第110話 ガネトリー・ダイカーンを捕まえる
前回のあらすじ
尋問ダイジェスト
プリンは美味かった
騎士の尋問終わり
昨夜夕食の席で王女様がガネトリーを明日尋問すると宣言した後、俺たちは何とも言えない空気の中食事をとった。夕食後もその事には誰も触れる事無くそれぞれ自分たちの部屋に戻り朝を迎えた。
昨日王女様があんなことを言ったわりには王城内は静かでいつもと変わらない様子だった。
俺たちもいつもと変わらずメルリアさんに食堂へ案内して貰い、食堂で王女様がやって来るのを先に来ていたウィンダムさん達と待っていた。
しばらくすると王女様とウォレンさんがやって来て、メイドたちが朝食を配膳していった。全員の目の前に朝食が運ばれたところで王女様たちが食前の祈りをし、俺たちは頂きますをした。
朝食中は特に話すこともなく過ぎて行き、全員が朝食を食べ終えたところで王女様が口を開いた。
「皆様、これから財務局に赴きガネトリー卿を捕らえたいと思います。捕らえ次第尋問を行いたいと思いますのでユーマ様、ご同行願えませんでしょうか?」
「分かりました。ついて行きます」
俺は王女様の頼みに二つ返事で答えた。
「良かったです、ではこれから財務局に向かいたいと思いますのでついて来て下さい」
王女様はそう言うと食堂をでてウォレンさんもそれについて行った。俺も王女様の後を追って食堂を出ると廊下には十数人の完全武装をした騎士が待っていた。
王女様はその騎士たちに何かを伝え、それを聞いた騎士達が動き出した。
俺は騎士の後に続いて歩く王女様のまたその後ろを付いて歩き、十数分ほど歩いたところで一つの部屋の前で止まった。
部屋の扉の前にいる騎士達がひそひそと何か話した後、一人の騎士が扉を乱暴に開けた。
「ガネトリー・ダイカーン卿これまでの不正な取引および、虚偽報告書の作成などの罪で逮捕する!」
そう言って騎士たちはぞろぞろと部屋の中に押し入った。だがいつまでたっても騎士たちの「探せ!」という怒鳴り声しか聞こえず、俺がガネトリーに逃げられたなと思っていると一人の騎士が部屋から出て来た。
「王女様、ウォレン様、中にガネトリー卿は居ませんでした! ただ不正にかかわっていた書類のいくつかを発見いたしました」
部屋から出て来た騎士は王女様たちに現在の部屋の中の様子を報告してきた。
「そうですか、ここに居ないとなると後は自宅の方でしょうか?」
騎士の報告を聞いた王女様はガネトリーが他にどこに逃げるか予想を添えてウォレンさんに訊ねた。
「そうじゃな、今朝までの分だけじゃが王都の外に出たという報告は無いようじゃしそこにいるかもしれんのぅ」
「そうですね、ではここの調査に騎士を数名残して自宅の方に向かいましょう。ユーマ様、宜しいですか?」
ウォレンさんの意見を聞き王女様は今後の方針を決め、俺に了承を求めて来た。
俺はガネトリーに関して殆ど情報を持っていないし、他に案も無いので王女様の方針に従うことにした。
「反対する理由もないですし良いですよ」
俺の返答を聞き王女様は騎士達に命令を出し、俺たちは騎士達に連れられ馬車に乗り込みガネトリーの自宅に向かった。
荒い運転の馬車に揺られること数分、ガネトリーの自宅に到着した。
ガネトリーの自宅には先に来ていたのか大勢の騎士達が走り回っていた。
王女様は近くにいた騎士を呼び留めて話しかけた。
「少し宜しいでしょうか?」
「はいなんで……ッ! 何なりとお申し付けください王女様」
王女様に呼び止められた騎士は初め苛立った表情で返事をしようとしたが、話しかけてきたのが王女様だと分かると片膝をついて敬礼して答えた。
「敬礼は不要です。それで一つ聞きたいのですが、ガネトリー卿はこちらにいますか?」
「はっ、申し訳ありません。我々がガネトリー卿の家族を捕らえるためにこちらに来た際にガネトリー卿本人と出くわし抵抗されてしまい、現在ガネトリー卿とその家族は自宅の一室に籠城しております」
王女様に敬礼は不要と言われた騎士は気を付けの姿勢で王女様の質問に答えた。
