第5話
王が最後に私の私室を訪れてから1ヶ月。レイアの私室に通っていると聞いてから1ヶ月。気にならないと言ったら嘘になるが、その程度のことで日常生活に支障はない。予想していた事だし、むしろ望ましい展開だ。さあ、後継者を!
でも、そんな風に考える事がもう既に気にしている。という事なのかもしれない。
「王妃様。内装が仕上がったそうです。」
「じゃあ行ってみましょうか?」
「はい。」
これでようやく一段落出来るかしら。久しぶりに後宮を出て、心なしか足取りが速まった。城内である事は変わりないというのに、『遠足気分』という奴だ。遠足なんか行った事無いけど。それほど後宮という場所は狭く、あらゆる事に縛られる。
「さあ、どうなったのかしらね。」
「楽しみです!」
今回初めて私と各種業者との間の窓口を担当したユーリの頬は少し朱に染まりつつある。私にもこんな頃があったわね〜。今ではこんなにふてぶてしくなっちゃったけど。あら、いけない自虐ネタだわこれ。
「じゃ、ユーリ。あなたが一番最初に見なさい。ほら、扉を開けて。」
「はい!」
そして、私の目の前に現れた光景は
「・・・どういことよ、これ」
※※※※※※※
「で、どういう事です?王様?」
「なにがだ?」
「この時期、執務室に、この語調で王妃が来ているのです。導き出される答えは?」
「仕事の話だな。しかもよろしくない方針で」
「よって?」
「内装か。」
余裕だな、この男。こっち見なさいよ。はんこ押し続けてんじゃないわよ。と言うわけで一時的に没収。
「人の話は目を見て聞きなさい。って習いませんでした?」
「…俺に何をして欲しい?」
「まず理由を。理由をお聞かせください。」
私が内装を見た後直行でここに来た理由。それは仕上がった内装が私の出した最終案、決定案と別物になっていたからだ。ユーリが各業者に発注するまでは異常はなかった。直ぐにまだ王城内にいた業者を呼び戻し事情を聞くとどの店も後から変更通知が届いたという。・・王の名で。
「理由な…そうした方がいい。と思ったからだ。」
…どうしました?軍神、冷酷非道、ツンドラ国王よ。あなたはそんなに傲慢な人だったでしょうか?
「あれは誰の案です?誰の言葉を聞いてそうした方がいいと思われたのです?」
比較的シンプルな趣味のあなたの考えじゃない事くらいお見通しよ!そしてだいたい誰に言われたのかも。
「…レイアだ。和やかな雰囲気で出来たらいい。と話したら白や金は冷たい感じがするから暖色で統一するべきだと。共存を主張するためにお互いの国の色もふんだんにつかった方がいいと提案されたんだ。」
なるほど。私と真逆では無いけれども少し距離のある思考ね。屈辱だわ。
私たちが時間をかけて考えた案が一夜の女の一言で一蹴される。それも不愉快だが、そんなことはこの世界では多いし、(私の母国ではしょっちゅうなのよねー。だから喧嘩ばっかり。)慣れている。だが何が屈辱的かって、優秀な王であると判断していた私の判断力の甘さを思い知った事。そしてユーリの初仕事がこんな風な形になってしまった事。あの子の会議室に行くまでの朱に染まった頬。その後の『自分の失態では』と脳裏をよぎったであろう青い顔。そして王様の御沙汰と知った時の『なぜ王妃様に知らされていないのでしょう』と私のために再び頬を朱に染めた頬。そんな表情を思い出すのが辛い。
「そうですか、そうでしたか。」
そんな私に屈辱を味あわせた王でも、絶対王政のこの国で彼は文字通り絶対的な存在。そして私はその王を支える王妃、どんな物事にも笑顔で対応してみせる。
「では私から王様に2つ申し上げます。1つ、内装に関してはテーブル装飾を私サイドでやらせていただきます。これが妥協案です。2つ、このような事は早めにお伝えください。君子の2言は聞きたくありませんわ。では、私はこれで。」
有無は言わせない。王の行為は王妃の行為。王の失態は王妃の責任。・・たとえ本人が失態と思っていなくても。
王の執務室を出ようとした時、
「王妃。お前は『優秀な王妃』だったな。」
冷静な声だった。思わず後ろを振り返る。でもそこには先ほど没収した書類を見ながらコーヒーをすする王の姿しかなかった。
もしかしてこの男…いや、まさかね。
部屋を出ると居心地悪そうな顔をしてユーリが立っていた。
「待たせてごめんなさいね。」
「いいえ。そんなことは。」
「ありがとう。さっ、帰ったら仕事よ!!」
「え?」
「内装の。」
「でも・・・」
「テーブル装飾は私たちがやる事になったの。・・テーブルクロスに蔦があしらってあったでしょう?でも公爵家の方々はみな蔦がお好きでないのよ。ったくあの王ときたら・・」
「そうなんですか!?」
「さあ急ぐわよ!もうひと頑張りしなくちゃ!!」
「はい!」
よし。ちょっとは元気になったかしら?
絶対にこの子達は守ってみせるわ。あの慇懃無礼王め。そしてあなたのことも、無能な王とは呼ばせたくない。私の願いは届くかしら?




