第9話
再びのビクトル視点です。
「ねえ。リク、ほんとにいいの?」
今日はエスターニャ公国からの使者を歓迎するための園遊会が開かれ、宰相である僕も王に付き添う形で出席している。
「ああ。・・しつこいぞ。」
「じゃあなんでそんなにイライラしてるの?」
「してない。」
「・・まっ、自業自得か。」
僕が何度も同じ質問をリクにする。そしてリクがイライラしている。この2つの原因は共通している。
「自分の奥さんを母国で恋人疑惑のあった男と2人きりにするなんて・・、融通きかせ過ぎっていうか、素直じゃないっていうか・・」
「黙れ。それにあくまでも『疑惑』だ。調査で2人が恋人ではなかったことははっきりしている。」
「これだからリクは、大切なのはこ、こ、ろ。そうでしょ?どんなに優秀な諜報員だって王妃様やアルフレッド殿下の心の内までは暴けないんだよ。ずぅっと両片思いだった。とかなきにしもあらずじゃん。」
「・・お前は俺に何をさせたい?」
おっ、鋭い。いけない、いけない。僕がイライラしちゃってた。
でも、やっぱり僕はずっと側で見て来たリクの味方をしたくなるんだよなぁ、リクがあんまりにも素直じゃないから、それから大切な人との接し方を知らないから、見てるこっちはイライラするんだよ。
「王妃は賢く、品位ある女だ。一時の感情で不義をやらかすなどありえない。だとしたら俺の前で堅苦しく社交辞令を続けさせるより、実のある話をさせてやりたかった。それだけだ。」
「余裕だね。かっこい〜。」
何気なく返した僕の言葉にリクは小さく呟くように
「・・余裕なんかないさ。」
と言った。ちょっと笑いそうになったけど、聞こえなかった振りをした。だって今リクは初めて自分の本当の気持ちを外に出せたんだ。からかったりしたら今後一切本心を見せてくれなくなっちゃうだろうし、リクにもボソッと本音を漏らせる相手がいなくなっちゃうからね、これでもリクはリクなりに素直になろうとしてるみたい。
「まぁ、悪くないよね。」
「なに?」
「なんでもない。」
だけど、リクの意外な成長を垣間見たその瞬間、この会に参加していた役人の集団からなんとも言えない下品な会話が聞こえて来た。
「・・ただ王妃も身の程をわきまえてもらいたものよな。この国にこられたのは実質的には人質のようなものだろう?」
「ユリアスも正妃の娘を嫁がせてくるなんてそれほど我が国が恐ろしいか、よっぽどの悪女かに違いない。」
「確かにな。」
エスターニャの使節を歓迎する会とは思えない。それに王と宰相に聞かれていると気づかないなんて馬鹿丸出しじゃないか。
「リク、キレないでよ。」
「心配は無用だ。そういう見解があることくらい知っている。」
そうだよね。実際第2皇女といえども正妃の娘で、ある意味第一皇女より地位も高かったティーナ様を手に入れるのは相当大変だったし、あの役人が言ったような側面が無いわけじゃないからね。
ただ、なんだかんだ言ってリクは今相当機嫌悪いんだから余計な事言って怒らせたりしないでね。
って思った側から
「あの王妃と来たら後宮で遊び暮らしているらしい。」
「噂では頼れる物もおらず、王様もお渡りになることもほとんどないので部屋から出ずに過ごされて、男を呼ぶ事もあるとか。」
「私が聞いた話では傍若無人にふるまわれておるとか。」
「まあ、そういう噂が立つような人物ということじゃないか、私の娘の方がよほど王妃にふさわしいわ。」
「そりゃそうでしょう。礼儀も知らず、生まれ持った地位で傍若無人に振る舞う寂しい女なんて、王様も理不尽なことですわ。」
あちゃー。これはアウトでしょう〜。これ完全に特定された『王妃ティーナ様本人』の悪口だもんね。
あわてて隣をみると能面のような感情の無い顔をしたリクが役人達に歩み寄って行く所だった。・・この顔は、ヤバい。
「随分と盛り上がっているな?なんの話だ?」
「おっ、王様。」
「ほっ、本日はこのような素晴らしい園遊会にお招き頂き、恐悦至極に存じます。」
「なに。今日の招待客の選考は王妃が行った。礼は王妃に伝えておこう。・・で、誰が『生まれ持った地位で傍若無人に振る舞う寂しい女』だって?」
「いえ、その・・・」
そりゃこの人のこの顔を前にしてさっきのような事は言えないよね。
「王妃の振る舞いの噂が随分と派手に一人歩きしているようだな。」
「は、はあ」
「お前達は政務省の役人だろう?ここは何の場だ?答えよ。」
「エスターニャ公国からの使者を歓迎する会でございます。」
「50点だ。天下の政務省の人間が、この程度とは、」
「・・へ?」
「いいか?正確に言えばこの場は両国で仲良くしながら腹を探り合って、少しでも自国に利益ある情報を手に入れたら交渉を有利に進めてやろ、という場だ。今回に限らずどんな時も他国の人間がいる時に身内の悪い噂を出すなんてもっての他。この国の政務の一端を担っているという自負が少しでもあるのなら飛び回って少しでも情報を集めろ。そんな事もできないのか?・・それから、どうやらいつの間にか政務省の役人は王の正妻であり、すべての国民の象徴であり、母である王妃を独断と偏見で愚弄出来る程偉くなっていたらしい。これは規律を正さねばなぁ。」
「もっ、申し訳ございませんでしたっ」
わーお、いい大人が揃いも揃って100度くらい頭下げちゃって。
「散れ。」
それを見て、その害虫を見るような目とおっそろしい低さの声でそんな事言うのも見物だね。もちろん役人達はものすごい速さで散って行ったけど。それにしても大好きな王妃様を侮辱された割には優しいじゃん。
「以外と優しいね。」
「・・俺は自分の国の人間には直接的なダメージを与えるのを控えている。その代わり、今後20年は政務省の規律を徹底的に正す。・・やめたいと思う程になぁ。そんな中こんなに厳しくなったのはあいつらのせいだと知れたら・・」
「・・もうお腹いっぱいだからその辺でストップ。」
やっぱり黒いこと考えてた〜、一回の悪口で20年は大きいよ・・
僕の仕事はそのイライラが変な方向に行かないようにすることなんだよね、大変だな〜、責任重大だし。
僕の重荷を減らすためにも、お二人には仲良くしていただきたいものです・・真面目に。