「分かりました、とりあえず話をしたいので案内して頂けますか?」
「……はぁ分かりました、ですが危険ですので私より前には出ないでください」
騎士は少し躊躇いを見せたが王女様の命令には逆らえず案内をしてくれた。
俺たちは騎士の案内でガネトリーが籠城している場所の近くまでやって来た。
「こちらになります、この奥にある部屋に籠城していてこちらからは手出しが出来ない状態です」
騎士が自宅の一室と言っていたから家の中かと思ってたが違った。なんと裏庭の噴水の下に隠し通路がありその奥にあるシェルターに籠城しているらしい。
俺は今どうなっているか調べるために透視を使ってシェルターの中を覗いてみた。
中は見るからに悪事を働いていますと言わんばかりに贅を尽くした調度品や厳重な金庫。それに金属製の首輪を付けられた年端もいかない少年少女たちや美人な女性が大勢、鉄格子の中に粗雑に入れられていた。
予想はしていたが思っていたよりも酷い状況に俺は苛立ちを押さえられず体が勝手に動いていた。
否、俺が襲撃やら尋問やらで肉体的、精神的に苦労している中、こいつは贅沢三昧していることに理不尽さに怒りを感じて衝動的に動いていた。
「納得いかねぇ、もう限界だ……ぶっ潰す!」
俺はそう言いながら騎士や王女様たちの制止を振り切って隠し通路の中に入って行き金属製の頑強そうな扉の前に立った。それから俺は無限収納からミスリルの金属塊を取り出し、スキル形状変化でハンマーに作り替えスキルスティールで扉の蝶番を何とか奪い盗った。後は振りかぶったハンマーで扉を思いっきり殴りつけて「ガギャンッ」ぶっ壊した。
壊れるはずが無いと過信していた扉が一発で壊れ横たわっている事に理解が追い付いていないのかガネトリーやその家族たちは口を開けて呆けていた。
俺は呆けて動ないでいるガネトリーにスキル形状変化を使って手に持っていたハンマーを今度は手枷と猿轡にして拘束しようとしたがさすがにそこまでは許してくれず抵抗してきた。
「なにをする! 離グホッ」
ガネトリーは叫びながら逃げようと腕を振って来たが素人の力任せの大振り、俺はしゃがんで躱し、立ち上がる勢いで思いっきり顎に良いのをお見舞いしてやった。
俺の一撃がクリーンヒットしたのかガネトリーは白目をむいて倒れ伏した。
「あっやべ」
あまりの呆気なさに驚いたがすぐさまガネトリーが生きているか口元に手をやり、呼吸をしている事が判った所で拘束した。
俺がガネトリーを気絶させ拘束したところで騎士達が部屋に駆け込んできた。
「ガネトリー卿及びその家族を捕らえろ!」
先頭に立っていた騎士がそう叫び後続の騎士たちは未だ立ちつくしているガネトリーの家族たちに向かって行った。ガネトリーの家族たちは必死に抵抗していたが鍛えられた騎士に勝てるはずもなく敢え無く捕らえられた。
ガネトリーの家族たちが捕らえられている間、俺はあからさまに怪しい金庫の中を透視で覗いていた。
金庫の中身は大量の紙束と金貨や白金貨が入っていた。他にも何か変な装置が付いていたので鑑定を使って調べてみると無理矢理開けるとインクが飛び出す仕掛けになっているようだった。
俺が金庫について調べていると肩を叩かれそれが誰だか確認するために振り返ると王女様が笑顔ながらも瞳に怒りを宿した表情で睨んできていた。俺は一旦正面の金庫を見てからもう一度振り返ってみたが王女様の表情は変わらず、諦めて話しかけた。
「どうかしましたか王女様?」
「どうかしましたかじゃありません。何を考えているんですか? 勝手に入って扉を壊して、挙句の果てに今度は金庫破りですか?」
「待って下さい、まだ金庫は壊してません。それに無理矢理開けると中の書類がインクまみれになる仕掛けがあるので壊せません」
俺が王女様にそう告げると王女様は呆れかえってため息を吐いた。
「なぜそんな事が判るのかとか色々と言いたいことはありますが取りあえず、ガネトリー卿の捕縛に手を貸して頂き、そして金庫の仕掛けを教えて頂きありがとうございます。ですが今後は私かウォレン老師に相談してからにして下さい」