第114話 突撃、謁見の間
前回のあらすじ
王城内で道に迷う
姫姉とこれからについて話し合う
話し合いが煮詰まって来たところで誰かが部屋の扉をノックしてきた
俺が立ち上がったタイミングで誰かが部屋の扉をノックしてきた。
俺は王女様が騎士でも送り込んできたのかと思い直ぐさま透視で扉の向こう側を覗いて誰がノックしてきたのか確認した。
俺の考えていた予想とは違い、そこには田中さんと少女の二人が立っていた。
俺はひとまず安心して「今開けます」と扉の向こうにいる二人に声をかけてから扉の鍵を外して扉を開け二人を迎え入れた。
「それでどうしたんですか田中さん?」
俺は田中さんと少女に椅子に座るよう促し、二人が着席したところでそう切り出した。
「えーと、そのどうしたというかね。二人の話声が外まで丸聞こえだったから、ちょっとね」
田中さんはどう言おうか迷った様子で苦笑いを浮かべていたが、少しして言いにくそうに俺達へそう告げた。
俺は田中さんの言葉を聞き冷や汗を流しつつも、現状を把握するため田中さんにどこまで聞こえていたか訊ねた。
「もしかして話してる内容も全部聞こえてました?」
「うん、君達が王女様相手に脅すとかなんとか全部、僕の部屋まで聞こえてきてたよ」
「っえ!? やべぇ、田中さんに聞こえていたってことは他にも聞いた人がいるかもしれないってことだよな。という事は最悪の場合、王女様の耳にも届いているかもしれないってことだよな、いやマジでどうしよう姫姉?」
田中さんの返答を聞き自分がやらかした事に気付き、そこから辿り着きうる最悪の予想を口にしながら姫姉の方に視線をやった。
「やっちゃったね優君。でもこれで私達に退路は無くなったわけだし、さっさと王女様のところに行ってお話ししましょ」
姫姉は俺の最悪の推測を聞いてやれやれと首を振った後、吹っ切れたのか王女様のところに直接乗り込むと言い出した。
確かにこのままここでグズグズしていれば話が王女様の下に届くかもしれないし、そうでなくても俺を使用人扱いしてきた男や第四師団の連中と似た思考の持ち主に知られれば適当な罪状を並べて問答無用で殺されかねない。
それならいっそのことこちらから打って出た方がまだマシかもしれない。
その考えに至った俺は腹を括って姫姉の言う通り王女様に会いに行く決心をした。
「はぁ、こうなったら本当に出たとこ勝負だな。田中さんご迷惑をおかけしてすいません」
「僕の事は気にしなくていいよ。今まで本当にお世話になってるから、少しの迷惑くらい全然問題ないよ」
俺の謝罪を聞いた田中さんは苦笑いを浮かべつつもそう言いい、俺達は田中さんの厚意に甘える事にした。
それから俺達はメルリアさんを呼び出し、今王女様がどこに居るかを訊ねた。
メルリアさんは確認してきますと言って一度部屋を退室し、十分ほどして戻って来た。
「王女様からの伝言です。謁見の間で話をしたいそうです。どうされますか?」
「行きます」
俺達はメルリアさんの案内で謁見の間に向かった。
謁見の間に入ると王女様が玉座に腰かけてウォレンさんは王女様のすぐ側に立っていた。謁見の間の壁際には偉そうにしている貴族達と鎧を着こんだ騎士達が立ち並び、王女様の前には男が一人跪いていた。
「ユーマ様方お待ちしておりました。それでは謁見を始めたいと思います」
王女様は俺達が王女様の前に跪いていた男の後ろまで来たところでそう言って謁見を始めさせた。
俺達は不意打ちで謁見が始まったせいで跪くタイミングを失い、立ったまま王女様の言葉を聞いていたが王女様の言葉が一度止まった隙間を縫うように、壁際に並んだ貴族達から「無礼だぞ、さっさと跪け」と怒鳴られた。
俺からすれば跪く前に王女様が勝手に話し始めたのが原因で跪くタイミングを失ったのに、何故俺達が文句を言われなければならないのかイライラしながら玉座に座る王女様を睨みつけた。
