第122話 衛兵が駆けつけストーカーが捕まる
前回のあらすじ
受付嬢のストーカーが俺を尾行してくる
ストーカーを撒きギルドに戻って受付嬢に文句を言う
ストーカーが戻って来て襲い掛かって来る
「全員その場を動くな!」
冒険者ギルドの扉を乱雑に開けた者たちはそう怒鳴りながらギルド内に駆け込んできた。
ギルド内に駆け込んできた者たちの装備を見てすぐに衛兵だと気付いた俺は衛兵に気付かれる前に構えていた刀を無限収納に仕舞い、左手に持っていたベルトをその辺に投げ捨てた。
「テメェよくもやりやがったな!」
ベルトが無くなってずり落ちたズボンに足を取られ倒れた男が立ち上がり、そう怒鳴りながら片手でズボンを押さえ懲りもせずに俺に襲い掛かろうとしてきた。
だがそんな暴挙を衛兵が見逃すはずもなく。
「動くなと言ったはずだ! アイツを取り押さえて口を塞げ! はぁ、ここで冒険者が業務妨害を行っていると聞き駆け付けたがこれは一体どういう状況か……そこのお前説明しろ」
先頭に立っていた衛兵がそう指示を出して俺に襲い掛かって来た男を取り押さえさせた後、どうしてこんな状況になったのか受付カウンターにいるミダリーを指名して説明を求めた。
俺はよりにもよってなぜミダリーを選ぶんだ、と先行きに不安を感じながら衛兵に目を付けられない様に静観した。
「え、えっとその、倒れている人たちは、そのえーっと、あの……そこにいる人がやりました!」
いきなり衛兵に問いかけられたミダリーは咄嗟の事に驚いたのか焦った様子でしどろもどろになりながらも俺を指さしてとんでもないことを言い放った。
ミダリーのその発言を聞いた衛兵たちは彼女が指さす方向、つまり俺を見て警戒心を露わにしながら詰め寄り俺に命令してきた。
「おいッお前、両手を上げてその場を動くな! 抵抗すれば問答無用で斬るぞ!」
「俺はそこの男たちに襲われたから返り討ちにしただけだ。抵抗するつもりは無い、それとさっきの受付嬢そこに倒れている二人と仲良いみたいだぞ」
さすがの俺も言われっぱなしで捕まるのは癪だったので両手を上げながら近づいて来る衛兵に正当防衛だと弁解し、本当の事を言わなかったミダリーには仕返しとばかりに倒れている男たちの仲間だと衛兵にチクってやった。
幸いにも俺に詰め寄って来た衛兵は片方の意見だけを鵜呑みにするような馬鹿では無かったため、俺の告発を受けて衛兵は反射的に受付嬢へ真偽のほどを確かめんと言葉を投げかけた。
「なにっ! 受付嬢それは本当か?」
「ち、ちが……わ、私は、その、その人たちとは……その人たちの事は知りません!」
衛兵からの突然の問いにミダリーは動揺した様子でアワアワとしていたがはっきりと男たちの事は知らないと言いきった。
ミダリーのその言葉を聞いて俺はふとなんで受付嬢なのに所属している冒険者の事をあんなにはっきり知らないと言いきれるのかと疑問に思い、なぜそう答えたのか考えを巡らせていくつかの可能性に思い至った。
俺は思い至った可能性の中から一番俺に利益がありそうな可能性について衛兵に告げ口してやろうと衛兵に声をかけようとしたがその前に衛兵が口を開き出鼻をくじかれた。
「受付嬢、すまないが君も両手を上げてこちらに来て貰おうか」
衛兵も俺と同じくミダリーが怪しいと感じ取ったのかミダリーに受付カウンターから出て来るように命令した。
「い、嫌、わわわ私は何もしてませんっ! 彼らとは無関係です。し、信じて下さい」
俺のチクりで衛兵に疑われて衛兵の質問に怪しすぎる返答をしたミダリーは俺を襲った二人の事を知らぬ存ぜぬで通し両手を上げ受付カウンターから出て来た後、涙目になりながら衛兵に自分の無実を訴えた。
ミダリーが衛兵に縋りつき、どうにか自分だけは助かろうと騒いでいると「一体何の騒ぎじゃ! 仕事に集中できんじゃろうが!」という怒鳴り声と共にギルドマスターが階段を降りて来た。
そしてギルドマスターは辺りを見回しだして俺と目が合ったタイミングで大きなため息を吐いて俺に話しかけて来た。
「またお主か。毎度毎度何かせんと気が済まん性質か?」
「酷い言われようだな、これでも今日はギルドマスターのアンタに会いに来ただけだぞ」
目が合って行き成りそんな事を言われた俺は心外だとギルドマスターに抗議した。
「それでなぜこのような騒ぎになっておる?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! お二人で話を進めないで頂きたい!」
