませんよ。よかったら飲んでみます?」
俺はそう言いながら無限収納からコーヒー牛乳とコップを取り出しコップに注いでメルリアさんに飲むように勧めてみた。
メルリアさんはおれから手渡されたコップに入った見た目は泥水のようなそれを困惑したような目で見ながら一口飲み、目を見開いた。
「これは、いえ待って下さい。こんなに甘い物初めてです。ユーマ様の本当にこれが銅貨1枚もしないのですか?」
メルリアさんのあまりの剣幕に驚きつつも俺はメルリアさんの質問に「そうです」と答えた。
「そんな……。近年ようやく計画的に栽培できるようになったとはいえ砂糖はまだまだ高価な物。これほどの甘さを出すにはスプーン1杯では足りない、スプーン2杯以上は入っているはず。それにミルクとコーヒーも入っているとなるとどう計算しても50シア以上の価値が……。ユーマ様、やはり考え直して貰えませんか? 流石にあの娘たちは飲み過ぎです、お支払いさせてください」
俺がコップ1杯で銅貨1枚もしないと認めるとメルリアさんは驚いた表情を見せた後、なにやらぶつぶつと金勘定を始め、それが終わるとばつの悪そうな表情を見せながら俺にお金を受け取って欲しいと言い出した。
俺がどう返事をしようか悩んでいるとどこからか視線を感じ、その方向に目を向けるとドアが少しだけ開いておりその隙間から姫姉がこちらを覗いていた。
俺と目が合った姫姉はしまったといった表情を見せドアを閉めたがまたすぐにドアを少し開けて再び俺と目が合った。
俺が姫姉とお見合い状態になって固まっていると俺が一向に返答をしないのを不審に思ったメルリアさんが俺の視線の先を見て姫姉がドアの隙間から覗いていることに気付き、メルリアさんは何か閃いた様で姫姉に話しかけた。
「これはヒメナ様、ヒメナ様からもユーマ様を説得してください。メイドたちがユーマ様から無理矢理気味に物を頂いたらしく私がそのメイドたちの謝罪の機会と頂いた物の代金を支払いたいと申し出たのですがユーマ様はお金は要らないと意地悪な事を言うのです。ユーマ様にお金を受け取って貰えなかったらメイドたちは、メイドたちは……」
メルリアさんは瞳を潤ませながら意味深にそこで言葉を切って姫姉を見つめて情に訴えた。
それを聞いた姫姉は俺とメルリアさんを交互に見ながらはぁとため息を吐いて口を開いた。