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第117話 王女様と取引する

前回のあらすじ

姫姉が王女様を礼儀知らずだと言う

姫姉の行動に馬鹿な貴族が突っかかって来る

貴族がまた一人捕まる


 王女様に命乞いのちごいをしていた貴族は騎士に押さえつけられ、他の罪人たちと同じように並べられた。命乞いをしていた貴族は何処か哀愁あいしゅうただよわせていたが自業自得じごうじとくなのでそのままさばかれろと俺は心の中で思いつつ王女様の方に視線をやった。

 王女様も貴族から俺たちの方に視線を戻し、俺と目が合ったところで俺に向けて言葉を発した。

「ユーマ様方には幾度いくどとなくご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。この通りです、どうかお許し下さい」

 王女様はそう言いながら玉座に座ったまま会釈えしゃく程度に頭を下げた。


 俺はそれを見てやっぱり王女様は礼儀知らずなのかと心の中でそう思いつつも顔には出さない様にして他はどんな反応をしているのか探った。

 貴族たちの方に目を向けるとまたしても驚きの表情を見せ少し騒がしくなったが、王女様の命令を聞かずに行動を起こした馬鹿な貴族の顛末てんまつを見てか今度は口をはさむ勇気のある物は出てこなかった。

 この様子なら貴族たちは何もしてこないだろうと判断して後ろにいる姫姉と田中さんに目を向けた。

 姫姉はボソッと「礼儀知らずが」とつぶやき不機嫌そうな顔で王女様をにらみつけ、田中さんは新人が得意先で失敗したときの上司のコイツやらかしやがったというような表情をしていた。

 二人のそんな様子から目をらすように俺は王女様に視線を戻し、王女様の謝罪に対する返答をするため口を開いた。


「謝る気のない謝罪は不愉快ふゆかいなのでして貰わなくて結構です。王女様にはもう何も期待してませんので」

 俺が謝意の無い謝罪は要らないと告げると王女様は驚きの表情を見せ、貴族たちからは怒りの視線が送られてきた。

 ついでに姫姉からも怒りの視線を感じたが俺はあえて無視をして話を続け、期待していないと王女様に告げると王女様は驚きの表情から顔を真っ赤に染め上げて怒りをあらわにし肩を震わせ、貴族たちからはさっきよりも強い怒りが視線を通じて送られてきた。それ等の反応とは逆に姫姉からはよく言ったと言わんばかりに背中を何度も叩かれた。


 背中の痛みと周りからの殺気にも似た視線に耐えていると怒りに震える王女様が俺に向かって口を開いた。

「私は本心で謝っています! ユーマ様が私の事を信用できないと仰るのは仕方がありませんし、謝罪を受けって貰えないのは残念ですが、謝る気のない謝罪と勝手に決めつけた事はだけは取り消してください!」

 王女様は俺が言った事を撤回し取り消せと厚顔無恥こうがんむちな要求をしてきた。

「椅子に座ったまま謝罪の言葉を言って会釈程度に頭を下げる。それで本心から謝っています、か。俺たちの事馬鹿にしてんのか? それに本当に本心から謝る気がある奴はそんな風に反論なんてしてこないんだよ!」

 王女様の恥知らずな要求に俺はふつふつと湧き上がる怒りに任せてなんでそう判断したのかを荒い口調になりながら王女様に言葉にして突き付けた。


「ッ!!」

 王女様は俺の反論をしてきた時点で本心から謝る気が無いと言う言葉を突き付けられ驚愕の表情を見せた。それから王女様はぐうの音も出ないのか口を真一文字に閉じつつも恨みがましい目で俺を睨みつけて来た。

 周りの貴族たちも俺の言ったことに一理あると感じたのか先ほどまで感じていた怒りの視線が少し減ったように感じられた。

「そんなに睨まれても俺は自分の言った事を取り消すつもりは一切無い。それに反論が無いという事は俺の言った事が正しいと言っているようなものだ。もうこれ以上このことについて話すのはハッキリ言って時間の無駄だ」

 俺は反論できず睨みつける事しかできない王女様を意に介さず、この問答は時間の無駄だと荒い口調のまま言って切り捨てて話を一方的に終わらせた。


 ここまで言われても王女様は俺を睨むばかりで反論らしい反論をしてこず、俺はこれ幸いとガネトリーの不正の証拠の引き渡しについての話を進めることにした。

「ふぅ、それよりも取引です、こちらから出す条件は三つ。一つ、貴族連中とその関係者に今後一切俺たちに手を出させないこと。二つ、俺たちに手を出してきた馬鹿に俺たちがやり返しても口を出さないこと。三つ、俺たちが勇者として呼び出された際に交わした契約を田中さんとこの娘の分契約して貰うこと。以上です」

