第113話 久しぶりの姫姉との二人きりの時間
前回のあらすじ
窓のない部屋で書類を精査する
審議官長に使用人扱いされる
キレて審議官長をボコる
「……迷った」
人が誰も通りがからない廊下で俺は一人そう呟いた。
「迷われていたのですか?」
誰もいないと思い込んでいたところに急に後ろから声をかけられ驚き振り返ると、俺の数歩後ろの位置にメルリアさんが立っていた。一人だと思って呟いた言葉を聞かれて恥ずかしくなったが、メルリアさんがいつからそこにいたのか純粋に疑問に思い訊ねた。
「メルリアさんいつからそこに」
「ユーマ様が部屋を飛び出して行かれてからずっと後ろに控えておりましたが」
「ずっとついてきてたってことですか?」
「はい、そうなりますね」
恥かしくて穴があったら入りたい、そんな気持ちを覚えつつもう一つ疑問に思っていることを訊ねてみる事にした。
「なんで今まで話しかけてこなかったんですか?」
「何か目的があって進んでいるのかと思い声をかけるのを控えてました」
メルリアさんから俺が何か深い考えがあって動いていると勘違いされていた事に居た堪れなくなり俺は素直に真実を告げた。
「すいません、当てもなく歩いてました」
「そうですか……、ではこれからどうされますか? 王女様のところへ戻りますか? それとも部屋にお戻りになりますか?」
メルリアさんは俺の正直な告白に少し驚いた表情を見せたがそれ以上は追及してこず、これからどうするか質問してきた。
「一旦部屋に戻りたいです」
俺がそう伝えるとメルリアさんは優しい笑顔で「分かりました、ではご案内しますね」と言い俺の前を歩き出した。
メルリアさんの案内で俺は自分の部屋まで戻って来ることが出来た。
「ここまで道案内して貰い、ありがとうございます。それと無駄に手間を取らせてしまいすいませんでした」
俺は此処まで連れて来てくれたメルリアさんに頭を下げてお礼と謝罪の意を示した。
「いえ、これは私の職務の範囲内ですから、感謝だけで結構です。謝罪は要りません」
メルリアさんが俺にそう告げたところで姫姉が泊まっている部屋の扉が開きそこから姫姉が顔を出して俺たちに話しかけて来た。
「あれ優君今日は帰って来るのが早かったけど何してるの? それにメルリアさんに謝ってたみたいだし……もしかして私という者がありながら」
姫姉はなぜか恋人の浮気現場を発見したみたいなノリで茶化してきた。
「違うわ! ちょっと色々あって迷惑かけたから謝ってただけだよ」
「色々って何? 私気になるなぁ」
「色々は色々だよ」
「あっそう、ならメルリアさん優君が何をしたのか教えてください」
俺がもったいぶって話さないでいると姫姉はメルリアさんに何があったか質問した。
「はい、ユーマ様が道に迷われていましたのでここまで道案内を」
「あはは、優君迷子になってたんだ。確かにこの御城は広いけど迷子になるほど入り組んでは無かったはずだけど?」
メルリアさんから浅い真実を知った姫姉は笑いつつ、何故迷子になっていたのか理由を俺に聞いて来た。
「仕方ないだろ、今日始めて行った場所だったんだから。それに……何でもない」
俺は恥ずかしさに耐えつつ正直に初見だから迷子になったと伝え、その前にあった事は言いそうになってやっぱりやめた。
「それなら仕方ないかな。で、何があったの? 今日は確かあの何とかって人捕まえに行ってたんじゃなかったの?」
「なんとかって、ガネトリーな。捕まえたよ。でもその後に色々あってな」
「ちょっと待って、その話長くなる? 長くなるんだったら優君の部屋で話さない?」
「そうだな、立ち話でするにはちょっと……。分かった中で話すか」
「では私はこれで」
俺がそう言うと姫姉は一度部屋の中に戻って行き、メルリアさんはそう言ってこの場を去った。
数分もしない内に姫姉がノックをして部屋の中に入って来てその後部屋の鍵をかけた。
「それじゃ優君、何があったか聞かせて貰える?」
「ああ、最初から話すよ」
それから俺はガネトリーを捕まえた事から金庫を破った事。
