第115話 王女様はこれまでのツケを払う
前回のあらすじ
俺と姫姉の話し声が外に漏れていた
こっちから王女様に会いに行く
貴族が俺達に喧嘩を売って王女様に捕まる
王女様の命令で騎士達に拘束された貴族のおっさん二人にそんな二人に挟まれ未だに跪いた状態の審議官長。王女様はその三人を見た後に俺たちの方を見つめて口を開いた。
「ユーマ様、ヒメナ様、度重なる無礼、申し訳ありませんでした。彼らは爵位と職をを没収の上、厳正に処罰いたしますのでどうか怒りを鎮めて貰えませんか?」
未だに怒りを放ち今にも暴れ出しそうな姫姉とイライラが頂点に達して王女様を睨みつけている俺。そんな俺たちに向かって王女様は今にも泣きだしそうな表情で体を震わせながらそう言った。
「ふーん、それだけ?」
王女様による謝罪を聞いた姫姉は少し考えた素振りを見せた後、先ほどよりも一層濃い怒気を放ちながら王女様にそう返した。
「えっ……。あっいえ、賠償金も後程しっかり払わせます!」
王女様は姫姉が何故そう言ったのか瞬時には理解できず考えるそぶりを見せていたが、傍に立つウォレンさんの耳打ちで意味を理解したのか王女様は金を払わせるとそう言った。
「はぁ呆れた、口先だけの癖によくそんな事が言えるわね。どうせ払うつもりも無い癖に」
「そんなことはありません、しっかり払わせます!」
王女様は姫姉に口から出任せを言っていると言われて憤慨し、絶対に賠償金を払わせると大勢が見ている前で宣言した。だが姫姉は大勢の前での王女様の口約束を聞いても態度を変えず、王女様を睨みつけながらとんでもない言葉を放った。
「でも私たち未だに何も貰ってないけど?」
「それは、どういう事ですか?」
王女様は本当に言っている意味が分からないと言った風に首を傾げた。
「やっぱり忘れてる。第四師団団長とその他による王城襲撃解決の信賞必罰、これだけ言えば分かるでしょ」
姫姉に言われて思い出した。
そう言えば第四師団団長の王城襲撃を止めるのに手を貸したのに王女様が無報酬で済ませようとしたから俺がキレたんだった。それからなんで俺がキレたのかウォレンさんに教えられ王女様が逆ギレしたりした後、協議してから払うとか言ってたけど第四師団連中の尋問やガネトリーの逮捕などで報酬に関しての話は一切出てこず、俺も今の今まですっかり忘れてた。
それにしても姫姉は悪意のあるタイミングで報酬の未払いの件をぶっ込んできたと思う。今の話を聞いた人は嫌でも脳裏に描いてしまうだろう、王女様が報酬を踏み倒そうとしているのではないかと。
たとえ王女様自身にそのつもりが無かったとしても報酬を今まで払わずにいたのは事実。どう取り繕っても王女様の言葉を軽くするだけ。
ここからどう返してくるのか王女様の様子を伺っていたが、一向に王女様が口を開かないのを見かねてかウォレンさんが何かを王女様に耳打ちした。それを聞いた王女様はウォレンさんに視線を向けた後、あからさまにホッとした様子で肩の力を抜き、再度肩に力を入れ俺たちの方を向いて口を開いた。
「報酬は既に用意されています、ただ渡す機会に恵まれず今まで渡しそびれていました。その事に関しましては申し訳ありません。ですのでこの場で報酬をお渡ししたいと思います。受けて貰えますか?」
「それがちゃんと相場通りで第四師団団長たちによる王城襲撃解決だけに対する報酬で今回の件の賠償金と一緒にしないと言うなら受けるわ。優君もそれでいいわよね?」
姫姉による王女様への言葉による攻撃を傍観していてこっちに話が振られるとは思ってもいなかった俺はいきなり姫姉にそう問われて驚き、深く考えずに二つ返事で了承した。
「という事です王女様、どうします?」
「分かり、ました。王城襲撃事件の解決に尽力していただいたことへの報酬を今ここで支払います。ウォレン老師、報奨金を」
王女様がウォレンさんにそう伝えるとウォレンさんは何処から出したのか一つ袋を取り出し王女様に手渡した。