 俺は一度息を整えてから口調を元に戻して、王女様に不正の書類を渡す交換条件を一つずつ伝えていき、三つ目の要求の時に田中さんと暗殺者だった少女に視線をやりながら条件を伝えて締めくくった。

 王女様は俺が取引を持ち掛けた時点で一旦睨むのをやめ、俺が出す条件を口を挟まずに聞いていたが、周りの貴族連中は俺の要求を一つ伝えるごとに苛立ちつのらせている様子だった。


 王女様は俺の提示した条件を聞き終えた後、小さく深呼吸をして無理をした笑顔を浮かべて口を開いた。

「ユーマ様の提示される条件は分かりました。ですがその条件を直ぐに承諾しょうだくすることは出来ません。少し時間を貰えませんか?」

「無理です、それに俺は譲るつもりはありません。この場で王女様が決断しないのであれば交渉は決裂、俺たちのとの関係はこれまで。俺たちは王城から出て行きます」

 王女様は時間をかけて妥協点を見つけたいと俺に提案してきたが俺はそれを跳ね除けて譲歩じょうほするつもりは無いと断言した。


「どうしてもその条件でないとダメですか? できれば三つ目のあの契約の違約罰だけは変更して頂きたいのですが……ダメですか?」

 王女様に違約罰と言われて俺は「違約罰……違約金みたいなものか」と思いながら何を違約罰にしたか覚えていないので確認をするために無限収納アイテムボックスから契約書を取り出した。

 契約書の違約罰のところを探して確認するとそこには確かに国の全てを差し出すと明記されていた。

 それを見た俺は不正の証拠で国を賭けるのは確かに釣り合ってないと思い直し、今提示している三つ目の条件の違約罰の部分だけは王女様の意見を取り入れ変更する事にした。


「王女様の言いたいことは分かりました。契約書の違約罰に関しては王女様の好きに決めて下さい。そのかわり他の条件は全てこちらの意見を飲んで貰います。良いですね?」

「……はい、それで構いません」

 俺が強気にそう伝えると王女様は少し躊躇ちゅうちょしたのか表情を曇らせたがすぐに取引の条件を承諾すると返答してきた。

「交渉成立という事で、ありがとうございます。さて王女様を信用していないわけではありませんが口約束ではなんですので、今回の取引の内容を書面にして契約して貰えますか?」

 俺は口ではああ言ったが王女様をまったく信用して無いので、王女様の気が変わらない内に今回の取引の成立を書面にするように頼んだ。

「直ぐに用意させます。ウォレン老師お願いします」

 王女様は俺の提案にしぶしぶと言った様子で承諾し、横に控えていたウォレンさんに書類を用意するように頼んだ。

 王女様に頼まれたウォレンさんは契約書に使う紙を取りに謁見の間を出て行った。

 ウォレンさんが出て行った後、さっきまでとは打って変わって静まり返った謁見の間で俺たちは貴族連中からのにくしみのこもった視線にさらされ、俺と姫姉はその視線を向けてくる者たちを睨み返してウォレンさんが戻ってくるのを待った。


 それから少ししてウォレンさんが数枚の紙を持って謁見の間に戻って来た。

「お待たせしました王女様。取引の条件を記載して後はサインをするだけの状態にしておいたぞ」

 ウォレンさんはそう言って王女様に数枚の紙を手渡した。

「ありがとうございます。……問題ありません、ユーマ様方ご確認ください」

 王女様はウォレンさんに手渡された書類を一枚ずつ確認をした後、俺たちにも内容を確認するように言って来た。

 俺たちは王女様の傍まで行き数枚の紙を受け取り、一枚目に書かれている内容が俺の言っていた条件通りだと確認した。

 二枚目と三枚目は同じ書類だったが四枚目以降は田中さんと少女の分の契約書で違約罰のらんには白金貨五百枚と書かれていた。

 違約罰の金額が思ったよりも多かったが多い分にはこっちには不利益ふりえきが無いので特に言及げんきゅうせずに姫姉たちにも内容を確認をして貰い全員からも異議は出なかった。

「確認しました。こちらはこれで問題ありません」

 俺はそう言って王女様に書類を手渡した。

「分かりました、ですがここでサインをするわけにはいきませんので応接室に案内させます」

 王女様はそう言うと騎士を呼びつけて何か言付けるとそれを聞いた騎士は足早に謁見の間を出て行った。

 その後王女様は俺から返された書類をウォレンさんに手渡し、玉座から立ち上がった。

「これにて謁見を終了します。ユーマ様方はご退場下さい」

 俺たちは王女様にそう促されて謁見の間を出て行った。

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