第96話 幼馴染みに隠し事は出来ない
前回のあらすじ
第四師団団長を捕まえる
メルリアさんに見張りを頼まれる
腹が減っておにぎりと串焼きを食べる
手枷を掛けられ等間隔に並べられた兵士たちの列を通り抜けて、扉を開けたままのこの部屋の前までメルリアさんと兵士たちがやって来た。メルリアさんたちは昼飯を食べ終えたばかりの俺たちを見た後、メルリアさんが代表して俺たちに声を掛けてきた。
「お待たせいたしました、ユーマ様方。彼らの見張りはこちらで引継ぎます。皆様にはお食事をと思いましたが、どうされますか?」
「俺は食べたのでもういいです」
俺がそう言うと姫姉たちも俺の言葉に続いてもう食事は要らないと言った。
「そうですか、では皆様には応接室にご案内いたしますのでそちらでお寛ぎください」
メルリアさんは俺たちに向かってそう言い終えると後ろに控えていた女性の兵士に何か伝え、その後俺たちを応接室に案内するために先頭に立って歩き出した。
俺たちはメルリアさんの後ろについて行き、しばらくして応接室に辿り着いた。
「それでは私は仕事が残っていますので何かあればそちらのベルを鳴らしてください。ベルを鳴らしていただければメイドが来ますのでその者に用件お申し付けください。では後程」
俺たちを応接室まで案内したメルリアさんはそう言ってお辞儀をした後、足早に部屋を出て行った。
応接室の外では何人もの人が忙しなく行きかっていたが中にいた俺たちは朝早くから動いたせいか疲れがでて、姫姉と少女はソファで凭れかかりあい、俺と田中さんは机に突っ伏してだらけていた。
机に突っ伏したまま頭だけ動かし透視で外の様子を覗き見ていると、メルリアさんが第四師団団長を連行しているようだった。
俺は第四師団団長が今度はどんな牢屋に入れられるか気になったので覗きを続けているとメルリアさんはどんどん城の下に向かって移動していった。そして最終的に地下の明らかに衛生的でない汚い牢屋に到着し、そこに第四師団団長を入れ三重に錠をかけ、その鍵の一つをメルリアさんが他の二つをついて来ていた女性の兵士二人にそれぞれ一つ渡していた。
なるほどこれで今度は三人が持っている鍵が揃うか扉を壊さない限り牢屋を開ける事が出来ないか、よく考えられている。これならまた逃げ出したりする心配はしなくても良いかな。
俺はそう人心地ついた後牢屋から視線を外し、他に何かないかと頭だけ動かして城の中を見て回った。そんな覗き行為をしていると誰かが扉をノックして声を掛けてきた。
「失礼します、皆さま居られますでしょうか?」
俺はすぐさま視線を扉の向こうに合わせて誰か確認するとそこにはメルリアさんが立っていた。数分前に地下にいたはずのメルリアさんがもうここまで来ていることに俺は素直に驚いていて返事が遅れた。
すると声だけで判断したのか姫姉がソファから扉の前まで移動して「います」と返事をしながら扉を開けた。
「第四師団団長の投獄が完了いたしましたのでその報告に伺いました」
「そうですか、でもそれならたぶん優君が知っていると思いますよ」
姫姉はメルリアさんの聞いたあと、俺の方をチラッと見ながらメルリアさんにそう言った。
「そうなんですか?」
メルリアさんはそう言いながら俺の方を見て来た。俺は机に突っ伏したままどう言い訳しようか考えていると姫姉が話し始めてしまい出遅れた。
「ええ、たぶん覗いていたはずですし。メルリアさん、連行中にどこからか視線を感じませんでしたか?」
「そう言われればどこかからか見られていた気配はありましたが、ですがユーマ様はこの部屋から……そう言えばユーマ様は索敵系のスキルがあるんでしたね」
姫姉に言われメルリアさんは最初それを受け入れたが不自然な事に気付き考えるそぶりを見せたが、その後何か思い出したかのようにそう言った。
「索敵って言いうか、優君のはただの覗きスキルですよ」
これ以上黙ったままでいると姫姉に余計な事まで言われそうだったので俺は二人の会話に割り込むことにした。
「あはは心外だな、覗きスキルなんかじゃないよ姫姉」
「へぇじゃあスキル名言ってあげようか」
「すいませんそれだけは勘弁してください」
姫姉にスキル名を言われそうになり俺はすぐさま頭を下げた。
「仕方ないなぁ、でも覗きはほどほどにした方が良いよ優君」
ニヤニヤとした姫姉に言われ、俺はそれに「はい」と言って頷くしかできなかった。
そんな俺たちの会話が終わったのを見計らってメルリアさんが話しかけてきた。
「それでユーマ様、第四師団団長の件についてですが」
「はい、見てました。メルリアさんが鍵を三分割にしていることも知ってます」
メルリアさんに全て言われる前に自分からどこまで覗き見ていたか隠さずに話した。
「報告しようとしていたことは既にご存知でしたか。それでは私の用は済みましたので、これで失礼します。夕食の時間になりましたら呼びに来ますのでそれまでこちらでお寛ぎください」
メルリアさんはそう言ってお辞儀をしてから応接室を出て行き、残された俺たちは夕食の時間がやってくるまでそれぞれ時間を潰した。




