第111話 ユニークスキルで金庫破り
前回のあらすじ
ガネトリーを捕まえに行くが職場はもぬけの殻
ガネトリーの自宅に行くとガネトリーとその家族が籠城
贅沢な暮らしぶりにキレて独断専行でガネトリーを捕まえる
「それじゃあこの金庫開けていいですか?」
俺は王女様に何かする前に一言相談しろと言われてしまったので一応金庫を開ける許可を取る為、王女様に許可を得ようとした。それなのに王女様は俺の言葉を聞くなり頭を抱えてため息を吐いた。
「なぜ今金庫を開けようと思ったのですか?」
王女様は嫌そうな顔をしながら俺にそう聞いて来た。
「そりゃ俺を襲うように指示をした証拠がここにあるからですけど」
俺がそう答えると王女様はより一層顔を歪ませて手で頭を押さえた。
「なぜそれが分かるんですか……。いえ、言わなくていいです、なんとなく察しはつくので」
「それで開けちゃってもいいですか?」
再度王女様に金庫を開ける許可を求めた。
「どうぞ、ご自由にして下さい」
俺は王女様の言質を取り金庫破りを始めた。
まず金庫の中だが上の段にある両開きの鍵付きの扉の中には契約書と書かれた棚と指示書と書かれた棚、それとその他と書かれた棚があった。几帳面に分けられた各棚の上部には正規の方法以外で開けるとインクが出る仕掛けが施されていた。
両開きの扉の下は上下に引き出しがあり上の引き出しには白金貨が引き出しの三分の二ほどを占める割合で端から綺麗に並べられており、下の引き出しには金貨がぎゅうぎゅうに敷き詰められていた。
二つの引き出しには鍵が無く、中身が台無しになるような仕掛けも無かった。
俺は手始めにスティールでインクが飛び出る仕掛けを奪い盗ろうとするが失敗、金庫と一体化されていて盗れなかった。
次に書類に対してスティールを発動すると簡単に奪い盗ることが出来た。ただ一回で取れるのは一枚だけなのに加えて極稀に失敗するので根気のいる作業となってしまった。
それから騎士達がガネトリー達を連行するところや牢に入れられていた奴隷たちが連れて行かれるのを横目に見ながら一枚一枚丁寧に奪い盗り、全書類を奪い盗る頃にはこの部屋にあった物が俺が破ろうとしている金庫を残して全て騎士達によって外に運び出されていた。
これ以上時間をかけていると文句を言われそうだったので奪い盗った書類を一旦無限収納に仕舞い金庫の扉の金具をスティールで奪った。扉を支える金具が無くなった事で簡単に取れるようになった扉を引っぺがした。その瞬間、上の段の扉の隙間からインクが溢れだした。俺はその事は気にせず下二つの引き出しを外してそのまま無限収納に仕舞った。
「王女様、お待たせしました。これで金庫の中にあった物は全て取り出しました」
俺は無限収納からタオルと水の入った桶を取り出して手を洗いながらそう言った。
「はぁ、分かりました。今すぐ確認したいところですがここではアレですので、王城に戻ってから確認します。それまで預かってて貰えますか?」
「ええ、構いませんよ。俺もさすがにここで出したくはありませんし」
俺と王女様は未だにインクが溢れだしている金庫の方を見ながらそう言った。
地下室から王女様の後に続き地上に出ると、丁度捕まったガネトリーとその家族が馬車に乗せられていた。
俺が面倒なタイミングで出てきてしまったと思った矢先、王女様の存在に気が付いたガネトリーがこっちに向かって叫んできた。
「よくも私にこんなことをしてくれたな。だが残念だったな証拠は全て金庫の中。お前たちにあの金庫を開ける事は出来ない。無理に開ければ証拠は全てダメになる。証拠さえなければ大貴族で政治の中枢にいるこの私を処罰することなど出来るはずが無い! そうなれば今度は私が王女様、貴方を断罪する番だ! 覚えて、離せッ! 触るなこのクズどもが!」
「黙れッそれ以上の発言は許さん!」
ガネトリーが叫んでいる途中、それに気が付いた騎士がガネトリーを取り押さえ、馬車に無理矢理詰め込んだ。
