1章
今から10年前、この世界にどこからともなく大量の魔物が突如発生した。そして多くの人々が魔物の被害に遭い亡くなった。…私の母と父もだ。
それを見かねた国々が各地に魔物を討伐するために、ある団体を作った。
―――――――――――――――それが、今私が生活している組織、エクソシストだ。
私は帰って報告をするべく王都シュトレーにある私の住んでいるところでもあるエクソシスト本部に向かっていた。歩き慣れてきた道を歩いていると後ろから馴染んだ声をかけられる。
「リオ!」
足を止め振り返る。ちなみにさっきのは私の名前。本名は如月 莉央という。13年前に東洋の国からここ、王都シュトレーに来た。
「ルッツ!」
目の前には赤い髪の少年。私の同僚にして、大切な仲間でもある。本名はルッツ・アーディス。
「仕事終わったのか?」
「うん、今から帰るトコ。ルッツも?」
止めた足を進めながら私はルッツに問いかける。
「おう、俺も終わったトコ。帰って報告書、書かねぇとな‥」
ルッツが苦々しく言うと私はそういえば、と言葉を続ける。
「ミントから伝言。昨日の報告書出してないでしょ?」
「あ゛っ‥やっべ‥忘れてた」
帰って報告書2枚かよ。とボソリとつぶやくルッツに私は苦笑しながら
「ミントに出しときなよ?…それより、明日もがんばろうね、ルッツ」
と言い、帰ろっ!と本部に戻るため、歩速を速めた。
私がこうして笑っていられるのも、生活できているのも、あるイミ、ルッツのおかげだ。
今から3週間前、私が初めてエクソシスト本部に入った時のことだ。
3週間前―――――――――――――――――――――
「はっ、はぁっ…はぁっっぅあっ!!」
息を切らしながら走るが途中にあった木の根に躓き、無様に転ぶ。
後ろには私の身長より大きい魔物。
早く逃げなきゃ…!と思うが根に足を絡め取られたように動かない。
腰にある父の形見の刀はなるべく使いたくない。使おうにも手が、震える。
やっと足が自由になったと思うと、被っている外套のフードから見えたのは魔物の影。
「っ!!!」
ザッと地面に手をつき、魔物から距離を取ろうと足を動かすが魔物の鋭い爪が外套に一本の傷をつくる。
「……っっ…!!」
やだ。ここで死ねない。ここで死んだら、母と父があの時、逃がしてくれた命の、意味がない。
腰にある刀に手を伸ばそうとした、その時。
「っでやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
青白く光る剣が魔物を斬り倒す。魔物の血と体液と思われるものには目をそらした。
「大丈夫か?」
少し上からの声。見上げると赤い髪の少年。歳は私と同じくらい。少年には不釣り合いな、剣。
離そうとした刀の柄を握り締め一言。
「誰」
「…助けてやったのに礼の一つもなしか?」
そう言いながらそいつは私に手を出す。…つかまれ、ということらしい。
私は素直にその手を借り、立ち上がる。
「助けてくれてありがとう。」
それじゃあ、と私はその場を立ち去ろうとするが少年はぱしりと私の腕をつかむ。
「…何?」
私が尋ねると少年は
「何って‥ケガ、してんだろ?手当てしねぇと、ひどくなるぞ」
と言い、私の腕を引く。手当てくらい自分でできる。…どうしてこいつはこんなに、赤の他人なのに…。
……優しいんだろう。
「……。」
黙っていると少年がしびれを切らしたのか一言だけ言い私の手を引いた。
「こいって!!」
「っ!!ぅ…わ‥っ!!」
その反動で被っていた外套のフードが外れ、亡くなった母ゆずりの茶色の少し混じった黒髪が流れる。
「お前、その髪…」
「っ!!」
外れた外套のフードを慌てて元に戻すが少年はまだ驚いている。
「……どうせ、珍しい、って言うんでしょ?」
生まれつきのこの髪はこの国では珍しいらしく、目立つ。私はあんまり目立つことが好きじゃない。
少年は黙っていたが、口を開き、言った。
「綺麗だな」
「っ!?な……っっ!!!!」
いきなり放たれた言葉に少し戸惑う。でも、綺麗だなんて、初めて言われた気がする。
「……ありがと」
ボソリと小声で呟くと少年は明るく笑った。
「俺の名前はルッツ。ルッツ・アーディスだ。お前は?」
「…莉央。如月 莉央。…ありがとう。‥ルッツ」
と私はルッツに改めてお礼を言った。…どうも、こいつにはかなわないような気がした。
――――――――――――――――――――――――これが私が初めてルッツと出会った、3週間前の、出来事だ。