第108話 元第四師団副団長の判決
前回のあらすじ
尋問を一時中断する
ウォレンさんが王女様を説教
条件付きで王女様を許す
昼食休憩を挟み俺と王女様の間にあるトゲトゲした空気が少し落ち着きを見せたところで王女様が意を決したかのように口を開いた。
「そろそろ尋問の方を再開したいのですが、宜しいでしょうか?」
王女様は俺の方を向きながらそう聞いて来た。
俺からすれば特に断る理由も無いので「良いですよ」と尋問の再開に賛成の意思を示した。
ウォレンさんも同意し俺たちは尋問に使う部屋まで戻って来た。
部屋に入った王女様は向こう側にいる騎士に元第四師団副団長を連れて来るように命じ、騎士はすぐさま元副団長を連れて来た。
騎士に連れられ部屋に入って来た元副団長は俺を見るなり顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけて来た。
「何故貴様がここに……無関係な奴は引っ込んでろ! 王女様こいつを早く追い出して下さい! 貴方はこいつに騙されています!」
俺は元副団長の発言に心底呆れ、ため息を吐いた。
元副団長は俺が言い返さないでいる事で俺を言い負かせることが出来ると考えたのか、さっきよりも過激に俺を罵倒してきた。
「貴様のようなどこの誰とも知れん奴がこの場にいる事自体不敬だッさっさとこの場から出て行けッ目障りだ! どうやって王女様に取り入ったか知らんが貴族でもない奴が王女様の傍にいるなど身の程を弁えろ! 平民の分際で貴族である私を裁こうなどと恥を知れッ平民は平民らしく私の命令にただ従ってればいいんだ!」
元副団長は一息でそう言い切ると乱れた呼吸を整えるために深く息を吸って吐いた。
「言いたいことはそれだけですか?」
元副団長の発言に俺は少し苛立ちながらどう言い返そうか考えていると、王女様がいきなり元副団長に向かってそう言った。
王女様にそう言われ元副団長は少しの間呆気に取られていたがすぐに気を持ち直し王女様の質問に返答した。
「いえ、まだあります。王女様そこの平民は騎士団を侮辱し一方的攻撃を仕掛けて来た大罪人との報告があります! 私よりもまずそこの平民を捕らえるべきです!」
元副団長は俺の事を指さし王女様にそう言った。王女様はそれを聞いた途端、俺と元副団長の顔を交互に見ながらオロオロしだした。
俺はそんな頼りない状態の王女様を見限ってどう反論すべきか思考を巡らせることにした。
まず侮辱の件だが、確かに王都に来てウィンダムさん達と待たされていた時に襲撃者に襲われ、それを返り討ちにした後駆け付けた兵士達に駆け付けるのが遅かったから襲撃者たちの仲間じゃないかと疑ったり、王女様の命令に従わなかった兵士を煽ったりしたがどれがどれが侮辱扱いなのか俺には判断が付かない。逆にもう一つの一方的に攻撃を仕掛けたっていうのは襲ってきた騎士達に抵抗をした時のことだろう。俺でも傍から見ればそういう風に見えるくらいには一方的だった気がする。
俺はそんな事を思いだしながら思考を纏めて元副団長に話しかけた。
「あんたの言い分だが反論させて貰うぞ」
俺がそう切り出すと元副団長は俺に話をさせる気が無いのか「五月蝿い」、「黙れ」、「反論は認めん」と怒鳴りだし俺が話すのを邪魔しだした。
このままでは埒が明かないので俺は元副団長を黙らせて欲しいとウォレンさんに頼み、俺の頼みを聞いたウォレンさんは騎士に元副団長を黙らせるように命令した。回りくどいが騎士は俺のいう事は一切聞いてくれないので仕方がない。
騎士が元副団長の口を塞ぎ静かになったところで俺は唸り続けている元副団長に向かって話し始めた。
「あんたの言い分では俺が騎士団を侮辱した事になってるみたいだが、俺からすれば事情も聞かずにいきなり犯罪者呼ばわりしてくる奴に文句を言っただけだ。そもそも勲章を授与されている俺を証拠もなく犯罪者呼ばわりしたら王族への反逆罪? で処分とかって聞いたんだけど、そこはどうなんですか王女様」
