新たな囚人さんが来るそうです
「そういえば、新しい囚人さんが来るらしいですよ」
看守さんがつぶやいたのは暑い夏の日のことでした。
とはいっても、石でできた牢獄は涼しく、扇風機があれば十分です。ちなみに、アマゾソ商品は電力を必要としないようです。
「そうですか。でも、近くの牢獄には入らないんでしょう?」
僕以外の囚人は、実際には呪術を使えるわけじゃありませんから、離れの牢獄には来ないのです。
「いえ、今回は本当の呪術師さんらしいですよ。何でも悪魔を召喚したとか」
「へえ、それはすごいですね」
本当に悪魔を召喚したりなんてできるんですね。異世界ってすごいです。
「ええ、なかなか召喚ができる人はいないみたいですよ」
看守さんは少し緊張気味です。
僕も少しそれにつられていました。
「そうですか」
「なんでも、その悪魔も恐ろしい顔つきをしているとか」
看守さんは、槍を持つ手を震わせています。
急に、石造特有の冷風に体温が下がり始め、へその下がキューっと押されるような感覚がします。
「……そうなんですか」
「多くの人を混乱の渦に陥れたそうです」
背中を何かが這うような感覚に襲われます。
風を送り出す扇風機の電源を止め、両腕で体を抱きしめます。
看守さんも顔がだいぶ青くなっています。
コツコツと石を踏む音が響いてきます。
「……囚人さん、来たみたいですね」
「……ええ」
音の響く方向から、目を離したのに離すことができません。
次第に音が大きくなります。かすかな空気の動きがほおをなでます。
僕と看守さんは沈黙の中にいます。
「「……」」
それを破ったのは、あまりにも場違いな音でした。
『ゲコッ』
「え?」
看守さんは悲鳴を上げていますが、僕は何ともリアクションをとれません。
「ふふふふふ、どうやらここが私の新たな住処のようだな」
小さなカエルに続いて出てきたのは、この暑い中無駄な厚着をした男でした。
縮れた白髪は肩までのび、マントと手袋をつけています。
熱くないのかと思ったら、わきから染み出る汗が、服を変色させていました。
「どうしますか、囚人さん。とても恐ろしそうな人が入ってきましたよ」
看守さんが、僕にだけ聞こえるように小声で言ってきます。
彼女は、口元をわなわなと震わせ、目に涙を浮かべています。
「ふっ、まあそうびくびくするな。私は呪術師だが人類に害をなすつもりはない。ただ、英知の探求に興じているだけさ」
……どうやら、中二病の方のようです。
「どうしましょう、殺されちゃいますかね」
看守さんは、相変わらず怖がっています。
「それでは、新たな住処に足を踏み入れるとするか。ついてこい、わが相棒」
『ゲコッ』
カエルは鳴いた後、跳躍するとどこかへ逃げて行ってしまいました。