3章‐3話
「……っというわけですの。…聞いていますの!?ガイ!!」
「あー…だりぃ……。姫様少しは落ち着けや」
「ガイ!!…あなたという人は、まったく…。いいですこと?カトナスではあなたたちは私の護衛として振舞うのです。もちろんそこでのルーナ伯爵との面談の時も気をつけていただきますわ。…わかりまして?」
先ほど説明したことをもう一度ガイに説明するマリアにガイは渋々といった風に
「わかりましたよ」
と言う。
「それから、私のことは伯爵がいない時はマリアと呼び捨てるよう言ったはずですわ!!」
何度言えばわかりますの!?とマリアが怒気をあらわにする。
「マリア、もういいでしょ?ガイも挑発しない。…まったく」
はぁ、と私がため息をついてしまう。ルッツはあれから黙っている。…それもそうか。
「ふぅ」
小さく、息を吐く。本当にこのメンバーで大丈夫なのかと一瞬思ったことは秘密にしておこう。
これから私たちは任務の依頼でこの今から行く王都シュトレーから少し離れたところにある街、カトナスにルーナ伯爵直々の依頼で行く。
直々といっても、マリアがいるからこそかもしれないけれど。
「見えてきたぜ」
「っ……」
ルッツの言葉に私はルッツの指す方向をみる。
見た感じは王都より小さめ(王都と比べるのもアレだけど)の街らしい。
「このカトナスはシュトレー国で一番の図書館があるのですわ。私は魔道書もそこから取り寄せていますのよ」
「書物ねぇ」
ぽつりとガイがつぶやいているが特に何も言わなかったので私も気にもとめなかった。
「さて…まいりましょう」
凛とした空気をまとわせマリアが姫として私の少し前を馬を歩かせる。
「門を開けてくださいませ。私はマリア・L・S・ライザス。王都シュトレーから父上の名代としてまいりました。そしてこの者たち、リュデインの者は私の友ですわ。通して頂けませんか」
そんなに大きな声ではないが凛と良く通る声でマリアが門番に言うと門番は「はッ!伯爵から承っております。どうぞ」
と胸に手を当てる。……シュトレー国の兵であることを証明するポーズだ。
「ありがとう。…行きますわよ」
ふっ、と一瞬だがマリアが私とルッツとガイに視線を向ける。進んでもいいらしい。
「姫様、馬は我々が馬小屋に連れて行きますので、伯爵のところへ」
「わかりました。…行きましょう、リュデイン」
あぁ、そうだ説明し忘れてた。
リュデインというのは今私たちが使っているウィスカル語よりも少し古い文明の古代ウィスカル語で戦う者たちという意味だ。
今私たちをリュデインと呼ぶ者はもはや王族や貴族などだけだ。
今はみんな『エクソシスト』って呼んでいる。
「…うわぁ…すごい」
門から街の中に入ると街はとても大きく美しかった。
奥の方に大きな建物が見えるが多分あれがこの国一番の図書館、大図書館なのだろう。
「…はぁ……。疲れましたわ」
息を吐き出しながらマリアがいい、羽織っている外套のフードをかぶる。
「本当に姫なんだな。マリア」
言ったのはガイだ。ガイが言うとマリアは少し強めの声で
「どういうコトですの?それ。私だって本当はあまりこんなことしたくありませんのよ?」
仕方がない、ということだろう。
少し考え事をしているとルッツが私に声をかけてくる。
「リオ、それ、はずさねぇの?」
「…これ?」
といい私は被っている外套のフードをさわる。
「うん。目立つからね。この髪色は」
「そうか。…外せば?今日ぐれぇよ」
ガイが口をはさみ、ばさりと私の外套のフードを取る。
「っあ…ちょっと、何して‥」
「いいじゃありませんこと?今日くらい、よいのではなくって?」
マリアまでもがそういうので渋々私はそのままにしておく。風にさらりと髪がなびく。
「…今日だけだからね」
小さく、自分に言い聞かせるように私は呟いた―――――――――――――――――――――…。
‐ルーナ伯爵家城‐
「……まだか?」
「まだよ。我慢して」
小声でぼそりとガイと会話をしているとガチャリと扉が開く。
「姫様、リュデインの方々ようこそ、カトナスへ。私はここの城主、ルーナ・フォン・アベルと申します」
伯爵がそう言うとマリアが立ち上がり
「国恩の名代として参りました。マリア・L・S・ライザスと申します。お初にお目にかかりますわ。ルーナ伯爵」
「…そちらは?」
伯爵が私たちの方を見た後、私に目を向ける。
「少女…ですか」
「お初にお目にかかります。伯爵。リュデインの如月 莉央と申します。この者たちはルッツ・アーディス、」
「ガイ・デュオールと申します。姫様の護衛として道中お供させていただきました」
私の言葉に続けてガイが口を開く。…それより今初めてガイの本名知ったんだけど……。
ていうか……いつもと口調が違いすぎる…。
「伯爵、今回の依頼とは、どのような?」
マリアがいい伯爵から椅子に座るよう、促されるので私たちも椅子に座る。
「実は少し前からこの近くに魔物がいまして…。それと、『死神のディオ』…ご存知ですか?」
死神のディオ。今王都を騒がしている殺し屋だ。
殺し屋と言ってもどれも噂ばかりでたいしてアテになる情報は少ない。そのために姿を知る者は誰もいない。
本部にあるブラックリストにもディオは載っていない。
「ディオが…どうかしまして?」
「いや、ここ最近その人のような者を見かけたと、住人が。黒い髪に黒い服で大きな剣を持っていたとか。…君より黒い髪だ。」
といい伯爵は私の髪をみる。
私の髪より黒いってコトはそいつも東洋の方から来たのかもしれない。
「そうですか。わかりました。それでは私たちはこれで」
「姫様?何を…」
伯爵が不思議そうに私たちとマリアをみる。
マリアは少しいたずら気に微笑んでいった。
「お父様には、内緒にしてくださいませね。伯爵」
マリアの微笑みに言うことも言えなくなったのか伯爵は黙り込む。
「大丈夫です。姫様の御身は私たちリュデインがお護りいたします」
私が伯爵に言うと伯爵は少し考え込んだが私と視線を合わせる。
「姫様にご無礼のないよにな。…お気をつけて」
胸に手をあて頭を下げる。
本当にこの国の人達は自国を大切にしているんだとよくわかる。
……羨ましい気がする。
もう一度あの頃に戻りたかった。…そんな願いはもう、叶わないけれど。