4章‐1話
‐カトナスから少し離れた場所にある砦‐
「うっわ、何だよここ。廃墟じゃねぇか」
タン!と馬から降りたルッツがぽつりと呟く。
まさにその通りだ。
壁にはツタがからまり草なども荒れ野のようになっている。
「元はここは伯爵の持っている土地の城らしいのですが今はもう放置されているらしいですわ」
「放置ねぇ…」
「貴族には多いみたいよ。持っていても放置している土地が多いって」
私がそういうとマリアは小さくため息をつく。
「本当に困ったものですわ。これから気をつけてもらわなければ」
マリアにも思い当たる節があるようだ。…大変だな王族っていうのは。
しかしすぐにマリアはかぶりを振って「いけませんわ」という。
「今は任務に集中しなくてわ。ガイ!ルッツ!リオ!ここは二手に分かれませんこと?」
「二手?別にいいけど…危なくない?」
私がそう言うとガイはニヤッと笑いルッツの肩に腕をのせる。
「ルッツ、お前リオと行けよ」
「はぁ!?」
言ったのはルッツじゃない。…私だ。
いや、つい口から言葉が出てしまって。……言っちゃった。
「っ…や、これはたいしたイミじゃなくて、えっと、何というかっ……っっ…ガイのバカ!!」
こんなにぐらぐら揺れている状態で自分でも何を言うかわかったもんじゃない。
ぱしっとマリアの手を取って私は走り出してた。自分でも無意識のうちに、だ。
「っおい、リオ!?マリア!?」
「っ!!!リオ!!」
あぁ、もう、呼ばないでよ。熱い。
心が、ぐらりと、揺れる。それこそ、滑稽なほどに。
「っはぁ、はぁ、はぁ…っっっ……」
「リ、オっ、あなた…っ、いったい、どうしましたの…っ?」
息も切れ切れにマリアが私に訪ねてくる。
そんなこと訊かないでよ。私にもわからないんだから。
自分でも、この感情が何なのかわからなくて、酷く、混乱する。
「わ、わからない。…ごめん、連れてきて」
頭を冷静に冷やす。
…とりあえず、忘れよう。
悪いコトは胸の奥にしまって、カギをかけてしまうのが一番だ。
「あなたらしくありませんわね。…まぁいいですわ。分かれてしまいましたけど、魔物を探しましょう」
「うん、わかった」
マリアが追求しないのは嬉しかったけど、後でルッツと、どう顔を合わせたらいいのか分からなくて少し困る。
でも、今はそれはおいておこう。
辺りは明かりがないせいか薄暗く、地面も土が入っている。そのせいか少し土の匂いがする。
「リオ、魔物の気配、わかりまして?」
「あんまりね。マリアは?」
「私もあまり…明かりをつけましょうか?」
マリアが言いながら魔導書をパラパラとめくる。
「お願い」
「わかりましたわ。――――――――――――――――フラッシュ!!」
マリアの魔導書のページがカッと光り、マリアの足元に魔法陣が浮かび上がったかと思うと一瞬で辺りが明るくなる。
「っ…。!…っと!!」
明かりがついた瞬間隠れていたのか魔物が一体現れ私に襲いかかるが、すばやく刀を抜き魔物に突き立てる。
よくよく見ればここは広い大広間らしくガサリと魔物どもが現れる。
私は刀の柄を握り、マリアは背中の弓を持ち、弓に矢をつがえる。
「後ろ、頼みましてよ?」
「そっちこそ。…お互い無事で」
一言交わし合うと私とマリアは同時に攻撃を開始した。
「…っっはぁぁぁぁ!!」
魔物の体を刀で突きたて、斬り刻む。
一体一体的確に急所を狙い打つ。
「逃がしませんことよ!!」
マリアも矢を放ち魔物の急所を突いていく。
「っっ!!マリア!!」
数体の魔物が一斉にマリアへと襲いかかろうとするがマリアは魔導書を手に持ち詠唱する。
「雷鳴よ、降り注げ…!ライトニング!!」
マリアの足元に魔法陣が浮かび上がり空から雷鳴と共に雷が落ちる。
が、その雷は私までもを一緒に吹き飛ばす。
「きゃぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
「っ!?リオ!?」
しまったというマリアの声が聞こえるが私にはどうすることもできず、最後の抵抗とばかりに受身の姿勢をとる。
が、雷は砦の床までもを一緒に貫いた。足が動かなくなる。
「な…っ!!」
「リオ!!!!」
この城、地下まであったの!?と思うが、そんなことよりも足場がなくては、と思うが私の体は下へと落ちていくばかりだった――――――――――――――…。
ガンッッ
「っ!!!!った……痛たたた…」
トン、と私は地面に膝をつく。
マリアの雷で結構な高さから落ちて、それに加えて爆風で飛ばされて体のあちこちが痛い。
骨は…折れては、ない?…軽くひねった?
