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看守さんとの初対面

 さて、独房にぶち込まれてから一週間がたちました。牢屋に入る前、身体検査をされ、スマホは取り上げられてしまいました。ですが、僕のスマホには鳥並みの帰巣本能があるようです。気づけばポケットに入っていました。ご都合主義というやつですね。ついでに言えば電池もなくなりません。アンチエネルギー保存です。


 とまあ、そんなわけで、楽しい監獄ライフを送ってきましたが、どうも最近寂しさを覚え始めています。試しに、看守さんに話しかけても反応はなく(この人も不能なのでしょうか)、気づけば有名動画サイトでバラエティ番組を見ています。


 他の囚人さんは、実際には呪術が使えませんから自由に交流をはかれるようですが、スマホから服一式を召喚してしまった私は、いくら無害だからといっても自由にはさせてくれません。生活音が聞こえないので、近くに他の囚人さんはいないみたいですし。完全に僕だけ扱いが違いますね。それだけ呪術師が恐れられているのでしょう。


 ですが、今私には一つの希望があります。今日から、看守が変わるそうなのです。何でも、今の看守はなんでも覚醒したらしく、引っ越すそうです。ちなみに引っ越し先は日本で言うところの新宿2丁目のような場所らしいです。


 そういうわけで、昨日は早めに高級マットレスで眠りにつき、目覚まし時計をかけて早起きし、現在新たな看守が来ることを楽しみにしています。ん? そんな豪華なものはどうしたのかだって? もちろんアマゾソで頼みましたよ。送料だけじゃなく、本体価格も無料なんです。ダメ人間になりそうです。


 コツコツコツと石の上を歩く音が響いてきます。おそらく、新たな看守さんがやってきたようです。え? タイミングが良すぎるって? そういうものなんです。


 新しい看守は、女性のようです。髪は短く、切れ長の目をしているうえに、鎧で胸がつぶされている(ただ貧乳なのかもしれません)ので、とても中性的な印象を受けます。


「……新しい看守さんは女性なんですね」


 早速話しかけてみます。反応をしてくれるのか心を躍らせながら尋ねてみたところ、返ってきたのは素っ頓狂な声でした。


「ふぇ!?」


 目を丸くして、口をぽかんと開けています。鳩が豆鉄砲を食ったような顔です。そんなものみたことはありませんが。


「どうかしましたか?」


 看守さんに声をかけてみます。ですが、看守さんは口をわなわなと震わせていて何も答えてくれません。次第にこの世の終わりというように顔が真っ青になっていきます。


「なっ、なんで、私が女性だなんてわかったんですか!?」


 どうやら男のふりをしていたみたいです。よく今までばれてこなかったもんです。こんなかわいい少年がいたら、男でも手を出したくなるものですのに。


「いや……見たらわかりますって」


「エ……」


 そういうと、看守さんは完全に固まってしまいました。これは大変です。このまま関係が悪化してしまっては、また孤独なネット生活に戻ってしまいます。


「あの……大丈夫ですか?」


 何とか励まそうと声をかけますが、うまくいきませんでした。


「うぅぅぅぅぅ……」


 看守さんが、その場にへたり込んで鳴き始めてしまったのです。間違えました。泣き始めてしまったのです。


「うぅっ、女であることがばれてしまってはもうここでは働けません。ですが、実家には腹をすかせた兄弟と飲んだくれの両親がいるのに……」


 おっと、とんだご両親のようです。そう思うと看守さんが不憫に感じられてなりません。


「それじゃあ、看守さんが女性であることは黙っているので代わりに僕の言うことを聞いてくれませんか?」


 そう提案してみました。我ながらいい提案だと思ったのですが、看守さんは僕をにらんできます。


「……いうことを聞かなきゃダメですか?」


 看守さんは、胸元を手で隠しながら尋ねてきます。


「ぜひ、お願いしたいと思っております」


 丁寧に答えてみました。


 すると、看守さんは一瞬逡巡したのちおもむろに立ち上がりました。


「それじゃあ……」


 僕が要求を言おうとしたとたん、看守さんが奇怪な行動に出ました。牢獄の扉を開けて入ってきたのです。


「エ……」


 状況がつかめず唖然としてしまいます。


 看守さんの頬は、さっきの青が嘘のように真っ赤に上気し、少し息が乱れています。


「看守さ……」


 言葉を奪われました。


 おもむろに、鎧と衣服を脱ぎ始めました。


 鎧が外れ現れたのは、形の良い双丘、ではなく悲しくなるのどの絶壁。それは、上着を脱ぎ下着姿になっても変わらなかったです。けど、すらっとした肢体は作り物のかと思うほど精緻で、くびれもその名に恥じずくびれてます。


 看守さんが、下着に手をかけます。そこでやっと、事態を飲み込めました。


「看守さん、別にエロいお願いをするつもりはなかったんですけど……」


 僕はそう言って、看守さんの腕を止めさせます。

 

 すると、看守さんの顔はさらに赤みを増していき耳まで真っ赤になってしまいました。


「……ええ、そ、そんなことはわかってます。ただ熱いから脱ごうとしただけです」


 看守さんはない胸をそらして言いますが、あまりにも厳しい嘘です。あえて触れずにおいてあげましょう。


「じゃあ、そういうことでいいです」


「そ、それより、要求はなんなんですか」


 看守さんは、クールな見た目ですがどうやら内面はそうでもないようです。顔の赤みが引いても、まだ、ろれつが回ってません。


「ただ、一緒に話したり、遊んだり仲良くしてもらえれば十分です」


 僕がそういうと、看守さんの顔は再び真っ赤になってしまいました。ですが、その表情はどこか喜びをはらんでいたように見えました。

 











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