王城に戻って来て金庫の中にあった書類を調べる段階で審議官長に使用人扱いをされ無理矢理連れ出されそうになり抵抗した事。
審議官長について王女様に問い詰めていたら俺に抵抗され逆上した審議官長に魔法を撃たれた事。
頭にきて審議官長を行動不能にした後、俺を助けもせず審議官長を止めることもしなかった王女様に見殺しにするつもりだったのかと問い詰めた事。
王女様に疑いを晴らすために審議判定が出来る魔道具でそのつもりが無いと証言して欲しいと頼んだら王女様が魔道具を使うのを躊躇った事。
王女様のその態度で俺は王女様に愛想を尽かし、金庫から取り出した書類を持って飛び出してきて迷子になった事。
それらの今日あった事を姫姉に事細かに伝えた。
「何それ、私の優君を使用人扱い。それどころか優君が苦労して回収してきたのに感謝の一言もなく私刑で攻撃してくるなんて……。許せない、審議官長とかいう男もだけなにもしなかった王女様も」
姫姉はそう言うと瞳に怒りを宿らせて手にエンチャントマシマシの刀を持ち今にも飛び出していきそうな勢いで立ち上がった。
「ちょ、ちょっと待って姫姉。何するつもり」
「何って私の大切な優君を馬鹿にする奴なんて痛い目を見た方が良いんだよ。って言うか私が痛い目に遭わせてやる」
俺の質問に姫姉はそう言って刀を手に部屋を出て行こうとするので俺は慌てて姫姉の腕を掴み進行を止めた。
「いやいや、さすがにそこまではしなくてもいいから!」
「でも優君が理不尽な目に遭って、しかも本人からまともな謝罪すらされてないだなんて不当よ! こっちは犯罪者を捕まえるのを手伝ったり色々してるのに」
「確かにそうだけど、だからって実力行使は流石にやりすぎだから! 一旦落ち着いて」
このままでは姫姉が王女様を殺しかねないと思い俺は全力で姫姉を宥めた。
何とか言葉が届いたのか少しだけ落ち着きを取り戻し姫姉は椅子に腰かけた。
「優君がそこまで言うなら、でも何もやり返さないのは無理だよ」
「分かってるよ。俺だってそのために金庫の中身を持って来たんだから」
俺はそう言って無限収納からガネトリーの金庫から奪ってきた書類を机の上に広げた。
「なるほどそれで王女様を脅すんだね」
「それは無理だな、これが無いと俺たちを殺そうとしてきたガネトリーを裁くことが出来ないから」
そうこれを盾に王女様を脅そうとすればガネトリーに罰を与える事が出来ず、面倒なことが残ってしまう。かといって無条件にこの書類を王女様に渡すのも癪に障る。
「そっか、だとすると何か他の方法を考えないと」
「そうなんだよな。という訳で姫姉、知恵を貸してくれ」
こうして俺と姫姉の二人での作戦会議が始まった。
俺と姫姉はいろんな意見を出し合いそれを元に作戦を練りどこかに見落としが無いか、議論を重ねに重ねてきたがそれも遂に限界を迎えた。
俺と姫姉は頭をフル回転させていくつも作戦を立てていたがどれも絶対に成功するという見通しが立たず、改良案も出てこなくなった。
「あーもう何も思いつかない! 優君、もういっそ殴った方が楽なんじゃない」
姫姉は椅子の背もたれにもたれ掛かり、駄々っ子のように腕を振りながら極端な事を言いだした。
「できればそれは最終手段にしたいけど、他に何か良い作戦無いかなぁ」
「やっぱり一番最初の普通に直訴してふざけたこと言ったら優君が持ってきた書類を街中でばら撒く作戦で良いんじゃない」
「でもそれで王女様が開き直ったら書類をばら撒くハメになるしそうしたら俺たちは本当に指名手配されるかもだから却下しただろ」
さすがの王女様もそこまで馬鹿じゃないとは思うが周りの奴等は馬鹿なのが多そうなのであんまり無茶な事は出来ない、というかしたくない。やったら最後殺し合いにまで発展しそうだし、そんな事になったら今までの苦労が無駄になる。
「でも他の作戦も似たり寄ったりだよ」
「そうなんだよな、やっぱり出たとこ勝負で行くしかないか」
俺は姫姉の核心を突く発言に開き直ってそう言い立ち上がった。そのタイミングで誰かが部屋の扉をノックしてきた。