立とうとするが左足が痛い。…落ちてきた時か……。
「っ…と」
ゆっくり近くにある壁に手をつけながら立とうとすると正面から一緒に落ちてきたのか魔物の姿があった。
「っ!?うそ、魔物!?」
カチリと刀を抜こうとするが手に柄の感触がないことに気付く。軽く辺りを見回すと、少し離れたところに、私の刀が、あった。
「刀が……!!」
ギャャャァァァァ!!!
魔物が私に向かってくる。
私はチッと舌を打ち霊符を取り出そうと腰についているポーチに手を伸ばそうとした、その瞬間。
魔物の体から、血と体液が、飛び散った。
魔物の体が大きな剣で貫かれている。
「……あ…な、た」
自分でもはっきりわかるくらいに声が震えている。
ズルリとソルジャーが引き抜かれ、魔物が倒れ、消滅する。
その先にいたのは黒髪をもち、黒衣を着た、大剣<ソルジャー>をもつ男、死神のディオが、そこにいた。
「……」
「………」
ピリ、と空気が張り詰める。じり、とディオが私の刀がある方へ近づく。
「っ!!」
カシャン。
ディオが地面から刀を持ち上げる。
そしてそのまま私へと軽く刀を放った。
「っ…」
「大事なものだろう。…ケガ、ないか?」
ぱしりと刀の柄をつかみキャッチする。もちろん刀先はディオに向ける。
だがこんな言葉を言われたちゃあ殺意も何もなくなる。
そのままゆっくり私は刀先を下におろす。
「だ、大丈夫、です。……あなた、ディオ?」
死神の、と小さく付け足すとディオは少しだけ、ほんの少しだけ悲しそうな顔をしたような気がした。
「…あぁ。……」
「…あなた、いつから|ここ<シュトレー国>にいる?」
もしかして、なんて期待する自分がどこかにいて。…もう、きっと、死んでいるのに。
「…やっぱりな」
ぽつりとディオが呟く。何が、やっぱりなんだろう。
どういうコト?と訊こうとするとキン!と地面に短剣が刺さる。
「っ!!」
「リオ!!」
タァン!!と音をたて、舞い降りる。
鳥の仮面をかぶった少年が。
「クロウ!?どうして…」
「説明は後だ!」
クロウはそう言いギッとディオを睨みつける。
――――――――――――クロウ。
エクソシスト本部専属の情報屋の少年。クロウというんは情報屋での名前らしい。
本名はたしかシンク・ウェイドだった気がする。
いつもクロウと呼んでいるから忘れそうになる。…でもクロウがどうしてここに…?
「…迎えがきたようだな。―――――…じゃぁな」
「ってめ…まて!!」
さらに下の階へと飛び降りたディオを追いかけようとするクロウを私がとっさに呼び止める。
「クロウっ、まって…っ!!深追いしないほうがいいわ…」
「リオ…。チッ、わかったよ。歩けるか?」
不承不承といった様子で舌打ちをしながらも心配をしてくれる。
「うん、大丈夫。…っ!」
ズキリと足に痛みが走り、苦痛で顔を歪める。
「歩けねぇか。・・・マリアを呼んでくる。待っとけよ」
「その必要はありませんわ!」
凛と響くよく知った声。マリアだ。その後ろにガイとルッツもいる。
「マリア…それにルッツ、ガイも…」
「遅くなってすみません、リオ」
「ううん。無事でよかった、マリア」
へたりと足の力がなくなり地面に膝をつく。
「リオ、大丈夫か?」
「うん。…逃げてごめんね>?」
小さくそう言うとルッツは苦笑しながら
「別にいいって」
と笑う。…よかった、と思う自分がどこかにいて。…嬉しい、と思う。
「そういえば、クロウ。どうしてココにいるの?」
私がいうとクロウは「あぁ」といい
「任務の後、通りかかったら砦に雷が落ちたんで見に来たってワケ。あとは…殺気?」
「殺気…って、…ディオの?」
「そ。まぁ…すぐ消えたけどな」
と話し終えるとマリアに視線を向ける。
「わかっていますわ。…癒しの風よ、ヒール!」
ぽう、と左足の周りが明るくなる。
「どうですの?」
「うん、大丈夫みたい。もう痛くないし。ありがとう」
「いえ、よかったですわ」
立てるか?とクロウの手が出され、それにつかまる。
「っ…と」
「さーてと、戻ろうぜ任務終わったんだろ?」
気怠そうにいったのはガイだ。
「あ、うん。って…え、終わったの!?」
「終わったぜ?大体、マリアの雷で」
あぁ…なるほどね。と納得してみせるとクロウが口を開く。
「じゃ、俺先帰るわ。じゃーな」
といい、タン!と下に降りる。
ディオが先に下に降りたんだからどこかにぬける地下通路があるのかもしれない。
「さてと、俺たちもカトナスに戻るか。どうせ、泊まってくんだろ?」
ジッと煙草に火をつけ紫煙を上げる。
紫煙を見ながら私はいう。
「そうだね。戻ろっか」