俺が話し始めてやっと落ち着きを取り戻し始めた王女様に俺は話を振った。王女様はいきなり話しを振られて戸惑っていたが、直ぐに立て直し口を開いた。
「はい、ユーマ様の言われる通り王族が勲章を送った相手を何の証拠もなく犯罪者として捕らえるのは現行犯でない限りは勲章を送った王族の顔を潰す行為であり違法です。ですのでユーマ様の発言は残念ですが侮辱扱いにはなりません、残念ですが」
王女様は俺の質問にどこか棘ある言い方で答えた。
俺の話と王女様の説明を騎士に口を押えられ大人しく聞いていた元副団長だったが、俺の発言が侮辱使いにならないとはっきり王女様が口にすると何かを言いたそうに唸りだした。
騎士が唸りだした元副団長をどうするか王女様に目で質問してきたが、王女様は首を横に振って黙らせたままにするように騎士に命じた。
俺はそのやり取りを見て元副団長が唸るのをやめたところで口を開いた。
「説明ありがとうございます王女様。という事で俺の騎士団侮辱発言の疑いは無くなった。次は騎士団を一方的に攻撃したことについて話そうか。まぁその事は俺よりもその場にいた王女様の方が詳しいかもしれないので王女様、説明してください」
「私がですか?!」
まさか俺に説明を全部任せられるとは思っていなかった王女様はいきなりの事に驚いていて声をあげ、俺の方を見つめて来た。俺はその視線に笑顔で返し、王女様は諦めたかのように説明を始めた。
「分かりました説明します。確かに元副団長、貴方の言う通りユーマ様方が一方的に騎士団を攻撃していましたがそれは私の命令を無視した騎士達から身を守るため仕方がなく抵抗した結果であり、ユーマ様方は一切悪くありません」
王女様が説明を終えたところで元副団長は諦めたのか今度は唸ることなく俯いているだけだった。俺はその様子を見てこのまま尋問を始めた方が正直に話してくれそうだなと思い王女様に尋問の再開を勧めた。
「という事で俺の無実が証明されたところで、王女様さっさと尋問を再開しましょう」
「分かりました、それでは尋問を始めたいと思います。これから貴方にいくつか質問をします。質問にははいかいいえで答えて下さい。嘘を吐いても良いですがこの魔道具がありますので嘘は分かります。ではウォレン老師、お願いします」
「では質問をするかのう。元副団長、お主は元第四師団団長が行った犯罪行為を知っていたか?」
ウォレンさんは質問を言い終えたところで騎士に元副団長の口を塞いでいた手を退ける様に指示し、元副団長が返答出来る様にした。
「はい、知っていました」
元副団長が小さな声でそう答えると魔道具は青く光りそれが真実だと判定した。
「そうか、では次にお主は殺人、強姦、脅迫など犯罪を犯したか?」
「はい、団長と共に騎士団に楯突いた男の妻を襲い、最終的に殺しました」
元副団長は後悔しているのか涙を流し嗚咽交じりの声でウォレンさんの質問に答え、魔道具はそれが真実だと青く光った。
それからもいくつかの質問を重ねて元副団長が元第四師団団長と行ってきた犯罪、そして元副団長が個人的に行った犯罪の数々が暴かれていった。賄賂や脅迫は勿論の事、冤罪や強姦に殺人までよく今まで裁かれずに過ごせたのか不思議なくらいの数だった。
元副団長の犯罪の数々を知り、王女様は悩んでいる様子だったが遂に決心をしたのか拳に力を入れて自分の脚を叩き立ち上がり口を開いた。
「それではあなたに判決を言い渡します。貴方は元第四師団団長と同じく王城前広場にて三日間の晒し刑の後、死刑に処します。財産は全て没収とし、一族は全員犯罪奴隷とします。ただし生まれて間もない娘は法に基づき孤児院に入れます。ユーマ様ウォレン老師これで宜しいですね」
王女様の判決に問題が無いと判断した俺とウォレンさんは頷いて王女様の判断に賛同の意を示した。
王女様は俺とウォレンさんの返答を見て緊張が解けたのか力が抜けたように椅子に座り込んだ。