俺とギルドマスターだけで話をしていると俺やミダリーに話しかけて来た衛兵が話しに割って入って来た。
「誰じゃお主?」
急に話に割って入って来た衛兵にギルドマスターはそう誰何した。
「私は通報を受けて駆け付けた衛兵のバッシュです」
「そうかそうか、ウチの冒険者共が迷惑を掛けたようじゃな。それでこの騒ぎは一体なんじゃ?」
ギルドマスターはバッシュと名乗った衛兵に一言謝意を述べた後、俺にした質問をそのまま衛兵のバッシュに投げかけた。
「はい我々はギルドで冒険者が受付嬢に絡んで業務妨害をしていると通報を受け駆け付けました。我々が駆けつけると、そこの二人がその彼に倒された後で今から事情を聞こうと思っていたところでして」
「そうか、ではユーマさっさと話せ」
ギルドマスターに問いかけられた衛兵のバッシュは手短にそう答え、その答えを聞いたギルドマスターは今度は俺にそう問い掛けて来た。
俺はギルドマスターの質問に対しての答えとして一度来て冒険者ギルドにきてギルドマスターに面会を求めたが受付嬢のミダリーに追い返された事、その後に男二人に絡まれテキトーに撒いて逃げた事、冒険者ギルドに戻って来て男二人が絡んできた時に名前が出たミダリーにその事を問い詰めたら衛兵を呼ばれた事、そして衛兵が来る前に男二人がギルドに戻って来ていきなり襲い掛かって来たので返り討ちにした事を話した。
俺の説明を聞き終えたギルドマスターは顔色を変えミダリーを睨みつけ吠えた。
「ミダリー、どういうことじゃ! ワシに確認も取らずに追い返したのか!」
「ひゃ、ひゃう。えっと、その、追い返したといますか、その、帰って行ったといいますか……」
怒ったギルドマスターにビビったのかミダリーは俺を衛兵に突き出した時とは打って変わっていつまでもはっきりと答えずに曖昧な事を言っていると痺れを切らしたギルドマスターがミダリーの言葉を遮り口を開いた。
「なんじゃはっきりせんな。誰でも良い、その時の事見ていた職員は正直に話せ」
ギルドマスターが全体にそう質問を飛ばすと受付カウンターの奥の方にいた職員がおずおずと手を挙げ、ミダリーがギルドマスターに確認もせずに俺を追い返したと証言し、ついでに俺を襲った二人がミダリーの過激なファンだという事も証言してくれた。
「ミダリー、お主は後で罰を下す。さて衛兵の皆、この度は当ギルドの揉め事に付き合わせて申し訳なかった。あとで報告書を送るのでこの場は暴れたそ奴等を連れていって貰って後はワシに預からせて貰えるかの」
呆れた表情を見せたギルドマスターはミダリーにそう言ってから衛兵のバッシュの方に向き直り、衛兵全員お礼とこの後は自分が後始末をすると言ながらバッシュに近づいた。
その後目の良い者でなければ見逃すであろう見事な動作でバッシュに金貨を数枚握らせた後、ギルドマスターはバッシュの耳元で何かを呟くとバッシュは顔を綻ばせて受け取った金貨をポケットに仕舞い口を開いた。
「はぁ、冒険者ギルド内での揉め事ですので冒険者ギルド側のトップであるギルドマスターが責任を持ち報告書も出して頂けるのでしたら我々は構いません。ではギルドマスター報告書お待ちしております。よしそこの二人を連れて全員撤収」
バッシュが他の衛兵たちにそう合礼をかけ、他の衛兵たちはそれに従って俺を襲った男二人を連れて冒険者ギルドを出て行った。
「ユーマよ、またウチの者たちが迷惑を掛けてすまなかった」
衛兵たちが出て行くのを見送った後、いきなりギルドマスターがそう言って俺に頭を下げて来た。
「頭を上げて下さいギルドマスター」
俺は行き成りな事に驚きつつも世話になった人に頭を下げさせ続けるのは忍びないし、そもそもギルドマスターは何も悪くないから直ぐにそう返して何とかギルドマスターに頭を上げて貰った。
「そう言って貰えるのはありがたい。じゃがお主、王城からお主らに手を出すのを禁ずると通達があったのはどういう訳じゃ?」
ギルドマスターは渋々といった様子で頭を上げながら俺にそう質問を投げかけて来た。
ギルドマスターの口から出たその言葉を聞き俺は王女様にも少しは契約を守る気があったんだなと失礼な感想を持ちつつ、ギルドマスターに昨日王女様と交わした契約の三つの条件について掻い摘んで説明しギルドマスターの質問の返答とした。
俺のその説明を聞き終えたギルドマスターは何故か呆れかえった表情を俺に向けていた。