「静かに、彼らは跪く必要はありません。これは私の判断です。これ以上騒ぐなら退室して貰って構いません」
俺に睨まれた王女様は一瞬肩をビクッと振るわせた後すぐさまそう言い、周りにいた貴族達を黙らせた。王女様にそう言われた貴族達は不満そうな顔をしていたが王女様に反論する者は出てこなかった。
「余計な邪魔が入りましたがこれで本題に移れます。まずはユーマ様、先ほどは審議官長が失礼な事を言い申し訳ありませんでした。彼も反省していますのでこれで無かったことにして頂けませんか?」
俺は王女様が言い放った不躾な発言にキレて断る為に口を開いた。
「断r「ふざけないで! どこまで私の優君を馬鹿にしたら気が済むの? 私達は別に王女様の臣下でもなければ奴隷でもない! どうせ騎士団に私達を始末させるように誘導したのもアンタなんでしょ。ホントやり方がセコイのよ、そんなんだからそこの貴族達からお飾りだとか、能無しとか言われるのよ。まだまだ言いたいことはあるけどどうせ言っても無駄だろうから今はこれだけ、そこの男をこの場で処罰するか私達と敵対するかどちらか選びなさい。今すぐに!」
姫姉も王女様の俺を馬鹿にした発言にキレたのか王女様を怒鳴りつけ罵倒し、その後王女様に俺達を取るかそれとも俺を使用人呼ばわりした審議官長を取るか選択を迫った。
姫姉に言葉を被せられ発言権を失った俺はわざわざ会話に割り込んでとばっちりを受けたくなかったので事の成り行きを見守ることにして一歩引いた。
あと個人的な事で不謹慎なのだが姫姉が俺の為に怒ってくれて喜んでいる自分がいる。
「貴様、王女様に向かって無礼だ! 騎士共あの女を捕らえろ!」
壁際に並んでいた貴族の一人が姫姉の発言を聞いたすぐ後にそう叫び、騎士達に俺達を捕らえる様に命令を下した。貴族に命じられた騎士達はどうするべきか悩んでいる様子で俺達を囲むように移動してきたが、捕らえようとまではしてこなかった。
「これが答えと受け取って良いですか王女様?」
姫姉は俺達を取り囲んだ騎士達を一瞥した後、王女様の方に向き直り怒気を込めた口調で王女様を問い質した。
「待って下さい、私は敵対するつもりはありません! 騎士に皆さん下がって下さい。……それと勝手な指示を出した彼を捕らえて下さい、他の方々も勝手な行動は控えて下さい」
王女様は今の姫姉が怒っていて今にも殺し合いに発展しかねないと理解したのか直ぐに敵対の意思がない事を宣言し、騎士を下がらせ貴族達に馬鹿な真似をしない様に釘を刺した。俺たちを捕まえる様に命令を出した貴族は騎士達によって拘束された。
「王女様! こんな奴らの言いなりになるおつもりですか! こんなどこの誰とも知れない下民如き不敬罪で殺してしまえばいいではないですか!」
王女様の発言が不服だったのか騎士に命令した貴族とは別の貴族が恐れ知らずにも俺達を下民と呼び、蔑んだ目で見ながらそう訴え出た。
俺と姫姉は下民と呼ばれた事で怒りのボルテージが一気に高まり、俺は俺達を下民と呼んだ貴族にガン飛ばし、姫姉は王女様を睨み付けた。
俺にガンつけられた貴族は短く悲鳴を上げたが一歩も引かず、逆に俺達を恐怖と憎悪の入り混じった目で睨み返してきた。
一触即発の状態の中、王女様が口を開いた。
「なりません、彼らは私が自ら勲章を与えた方達です! そんな彼らを下民呼ばわりするという事はこの私を侮辱していると言っても過言ではありません、王族批判です! 彼も捕らえて下さい」
王女様は俺と姫姉が発する怒りを感じ取り、俺達を下民扱いした貴族を捕らえる様に騎士達に命じた。
「そんなバカな、そんなガキどもが勲章を授与されるはずが無い! 何かの間違いだ、そうだ王女様は騙されているんだ! お前達放せ! 私よりもあの嘘つき共を捕らえろ!」
俺達を下民扱いしてきた貴族はそう叫びながら必死に抵抗をしていたが呆気なく捕らえられ、俺たちを捕らえる様に命令した貴族と一緒に審議官長の横に拘束された状態で並べられた。