「ガネトリー卿を止めるのが遅れてしまい申し訳ありません!」
ガネトリーを馬車に詰め込んだ騎士は駆け足でこちらに近寄り頭を下げながら王女様にそう謝った。
「あれは事故のようなものです。貴方が悪いわけではありませんので謝罪は結構です。ガネトリー卿の護送お願いします」
「寛大なご処置、痛み入ります。ガネトリー卿は私が責任を持って王城まで連れて行きます」
騎士はそう言った後もう一度王女様に頭を下げてからガネトリーを乗せた馬車に乗り込み、彼が乗ったのを確認した御者は馬車は出発させた。
「では私たちも行きましょうか」
王女様はそう言った後、一人の騎士に何かを伝えた。それを聞いた騎士はどこかへ走り去っていき、少ししたところで馬車がやって来てその馬車の中からウォレンさんが顔を出し御者台に座っていた騎士が降りて来た。
「王女様お待たせいたしました、どうぞお乗りください」
御者台から降りて来た騎士は馬車の扉を開けて傍に立ち、そう言って王女様に馬車に乗るように促した。
王女様は騎士に一言お礼を言ってから馬車に乗り込み俺も王女様の後に続いて馬車に乗り込もうとしたが騎士が俺の前に立ち塞がり馬車の扉を閉めた。
「なにをしている。貴様のような下男は私と一緒に御者台だ」
「いや俺は下男じゃ」
俺は誤解を解こうとしたが言い終わる前に騎士に腕を掴まれ御者台に乗せられ、騎士も乗り込んで馬車を出発させてしまった。
出発した馬車の御者台の上でわざわざ誤解を解く気にもなれず、誤解を解くのは早々に諦めて御者台で浴びる風を満喫していた。
下男扱いされた怒りも御者台に乗ると言う未知の体験でいつの間にか消え失せた。
それから数十分ほどの時を掛けて王城に辿り着いた。
御者台に乗って風を浴びるという体験をして気分が良くなった俺は騎士より先に御者台を降りて馬車の扉を開けに行った。
「王女様、ウォレン様、お疲れ様です。王城に到着いたしました」
俺は悪戯のつもりでそう言いながら馬車の扉を開けた。御者をしていた騎士は俺に先を越されたことに少し悔しそうな顔をしていた。
「お疲れ様ですではありません! 私と一緒にいたユーマ様は何処に……何をされているのですかユーマ様?」
ご立腹な様子の王女様が馬車から顔を出し文句を言ってきたがその文句は俺と目が合ったところで途切れ、どういうことなのか説明を求めて来た。
「何をと言われましても。騎士曰く俺は王女様の下男らしいんで、下男らしく御者のまねごとをしてみたんですけど」
「も、申し訳ありません、無礼な騎士に代わってお詫びいたします」
俺がありのままおこたことを話すと王女様は俺に頭を下げて謝罪をしてきた。その様子を遠目に見ていた騎士が驚いて駆け寄ってきた。
「王女様、下男などに頭を下げるなど一体何があったのですか?」
王女様が頭を下げるという異常事態に騎士は何があったか王女様に訊ねた。
「あなたですか、ユーマ様を下男呼ばわりしたのは」
「は、はい……王女様の後ろを付き従っていたので下男だと認識していましたが……まさか貴族様ですか!」
そこまで言って騎士は顔を青ざめさせて震えだした。
「いや貴族なんかじゃないけど」
俺がそう言うと騎士は青ざめた表情から一変、あからさまにホッとした表情になった。だがそこに王女様が爆弾を放った。
「貴族ではありませんがユーマ様は勲章を授与されていますので扱いは準貴族に相当します」
王女様の言葉を聞き騎士はさっきよりも顔を真っ青に染め震えだした。
「まぁそれが無くても俺って今ガネトリーの金庫の中身を無限収納に預かってるから扱いには気を付けて欲しかったけどな」
「申し訳ありませんでしたぁ!」
俺の発言を聞いた騎士は目を見張る速さで土下座をして謝って来た。
「御者台に乗せて貰ったし今回は許すけど今度からは気を付けてね」
気分が良い俺は見事な土下座を披露してきた騎士の潔さに免じて今回の事は許した。
それから俺と王女様とウォレンさんは迎えに来たメルリアさんを含むメイドさんたちの案内で王城の中に入って行った。