「それではユーマ様、前へ」
俺は王女様に名指しで呼ばれたので目の前に跪いていた男たちを避ける様にして王女様の座る玉座の前の階段の手前まで行き、その場で跪いた。
「ユーマ様、この度は元第四師団団長及びその仲間たちによる王城襲撃事件の解決に尽力していただき誠に感謝します。事件の解決に貢献した者たちの代表としてユーマ様には白金貨5枚を贈呈します」
王女様はそう言うと玉座から立ち上がり、階段を降りて来て俺の前まで来ると白金貨が入っているのであろう袋を差し出してきた。俺は両手でそれを恭しく受け取った。
俺が報酬を受け取った後、王女様は玉座に戻り俺に下がるように命じ、俺は命じられるままに姫姉たちがいる場所まで下がった。
俺が姫姉の元まで下がり玉座の方に向き直ったのを確認した王女様は姫姉に向かってなぜか勝ち誇ったようにドヤ顔を浮かべて口を開いた。
「ヒメナ様、これで少しは信用して頂けましたか?」
俺は頭を抱えたくなるような王女様の態度とその言葉を聞いて呆れた。
この状況でそんな態度を取ってしまったらこの後姫姉がどんな反応をするか、本当にこの王女様は本当に馬鹿だ。
そもそも王女様自身の不手際で俺たちの心証を悪くしているのにそれを、少し挽回できただけでもう信用を取り戻せた気でいる。
普通こういう場合、どれだけ上手く話を纏められたとしても元の発端は王女様自身なのだから謙虚に反省している風を装っておくのがベストなのに、この王女様は俺たちの神経を逆なでするかのように勝ち誇った態度を取って……、本当に呆れる。
俺が王女様に呆れかえっていると隣に立っていた横から液体窒素でも撒かれたかのような冷気を感じ振り向くと、姫姉が笑顔を浮かべ瞳に怒りを宿していた。
俺は触らぬ神に祟りなしとこれから神の怒りに触れその怒りを受けるであろう王女様に視線を向け、そのタイミングで怒れる神である姫姉がゆっくりと口を開いた。
「とりあえず王女様が口先だけではないという事だけは分かったわ。でもまだ重要な事が残ってる」
「重要な事ですか?」
「そう、私たちがここに来た本当のワケ」
「それは一体……?」
姫姉は思わせぶりにそう言って王女様の興味を引き、王女様は前のめりになりながらその内容を姫姉に訊ねた。
「ガネトリーとかいう奴の屋敷の金庫から優君が手に入れた不正の証拠についてよ」
姫姉は餌にかかった王女様を見て一瞬俯いてほくそ笑み、直ぐに表情を元に戻し顔を上げて王女様の質問に答えた。
「持ってきて頂けたのですね、ありがとうございます。では証拠である書類は後程ウォレン老師にお渡し下さい」
王女様は何を勘違いしたのか書類を無条件に渡して貰えると思い込み、ウォレンさんに渡すように言って来た。
「はぁ、誰も王女様にあげるなんて言ってないんだけど」
姫姉はため息をひとつ吐いた後、待ってましたとばかりに態度を豹変させ、王女様の勘違いを指摘した。
姫姉の態度の豹変で貴族たちがザワザワとし出し一人の貴族が姫姉に何か言おう一歩前に出たが、姫姉がその貴族に殺気の籠った視線で睨みつけるとその貴族は視線を逸らして静かになり、他の貴族たちも目を下に向け自分は関係が無い風を装っていた。
「それはどういう事ですか?」
貴族たちが静かになったところで頭にはてなを浮かべた王女様が姫姉にどういうことなのか聞き返してきた。
「だから言ったままの通りよ。そもそも不正の証拠は優君のおかげで手に入ったのに一言もお礼を言ってない、そんな礼儀知らずな人に重要な証拠をはいどうぞと無条件に渡すとでも?」
「なっ! 私は礼儀知らずなどではありません!」
姫姉に礼儀知らずと言われた王女様は顔を真っ赤にしてそう反論した。
姫姉は王女様が反論することが判り切っていたのかその反論に被せる様に口を切った。
「ふーん、でも優君からは王女様からお礼を一言も言われてないって聞いてるけど、そうよね優君?」
姫姉はそう言って俺に話しかけて来て、俺は姫姉のその問いに首を縦に振って肯定した。